今年9月、障害・性・世代・言語・国籍などのあらゆる境界を越えるパフォーミングアーツの祭典として「True Colors Festival - 超ダイバーシティ芸術祭 -」なる催しがスタートした。

同フェスティバルでは、2020年7月までの約1年間を通じ、ダンス・ミュージカル・ライブ・演劇・ファッションショーなど、多彩な身体表現によるシリーズ「True Colors パフォーミングアーツ」を展開していくという。

  • 「True Colors Festival - 超ダイバーシティ芸術祭 -」の第2弾、「True Colors BEATS ~Uncountable Beats Festival~」が開催!

10月22日には、その第2弾となる「True Colors BEATS ~Uncountable Beats Festival~」が日本財団ビル(東京都港区)にて開催された。

今回は、同イベントのレポートを通し、主催である日本財団のさまざまな取り組みを紹介する。

ハンド・サインで奏でる音楽が象徴するパフォーミングアートの力

すべての人が「True Colors=ありのまま」で居場所がある社会の実現を目指し、アートを通じて多様な個性と出会うことで、新たな気付きを得る機会を創出する「True Colors Festival」。同フェスティバルは、50年にわたり社会的マイノリティ支援を行う日本財団が2006年から開催してきた「国際障害者芸術祭」が原型となっている。

日本財団でTrue Colorsチーム、リーダーを務める青木透氏は、「『国際障害者芸術祭』は、特に“被支援者”という障害者のイメージが強い東南アジアで、障害を持つアーティストが自己表現するための場づくりを主な目的としていました。そこで障害の有無を問わず多くのアーティストが互いのリスペクトに基づいて、共にステージ上でひとつの表現を生み出すために共演する姿を目の当たりにし、パフォーミングアートの可能性を感じました」と、「国際障害者芸術祭」から多様な個性と背景を持つ人たちが共につくる芸術祭へと発展した経緯を振り返った。

  • 12:00~18:00までプログラムが盛りだくさんの同イベント

「True Colors Festival」第2弾では、アルゼンチン出身の音楽家、サンティアゴ・バスケス氏をイベント・ディレクターに招聘。同氏は、ハンド・サインにより音楽的スキルや言語、年齢に関係なく複数演奏者の即興演奏を可能にする「Rhythm with Signs」という手法を開発したことでも知られている。

そんなサンティアゴ氏はイベント冒頭のトークセッションで、「音楽のロジックは多様な文化のより根幹のところにあって、人間の生理的な部分にとても深く結びついています。私が使うハンド・サインはさまざまな背景を持つ人が集まったグループの指揮者が即興音楽を生み出すためのツールで、音楽の普遍的な概念を表す言語とも言えるでしょう。サッカーや野球などのゲームは、そのルールを共有できれば誰でも一緒に遊ぶことができますが、『Rhythm with Signs』による音楽はボールの代わりに音やリズムを使ったゲームのようなもの。このハンド・サインを学ぶことで誰でも演奏に加わることができ、一人ひとりの個性を活かした表現ができます」と、「Rhythm with Signs」について紹介した。

  • 同イベントのディレクターを務めるサンティアゴ・バスケス氏

同氏はダイバーシティの実現に向けた取り組みにおいて音楽が果たせる役割の大きさを、「音楽は私たちが一緒にいるということを感じる上でとても有効なツール。音とリズムで空間が振動して、その振動が私たちの耳に伝わり、ハートに届く。音楽は何かの意味を表象するというより、もっと深い存在のところで呼応するもので、言語や文化に制限されない普遍的なものとして音楽がある。そう考えると音楽はすごくパワフルだし、音楽を通して調和が生まれるのではないかと思います」と語った。

イベントに先立ち行われたサンティアゴ氏のワークショップには、公募で集まった約100 名の応募者と本番に出演するアーティストが参加。ハンド・サインは全部で約140種類あり、応募者はワークショップでそのうちの30種類ほどのサインを学んだという。

  • サンティアゴ氏のハンド・サインでワークショップ参加者たちが即興演奏を行うさまは圧巻のひと言

本番のライブパフォーマンスでは、コムアイ(水曜日のカンパネラ)やフアナ・モリーナといったゲスト・アーティストたちとワークショップ参加者たちがサンティアゴ氏のハンド・サインを介して、思い思いの楽器や表現で言語を超えた即興演奏を行っていた。

  • コムアイ(水曜日のカンパネラ)など豪華なゲスト・アーティスト陣にも注目

日本社会が直面する「ダイバーシティ&インクルージョン」の現状

ダイバーシティ(多様性)を尊重し、異なる価値観や能力をインクルージョンする(受け入れる・活かし合う)ことで、新たな価値創造や一人ひとりが活躍できる社会を目指す「ダイバーシティ&インクルージョン」という考え方をご存じだろうか。

日本財団が今年8月に発表した意識調査では、その言葉の意味を知っている人の割合は30.0%に留まり、その一方で、社会的マイノリティに対する差別や偏見、「心の壁」を感じた経験を持つ人は7割以上にのぼるという結果が得られたとのこと。

「心の壁」の具体的な感じ方としては「会話など通常のコミュニケーションが取りづらいだろうと思った」が54.8%で最も多く、次いで「日常的な行動や仕事などできないことが多いだろうと思った」49.8%、「自分とは価値観が大きく違うだろうと思った」40.5%の順となった。

「昔ながらの街並みを多く残すヨーロッパなどは、車椅子の方や視覚に障害のある方は移動しにくいといった課題もあり、諸外国と比べても日本のバリアフリー環境、とりわけ東京はハード面で非常に進んでいます。ただ、欧米あるいは経済的に発展途上・新興国と言われているような国と比べても、困っている人を見ても知らない人に声をかけることを躊躇う日本人は多く、当事者から『心の壁』の高さを体感してしまうといった話をよく聞きます」(青木氏)

「ダイバーシティ&インクルージョン」を日本に浸透させる上では、ソフト面でのハードルとなっている「心の壁」を取り除くことが不可欠なようだが、先の意識調査では「社会的マイノリティとより多く、深く関わった経験を持つ人は、そうでない人に比べ『心の壁』を感じづらい」という結果も示されている。こういった現状も踏まえ日本財団は、イベントなどを通じて新たな出会いと体験を共有できる場の創出を目指すとしている。

NYブルーノート・レーベルで最年少のリーダー録音記録を樹立した松永貴志氏がディレクションする「True Colors Festival」第3弾では、天才ピアニスト・紀平凱成氏をはじめ、障害のあるゲストミュージシャンがジャズ・セッションを行う予定だ。

「紀平さんは自閉症ということで、特に第3弾では目に見えない障害がある人、障害の一方で特別な才能を持つ人たちに焦点を当てていきます。我々が考えているのは、あえていろんなジャンルや場所でイベントを催し、トライ&エラーをしながら知見を蓄積していくこと。2020年以降、さまざまな障害があっても、あるいは言語を理解できなくても、誰もが楽しめるイベント運営や場づくりのために必要な施策をまとめ、そのノウハウを多くの人たちに提供していきたいです」(青木氏)

  • 会場内には「ゆずりあいゾーン」も設置

  • タイムスケジュールなどの情報が記載された点字チラシも

会場内には点字チラシが置かれていたり、トークセッションには手話通訳の方が入っていたりと、随所に思いやりのある多種多様な工夫が。2020年に開催されるオリンピック・パラリンピックは、都市のバリアフリー化を進める契機とも言われている。同フェスティバルに参加すれば、そういった取り組みに楽しみながら触れることができ、新たな価値観やたくさんの気付きが生まれることだろう。

  • パンの耳を使って作った「bread beer」。ほんのりパンが香る美味しいビールを飲んで、食品廃棄問題へ貢献できる

  • オフィシャルグッズも豊富に展開

  • 大盛況のうちに幕を閉じた第2弾。次回の開催にも乞うご期待