(左から)佐藤二朗、常盤貴子、杉田成道監督 写真:C.ALMINANA

世界のドラマ市場では「時代劇」が今、トレンドでもある。多くの時代劇ドラマが欧米、中東、アジアなど幅広い地域で新作が作られ、世界中に輸出もされている。日本の時代劇作品はまだ本格的に海外展開が広がっていないが、ポテンシャルは十分にある。

そこで、2人にあらためて、日本の時代劇の良さを尋ねると、常盤は「今はクリエイターの皆さんにとって、作りづらい時代だと思います。大抵のことはスマホひとつで済んでしまう分、作りづらいのではないかと思うんです。そんな中で時代劇には夢があります。どの時代にも飛んでいけることが魅力的だと思います。これは日本の時代劇に限らず、どこの国の時代劇でも、モノがなかった時代が描かれますから、クリエイティブの脳内がものすごく自由に広がると思うのです」と、作り手の視点でその良さを答えてくれた。

一方の佐藤からは「時代劇に出演させてもらった数はそう多くはありません。『似合う』とはよく言われますけどね(笑)。(常盤)貴子ちゃんが話すように、時代劇は僕らの自由の発想が入り込む余地がある。作法など最低限の決まりはやりつつ、個人的には時代劇でもなるべく自由な発想で演じたいと思っています。作品にもよりますが、何だろう、生っぽくしたいと思っています。定型に入り込みたくないんです。時代劇が持つイメージをそのまま演じているに過ぎない…みたいなことに陥っちゃうのだけは絶対に避けたい」と、演技のこだわりが垣間見える発言が聞けた。

そして、日本の役者が世界で活躍する場も増えている。常盤、佐藤ともにカンヌに初来場となった今回、新たな刺激を得ることもあったのではないか。そんなことも質問すると、佐藤からこんなエピソードが聞けた。

「カンヌにいることをツイートしたら、それを見てくれたアメリカにいる小栗旬から連絡がありまして。『どうして今、フランス?』からチャットが続き、最後は『お互いに刺激を受けようと』と締めくくりました」。

  • 写真:MICHEL JOHNER 360 MEDIAS

■一歩踏み込むと知らない日本が広がる

海外にも活躍の幅を広げている小栗と、日本から離れた場所でやりとりしたことで、佐藤はさらに思うところがあったようだ。

「顔の彫りが浅いにもほどがある僕の場合、海外の方は顔として認識しないんじゃないか。壁と認識するんじゃないか(笑)。それは冗談ですけど、『人間の根源的なものは伝わるもの』と杉田監督が話していらして、僕もまったくもってそう思う。真にいいものは海を越える。だから、遠慮なく世界と戦ってもいいのかな。仕事でもフランスは今回初めてだったんですが、実は続けてポーランドに行くんです。監督した作品『はるヲうるひと』(主演・山田孝之、日本公開は来年予定)が、ワルシャワ映画祭の1-2コンペティション部門に正式出品されまして。海外にこれまで縁がなかったのに一気にたまたま続いちゃってます。今まで海外のことは考えていなかったのですが、年が50にもなるし、引っ込み思案にならずに、遠慮なく世界にいってもいいのかなと思っているところです」。

  • 写真:MICHEL JOHNER 360 MEDIAS

また、フランスとなじみのある常盤からはこんな思いが聞けた。

「NHKのフランス語講座の撮影でニースをベースに2週間ほど、アビニオンをベースに1週間ほど滞在したことはあったのですが、カンヌには来れなかったので、今回が初めて。ただ、海外に行くようになると、かえってどんどん日本が好きになっていくんです。どんどん日本を知りたくなる。日本ってステキだなって。レッドカーペットで着させてもらった着物に海外の方々が反応してくれ、そこでも日本の着物の意味を感じました。ドラマ『帰郷』の中で描かれた『(日本を舞台にした)世界観にも意味がある』と言われるたびに、追求していってもいいじゃないかと思いました。一歩踏み込むことで、私の知らない日本が広がるのです。そうした発見が外国に来ると新たに発見でき、教えてもらえる。ますます日本に対する興味が深まります」。

最後まで、丁寧に語ってくれた常盤、佐藤の2人。この後も、世界ヒットを生みだす地であるカンヌでプロモーション活動は続いた。

  • MIPCOM会場 (C)S. CHAMPEAUX - Image & Co

■著者プロフィール
長谷川朋子
テレビ業界ジャーナリスト。2003年からテレビ、ラジオの放送業界誌記者。仏カンヌのテレビ見本市・MIP現地取材歴約10年。番組コンテンツの海外流通ビジネス事情を得意分野に多数媒体で執筆中。