12月2日放送の第9話で事件の舞台となるリストランテも、1回の放送のために作られたセットだ。密室のリストランテで起こった殺人事件を、フルコースが終わるまでに獅子雄が解決するというストーリーだが、センターの客席にいる獅子雄が、厨房も個室もバーコーナーも全部見えていないと謎が解けないことから、360度どこを見回してもきちんと作り込まれている。セットの中に入ると、そこは本物のリストランテと全く遜色ない。
このセットは、製作期間が限られていたそうで、「本当は撮影の2週間くらい前にプランニングして発注しなくてはいけないんですけれど、このリストランテは製作までに1週間もないという僕自身、なかなかない経験でした(笑)」と苦笑い。実際の店舗に行って参考にする時間もなかったそうだが、「自分の中でイタリアンは色目が派手だという感覚があるので、そういう色使いにすればできるだろうなと思っていました」と作業に臨んだ。
過去には『ソムリエ』(98年)、『dinner』(13年)といったレストランを舞台にしたドラマのセットも手掛けているが、「前にやったものを生かすと同じになっちゃうから、毎回新しくいろいろ考えてやっています」とのこと。注目ポイントを聞くと、「セットは明暗の作り方で決まるものなのですが、今回はいい陰影が作れました。短い期間でしたが、いいセットができたので良かったと思います」と語っている。
また、『シャーロック』で特徴的なセットと言えば「遺体安置室」だ。「海外古典の原作ということで、日本っぽくない色使いにしています」といい、具体的には「床と壁をブルー系にして、壁には薄めの茶色を入れたりしました」と工夫が施されている。遺体やキャストたち様子に目が行きがちな場面だが、独特の色合いのセットにもぜひ注目してほしい。
■セットに妥協しないフジ
テレビがデジタル化され、画質が向上したことで、美術デザイナーの界隈では「細かいところまで気をつかって作らなきゃいけないという傾向になった」というが、「結局、予算的にも限界があるので、元の感覚に戻っているんです」という。今後4K・8Kの時代が迫るが、「僕は本物志向なので、若宮のキッチン周りに使っているタイルもそうですが、実際のものを使っているんです。本物を使ったほうが確実だし、映りもいいですからね」と心配はないようだ。
「セットは単なる背景だと割り切って、離して見せるというやり方もありますが、フジテレビは妥協せずに、よく見せようという考え方があるんです」と言うように、一時代を築いた“ドラマのフジ”のDNAが生きている。
●柳川和央
デザイナー歴30年で、『ショムニ』『GTO』『白い巨塔』『ガリレオ』『モンテ・クリスト伯―華麗なる復讐―』『SUITS/スーツ』など、延べ140本ものドラマ・映画のセットデザインを手掛ける。来年1月クールの木10ドラマ『アライブ がん専門医のカルテ』も担当。