ソフトバンク傘下でヤフーを擁するZホールディングスとLINEによる経営統合が発表された。時価総額1兆円を超えるインターネット企業の2大巨頭の統合で、今後のインターネットサービスがどのように変化するだろうか。

  • 2019年11月18日に、両社の経営統合に関する基本合意が締結された

ZホールディングスとLINEの経営統合では、それぞれの親会社であるソフトバンクと韓国NAVERが50%ずつを出資したジョイントベンチャーを設立してZホールディングスの株式を取得。ヤフーとLINEはそのZホールディングスの100%子会社となる。ZホールディングスとLINEは対等の関係とされ、現在のZホールディングス・LINE両社社長である川邊健太郎氏と出澤剛社長はCo-CEOとして共同CEO体制となる予定だ。

  • ヤフーとLINEの経営統合、PayPayとLINE Payはどうなる?

    経営統合に合意したZホールディングスの川邊健太郎社長(左)とLINEの出澤剛社長

Zホールディングスは、ヤフーによるポータル事業、ヤフーニュースなどのメディア事業、ヤフーショッピングなどのEコマース事業、PayPay、ジャパンネット銀行といった金融・FinTech事業、さらにAI事業や広告事業などを展開。LINEは、同様にLINEニュースなどのメディア事業、LINEショッピングなどのEコマース事業、LINE Pay、LINE証券などの金融・FinTech事業、AI、広告事業も同様だ。

  • 両社が展開する事業

サービス自体は両社で重複しているものが多い。それに対して、ヤフーはEコマースが強く、LINEはヤフーが持たないメッセンジャーサービスを持つ点が強みだと川邊社長は言う。

ユーザー層としては、若年層に強いLINEに対し、PCを使ったシニア層もカバーするヤフーという違いがあり、また台湾、タイ、インドネシアといったアジアに強いLINEの基盤を活用することで、今後の海外進出にも繋げたい考え。

ここで問題になるのは、今後の両社のサービスだ。実際の経営統合は来年10月までに完了するとしており、1年近い期間がある。その間は、「両社で切磋琢磨する」(川邊社長)。これまで通り、各事業で勝負を行っていくということで、これまでのサービスは従来通り継続されるだろう。

経営統合後に関して、今回の記者会見で両社は詳細を明らかにしなかった。例えば真っ向から対決しているPayPayとLINE Payのコード決済事業は、支払いができる加盟店を開拓し、ユーザーの利用を促進することにコストが大きいが、両社が共同で加盟店開拓を行い、プロモーションなどを実施するとコストが削減できる。

ところが、PayPayは中国Alipayと提携しており、LINE Payはライバルの中国WeChat Payと連携している。さらにメルペイ、au PAY、d払いとコードを共通化するMoPA(Mobile Payment Alliance)を結成している。PayPayとLINE Payがコードを共通化すると、このMoPAに参加する各社も利用できるが、独立して国内最大規模の加盟店開拓を進めるPayPayにとって、MoPAへの参画はメリットが薄い。

コードの共通化をせず、加盟店開拓だけを連携した場合は、MoPAによって他社の加盟店も広がることになり、PayPayにとっては敵に塩を送ることになる。PayPayの加盟店がLINE Payに開放されない場合、LINE Payにとってのメリットが薄い。PayPay以外は、加盟店数を競争単位とせず、共同で加盟店を開拓してそれ以外のサービスで競争する考えでアライアンスを組んでいるが、加盟店開拓で先行するPayPayにとっては加盟店数は一つの競争軸となっている。

LINEの出澤社長も、「MoPAは有意義な取り組みだが、(Zホールディングスと)基本合意の段階なので、今後各社と話してから(決定する)」としており、こうした戦略の違いを、経営統合後にどのように吸収するかは問題になるだろう。

川邊社長は、「統合まで競合関係として競争していく中で、最終的に最も支持されているサービスを、統合後はFinTechでも補完し合う」とコメント。加盟店開拓は別にして、LINEのサービスをPayPayに取り込むといった可能性もありそうだ。

現在進行中のLINE Bankの設立のように、進行中の事業への影響も気にかかるところだ。Zホールディングスにはジャパンネット銀行があり、2020年度に設立予定のLINE Bankは、経営統合後の開業となる。こうした点に関しても、現時点では明言されていない。

出澤社長は、LINEが目指す「スーパーアプリ」を紹介。LINEアプリを中心に、さまざまなサービスを統合して、LINEアプリを起点としてサービスにアクセスできる環境を目指す。PayPayも同様の方向性を示しているが、LINEアプリはメッセンジャーサービスのため「毎日アクセスして滞在率の高いアプリ」だ。LINEにはそうした優位性があり、LINEアプリからPayPayへの導線を作れば、両方のアプリを行き来してそれぞれが得意なサービスにアプローチできる。

LINEアプリを使っている人が、PayPayが使える店ではPayPayを起動して支払う。LINEのメッセンジャーで紹介されたPayPayモールの商品をLINE Payで支払う、といった連携はありえるだろう。

統合に際しては、既存サービスの統廃合もありえるだろう。出澤社長は「既存サービスの単純な組み合わせだけでも、経営統合の効果は十分に大きいが、それだけでは道半ば。本当に重要なのは一緒に作り上げていくこと。爆発的な大きさで新しいサービスが広がっていくこと。そういったものを作れるのかが重要。そういったチャレンジをしていきたい」と話し、単純なサービスの継続や統廃合だけでなく、新たな事業の開発を目指す考えだ。

最大手2社の経営統合では海外のIT大手への対抗も目指しており、そうした海外勢の構成をしのぐ魅力的な事業を生み出せるか。経営統合による新サービスの提供に期待したい。