タレントの有村藍里が初主演する舞台『鶫 -Long for Spring-』(12月2日まで、東京・築地本願寺ブディストホールで公演中)。大人になりバラバラになっていた家族が、母が亡くなったことを機に集まり、両親ともにいなくなってしまった将来を話し合う。それぞれが自分の道を選ぶが、そんな中、母の残した遺言ともとれるカセットテープが出てきて…というストーリーが描かれる。
出演する有村、富山智帆、堀江一眞、宮原翔、鈴野智子、利咲、白井サトルに、本番が迫る稽古の合間に話を聞いた――。
■“家族への気持ち”に変化
幼少の頃、舞台である塩谷家の養女となった小鳥役の有村は、人の死をテーマにしている作品ということで、「最初はとても暗いお話なのかなと思っていました」という。しかし、「お葬式で家族や親戚が集まると、お母さんは亡くなったけど、みんなでワイワイガヤガヤ世間話をしたり、懐かしい話をしたりしていて、明るくコミカルな部分もあって、かなり印象が変わりました」と話す。
鈴野も「稽古を重ねるにつれて明るい話のイメージになってきました」といい、さらに、「今回の役が実際のお姉ちゃんと自分を合わせたような感覚なんです。だから、あのとき自分からは冷たく感じたお姉ちゃんの気持ちがすごく分かったので、ありがたい作品だと思ってます」と感謝した。
作品と同じような経験を実際にしたというキャストも。堀江は「中学生の頃、祖父が亡くなってリビングに棺があるところで、大人たちがお酒を飲んだりしてたので、『あの時の感じかぁ』って思い出しました」といい、白井も「1年前くらいに父親を亡くして、棺を前に家族がそろって、一晩中アルバムを見ながらにぎやかに思い出話をしたかと思ったらスンって沈んで、また盛り上がって、沈んで…っていう繰り返しがあったんです。(総合演出・脚本の)林(将平)さんは、それを知って今回の役を当ててきたので、『コノヤロウ、やってやるぞ!』っていう思いです」と、見返したい気持ちを込めているそうだ。
そして、今回の作品を演じて家族への気持ちが変わったと、どのキャストも口をそろえる。
宮原は「もっと親と会わなきゃとか、祖父母にも会っておかなきゃとか、それだけじゃなくてきょうだい間もそうですし、仲間や友達に対しても、つながりを大事にしていかなきゃいけないなとすごく感じました」と気付かされたそう。利咲は「劇中で、お母さんが子供の物を捨てられないというシーンがあって、私も子供の頃に母がとっておく物に『こんなのゴミじゃん!』って思ってたんですけど、母親にとってすごく大切なものだということがすごく分かりました」と理解したことを語る。
堀江は「この作品を演じて、本当に不謹慎なんですけど、自分の母が亡くなったらと想像して、泣けてきちゃうときもあるんです」とした上で、「この作品を見て、家族の仲が良い人は素直に涙が出ると思いますけど、仲が良くない人も、今からなんとかしてお葬式には集まれる状態にしたいと思ってくれると思います」と誰もが心を打たれることを予告。富山も「お客さんにそう考えてもらえたらいいなと思いますね」と期待を寄せた。
■人見知りから印象が真逆に
そんな今作で、舞台初主演に挑む有村への印象を聞くと、白井は「かなりの人見知りだと思うんですけど、稽古をしていくうちに印象が真逆に変わりました」、堀江も「Twitterに『きれいになることは誰にも迷惑をかけない』って書いてあったのに感銘を受けたので、勇気を持って『いい言葉ですね』って言ったら、『あっ、はい…』みたいな感じだったんですけど(笑)、最近は動画を撮ってくれたりして、こんなオチャメな面があるんだなと思いました」と、稽古を重ねるうちに打ち解けていった様子。
鈴野は「稽古に対して真面目に取り組んでいる姿がすごく見えました」、利咲は「繊細な雰囲気があるので、そこが役に合ってると思います」と好感を持ち、富山は「彼女の声がすごい好きなんです。透明感っていうんですかね。舞台で訓練してきた人たちとは違う声質なんです」と評価する。
さらに、富山は「お芝居の経験として先輩にあたる人たちがいっぱいいる中で、舞台初主演でトップを張らなきゃいけないというプレッシャーはすごくあったと思うんです。だから、硬くなるのは当然だと思ってたんですけど、女子だけで話すようになったらだいぶ砕けてきてくれて、表情も豊かになってお芝居がすごく変わったんです」と成長を実感し、宮原は「とにかく日に日に良くなっていくので、自分がついていけてるのか不安になっちゃうくらいなんです」というほど。
宮原が「最初はきょうだいたちにツンケンしてるんですけど、最後に見せる笑顔がめちゃめちゃかわいいんですよ!」と絶賛すると、一同も「かわいい!」と同意した。
そんな共演者たちの声を受け、当の有村は「私は母と妹とずっと暮らしていて、親戚付き合いも全然なくて、あんまり学校に行かなかったり、人とコミュニケーションをとってこなかったので、1つのことにたくさんの人と一緒に取り組んでいくということがすごい新鮮で、緊張してたんです。でも、今回『家族っていいな』っていうセリフがあるんですけど、心の中でもすごく思います」と、しみじみ語っていた。