元KARAで歌手のク・ハラさんが先月24日、ソウル市内の自宅で亡くなっているのが発見された。28歳だった。地元警察は自殺と断定し、ハラさんは以前からネット上の誹謗中傷に苦しんでいたとも報じられている。このように、韓国では有名人を書き込みなどで追い込む“指殺人”が社会問題化しており、日本国内でも悩まされている芸能人は少なくない。

元AKB48のタレント兼実業家・川崎希は10月、無法地帯と化しているネットの暗部に一石を投じた。匿名掲示板に悪質な書き込みをしたユーザーを情報開示請求で特定し、「今後は特定した人たちを民事、刑事で訴えていくということになります」とブログで報告。「ネットでの書き込みなどに悩む人がいなくなるようなモラルのあるネットの使い方が浸透していくようになりますように」とつづった。

芸能人への誹謗中傷は、どのような罪に問われるのか。井上圭章弁護士(弁護士法人グラディアトル法律事務所)に解説してもらった。

■脅迫罪や名誉棄損罪の可能性

――川崎さんは、妊娠出産を発表した時に「自宅で待ち伏せをしよう」「放火のチャンス」「子供を虐待している」などの書き込みをされたことをブログやフジテレビ系『ノンストップ!』で告白しました。芸能人に対するこのような書き込みは、どのような罪に問われるのでしょうか。

脅迫罪や名誉棄損罪などの犯罪に問われる可能性があります。

アイドルの交際や結婚に際し、一部のファンから、過激な書き込みがされるケースがあります。書き込みの内容次第では、刑事上の責任を問われるケースもあります。

「自宅で待ち伏せをしよう」や「放火のチャンス」といった書き込みは、知らない人に自宅前で待ち伏せをされたり、自宅に放火されたりするのではないかといった恐怖心を抱かせるもので、脅迫罪に問われる可能性があります。

また、好意又は怨恨の感情から書き込みがエスカレートし、相手の行動を監視しているかのような事項について書き込みするような場合、ストーカー規制法違反の罪に問われる可能性もあります。

「子供を虐待している」などの書き込みは、書かれた親の社会的な評価を低下させるもので、名誉棄損罪に問われる可能性があります。

――また、川崎さんは新居の住所をさらされたそうです。このように、第三者の個人情報を公開する行為は、どのような罪に問われるのでしょうか。

刑法上、犯罪が成立するとはいえないですが、民事上、不法行為責任を問われる可能性があります。刑法上、単に他人の住所を公開すること自体を犯罪とは規定していません。そのため、このような行為について、刑法上、犯罪に問うことはできません。

もっとも、芸能人やアイドルなどの場合、通常、どこに住んでいるかといった情報については通常非公開とされるもので、一般的に他人に知られたくない情報として、プライバシー権として法律上保護される利益と考えられます。このようなプライバシーに関する情報を公開する行為は、プライバシー権の侵害として、民事上、不法行為責任を問われる可能性が高いでしょう。

■悪質な書き込みをされた場合の対処法

――川崎さんは「発信者情報開示請求」を行いました。「発信者情報開示請求」の解説と共に、同様の被害を受けた人が取るべき対処法をお教えください。

発信者情報開示請求とは、インターネット上の掲示板やSNSなどの書き込みをした人がどこの誰なのか、どこを経由して書き込みをしたのか、といった書き込みをした人の情報について開示を求めることをいいます。

この発信者情報開示請求の方法には、大きく3つの方法があります。

まずは、サイト管理者やサーバーの管理者に対して、問い合わせフォームやメール等で連絡をとり、書き込んだ人物の氏名や住所などを開示するよう求める方法です。しかし、サイトの管理者やサーバーの管理者も、法的責任を負ったうえで、利用者の個人情報を管理していることから、開示請求に任意に応じることは少ないです。

そこで、次の方法として、プロバイダー責任制限法(正式には、「特定電気通信役務提供者の損賠賠償責任及び発信者情報の開示に関する法律」といいます)に基づく開示請求です。

この法律に基づいて、サイト管理者やサーバー管理者に対し、氏名や住所、メールアドレス、IPアドレス、タイムスタンプなどの発信者情報の開示を求めることができます。ただ、実際にサイト管理者やサーバー管理者が開示してくれるかについては、それらの管理者次第というところがあります。

これら任意での開示が出来ない場合には、裁判所に対し、発信者情報開示仮処分命令を求め、裁判をしていくことになります。裁判によって開示が認められた場合、相手方が管理している発信者情報を知ることができます。

これらの方法により開示された発信者情報(氏名や住所などの連絡先)を手掛かりに、損害賠償請求などをしていくこととなります。

ここで注意が必要な点として、IPアドレスやタイムスタンプなどの発信者情報については、3カ月から長くて半年で消去されてしまうことが多いという点です。発信者情報開示は、あくまで相手方が保有する発信者情報を開示するもので、消去されてしまうと意味がなくなります。

インターネット上の掲示板やSNSなどで誹謗中傷を受けた場合、できるだけ早い時点で、専門家に相談することが大事になってきます。相談する際には、書き込みがなされたサイトのURLと書き込みの内容が分かる資料(そのページの印刷、スクリーンショットなど)を保存し手元に持っておくとよいでしょう。

監修者: 井上圭章(いのうえよしあき)

弁護士法人グラディアトル法律事務所所属。弁護士法人グラディアトル法律事務所所属九州国際大学法学部卒業後、京都産業大学法科大学院修了。大阪弁護士会所属 。「労働問題」「男女トラブル」「債権回収」「不動産トラブル」などを得意分野とする。