「心理的安全性」という言葉をご存知だろうか。Googleのリサーチチームが「心理的安全性が高まればチームのパフォーマンスと創造性が向上する」と発表して以来、このキーワードに注目が集まるようになった。

そもそも心理的安全性とは何か? 職場で上手に活用する方法はあるのだろうか? このほど都内で開催されたセミナーで、専門家であるリクルートマネジメントソリューションズ組織行動研究所・主幹研究員の今城志保氏が解説した。

  • リクルートマネジメントソリューションズ組織行動研究所の今城志保氏

    リクルートマネジメントソリューションズ組織行動研究所の今城志保氏

職場でこんなこと、ありませんか?

冒頭で今城氏は、心理的安全性について「単なる仲の良い居心地の良い職場、として捉えられがちですが違います。また、職場の心理的安全性を高める処方箋が存在しているわけでもありません」と切り出した。

  • シナリオ1~ある職場で~

    シナリオ1~ある職場で~

まず、具体例としてシナリオ1を紹介。「ぜひ、自分の意見やアイデアを出して欲しい」という上司のAさんに対して、部下のBさんは「特にありません」と答える。このときBさんの深層心理には「アイデアがないわけではないけれど、Aさんは良いアイデアじゃないと認めないだろうから。言っても否定されるのは嫌」という考えが働いている。

  • シナリオ2~ある職場で~

    シナリオ2~ある職場で~

続いて別の例としてシナリオ2が紹介された。「困っていることがあれば言ってください」という上司のAさんに対して、部下のBさんは「大丈夫です」。実際のところBさんは困りつつも、もう少し自分で頑張りたい気持ちがあった。しかし、Aさんには「途中で修正するのは大変なので、困っているなら早く言って欲しい」という気持ちがある。

「AさんとBさん、どちらが間違っているわけでもありません。でも、こうしたボタンのかけ違いは、しばしば職場で起きています。解決策としてはAさんとBさんが話し合い、どこで折り合いをつけるかその都度、決めていくことです」と解説。そして、もし心理的安全性が高い職場であれば、それも可能になると指摘する。

そもそも心理的安全性とは?

  • 心理的安全性の学術的な定義

    心理的安全性の学術的な定義

そもそも心理的安全性は、Edmondson教授により1999年に提唱された概念。要約すると「チームにおいて、発言することを恥じたり脅威に感じない。その信念をメンバーの全員が共有できている状態」としている。

Googleの研究では、心理的安全性が上がった職場では業績が向上するとしている。実際の職場では、どんな良いことがあるのだろうか。今城氏は「企業にとって望ましい効果がある」としつつ、誤解されがちなポイントについても解説した。

「仕事の満足度が上がり、仕事に熱心に取り組むようになり、自組織に誇りを持つようになるなど、望ましい効果があります。業務を前に進めることについて、ポジティブな効果が期待できるというわけです。けれど、職場のメンタルヘルスの改善につながるか、という研究はあまりされていません」

  • 心理的安全性によってもたらされる効果

    心理的安全性によってもたらされる効果

また、「創造性が向上するか」についても評価は控えめ。

「心理的安全性が高いチームは、確かに組織の知が高まります。ただ、Googleのように、とびきりの知恵が飛び交う職場でない限り、創造性の向上にストレートにはつながらないかと思います」

  • 心理的安全性を把握する単位は「個人レベル」と「集団レベル」

    心理的安全性を把握する単位は「個人レベル」と「集団レベル」

なお、心理的安全性を正確に把握するには「個人レベル」と「集団レベル」を別々に考える必要があるとのこと。ともすると、集団の概念としての心理的安全性に注目が集まるが、「個人レベルで考えるほうが心理的安全性は実践しやすい」と今城氏。

心理的安全性に影響をおよぼす要因として、個人レベルで大きいのが「リーダーとの良好な関係性」「裁量が大きく明確な仕事」「支援的な組織風土」だった。管理職は、この結果を自分の職場に活用することができそうだ。

  • 心理的安全性に影響をおよぼす要因

    心理的安全性に影響をおよぼす要因

では、心理的安全性の高い職場はどこにあるのだろうか。国内の企業で調査した結果、職種や業種、企業の規模、年齢、性別などにより、顕著な違いは見られなかったという。そして同じ職場においても、心理的安全性を感じる程度には個人差が認められた。

特に個人差が激しい職場においては、職場全体の心理的安全性は低まる傾向にあった。裏を返せば、心理的安全性の認知が低いメンバーとコミュニケーションを多くとり、立場の弱さを感じさせないケアを行うことで、チーム全体の心理的安全性を高められる可能性があるそうだ。

  • 職種、業種、企業規模、年齢、性別では心理的安全性に大きな違いはなかった

    職種、業種、企業規模、年齢、性別では心理的安全性に大きな違いはなかった

例えば、「誰でも助け合うことが普通」の職場だったら? 常日頃から「援助を要請しても相手の迷惑にはならない」との思いをメンバー間で共有できていたら?

先のシナリオで部下のBさんは、頑張りたいという気持ちを置いたままで援助の要請ができただろう。また、上司のAさんも「何かアドバイスできることがありますか」と、そっと介入できていたかもしれない。「行動を変えるのは個人です。ただ個人の考えや思いには、周囲の人々が大きく影響します」と今城氏は話す。

最後にチームの心理的安全性を高めるため、以下のポイントを挙げてくれた。

■いつも発言しない人の発言を促す
■心理的安全性の個人間のばらつきに注意する
■上司と部下が良好な関係性を保つ
■(個人の仕事の特徴を鑑みつつ)支援的な職場風土を醸成する

組織行動研究所では、今後とも心理的安全性の効能について研究を進めて実践的な示唆を提供していきたい、としている。