"バカ映画の巨匠"河崎実監督の最新映画『ロバマン』の完成披露上映イベントが10月6日、渋谷ユーロスペースで開催され、舞台挨拶に河崎監督と、主演の吉田照美ほか主要キャストが登壇し、前代未聞の"高齢スーパーヒーロー"が活躍する本作のお楽しみどころを語りあった。
『ロバマン』とは、ラジオパーソナリティー、テレビ司会者など多方面で活躍するフリーアナウンサー・吉田照美が68歳を迎えるのを記念して作られた映画作品である。「ロバ」のニックネームで有名な吉田だけに「ロバ=68」ということで、正義のヒーローを描いた本作のキャラクターデザイン(加藤礼次朗)では、胸の部分に「68」の数字があしらわれている。
吉田にとってメモリアルな「68(ロバ)」イヤーである2019年、かねてから吉田と親交が深い河崎実監督が、吉田を主演にしたヒーロー映画の企画を打ち立てた。かつて『ギララの逆襲 洞爺湖サミット危機一発』(2008年)『アウターマン』(2015年)『大怪獣モノ』(2016年)で巨大怪獣・ヒーロージャンルの濃密なパロディ映画を手がけた河崎監督が、こんどは「等身大ヒーロー」をモチーフにして、痛烈な"社会風刺"をも織り交ぜた新時代のヒーロー映画を生み出している。
定年を過ぎ、毎日これといってやることのない平凡な男・吉村公三。彼の唯一の楽しみは、街で見かけた態度の悪い者たちのことをハガキに書き、ラジオ番組に投稿すること。現実では他人に注意などできない小心者の吉村は、ラジオネーム「ロバマン」として投稿が読み上げられるときだけ、ヒーローの気持ちになるのであった。
そんなある日、吉村は空に浮かぶ謎の飛行物体に吸い込まれてしまう。中ではロバそっくりの宇宙人ロバート星人が、吉村を仲間だと勘違いし「迎えに来た」と呼びかけた。とんでもないと断る吉村を見たロバート星人は「そんなに地球人が好きになったのか」と勝手に納得し、彼に腕輪型の「蘇生装置」を与えてリフレッシュをうながした。その日から吉村は、この世にはびこる「悪の波動」を大きな耳でキャッチし、鉄拳制裁を加える「ロバマン」のスーパーパワーを得て、自らの信じる正義のために奔走することになった。
歩きスマホに夢中な男子学生、タバコのポイ捨てをする男、人気ラーメン店の行列に横入りする男から、アポ電詐欺の実行犯、パワハラ上司、セクハラ上司、国民の苦しみを無視して遊興にふける腐敗政治家まで、事の大小にかかわらずロバマンは各地に駆け付け、彼が「悪」と認めた者たちを全力で殴り倒していく。そんなロバマンの行いについて、正義のヒーローだと称える者、単なる暴力だと批判する者と、世間の評判は真っ二つに割れた。しかしロバマンは気づいていなかった。この世を覆い尽くすほど巨大な悪の波動を生み出している邪悪な敵「オールナイト星人(演:笑福亭鶴光)」の暗躍を……。
本作のメガホンを取った"バカ映画の巨匠"として世界的にもファンが多い河崎実監督は「この映画、暴力シーンが多いですからね! タランティーノ作品より多い!」と、ロバマンが悪人をとにかく殴りまくるバイオレンスアクションが見どころだと語って笑いを取った。
今回の『ロバマン』はもともと30分の短編作品の予定だったが、吉田照美の年齢「68歳」にちなんで約68分へバージョンアップするべく、クラウドファンディングが行われた経緯がある。河崎監督はこれについて「ふつうの映画監督は、尺を短くするためにいろいろ考えているんだけど、僕は"長くする"のに苦労したんだよ!」と笑顔で語った。
映画の内容について河崎監督は「今の世の中、悪が蔓延していてヒーローがなかなか現れない。世間は真っ暗です。そこで照美さんがヒーローに変身して悪をぶっ飛ばす! という、社会派メッセージを込めた痛快ヒーロー作品を作りました!」と説明。ロバマンのデザインからうかがえるように、河崎監督が"憧れのヒーロー"と称える『8マン』をベースに、鉄腕アトム、鉄人28号、スーパージャイアンツ、海底人8823(ハヤブサ)といったスーパーヒーローの要素をぶちこみつつ、68歳の吉田ならではのペーソスをたたえたヒーロー映画が出来たと胸を張った。
主演のロバマン=吉村公三を演じる吉田照美は、70~80年代に文化放送ラジオ『セイ!ヤング』『てるてるワイド』で若者層から支持され、テレビでは『夕やけニャンニャン』(フジ)『ぴったしカン・カン』(TBS)などで司会を務めてお茶の間の人気者に。現在もラジオ番組のレギュラーをはじめ、多彩な番組で活躍している。
今回の完成披露上映会には、ラジオ番組のリスナーとして吉田を応援し続けている熱心なファンが大勢かけつけているという。吉田はファンに向け「クチコミでどんどんこの映画『ロバマン』を盛り上げてほしい。Twitterでどんどんつぶやいてください! 今日の帰りにも道すがらロバマン面白かった!と叫び続けてください」と、これからの応援次第では全国劇場での公開も夢ではない!と興奮気味に応援を呼びかけた。
人間社会を邪悪な感情で覆い尽くし、悪のエネルギーを求める最大の敵「オールナイト星人」を演じるのは、70~80年代のニッポン放送ラジオ『オールナイトニッポン』(土曜)やMBSラジオ『ヤングタウン』(木曜日)で若者たちに絶大な人気を誇ったほか、現在も円熟の活躍を多方面で繰り広げる上方落語家・笑福亭鶴光。
鶴光は「僕は最初、女子社員のお尻を触るセクハラ上司の役だったけど、いつの間にか悪役に」と、師匠の絶対的存在感と、冴えわたるエロトークの凄みゆえか"巨悪"という重要なキャラクターにチェンジしていたことを明かした。河崎監督は鶴光の悪役演技について「師匠の演技がよかった。まるでクリストファー・リーみたいだった。目がずっと充血しているところとか」と、往年の怪奇映画俳優の名を出して鶴光の"怪演"を絶賛した。
文化放送のラジオ番組「吉田照美ソコダイジナトコ」で吉田のアシスタントを務め、現在はTBSテレビ『サンデーモーニング』で知的な魅力をふりまいている唐橋ユミは、今回の映画ではなんと、鶴光演じる「オールナイト星人」の秘書として、日本各地にうごめく"悪"の動きを操作する役柄で出演。
映画の設定として"オールナイト星人は日常の挨拶と同じくらい気軽な感じで、女性に乳頭の色を尋ねる"というものがあるが、河崎監督からは「いやあ鶴光師匠と言えば『乳頭の色は?』というセリフでしょう! でも唐橋さんの事務所はお堅いところですから『乳頭大丈夫ですか?』と確認しました!!」と、唐橋に失礼のないよう事前に事務所確認を行ったことが明かされた。
映画には吉田とラジオ番組『親父熱愛』で共演中の大ベテラン俳優・伊東四朗も出演しているが、唐橋は伊東から「あなたは、こういう仕事もするんですね」と、コメディ映画へのチャレンジにたいそう感心されたことを打ち明けて爆笑を誘った。
ロバマンが出没する北川町を取材しに来たテレビレポーターとして、本人役で出演している中村愛もまた、bayfmのラジオ番組『TERUMI de SUNDAY!』で吉田のアシスタントを務めていた。中村は本作の撮影について「柴又の駅(ロケ地)に着いて、ものの3分くらいで『じゃっ、撮るよ!』と言われてビックリしました」と、河崎監督の驚異的な"早撮り"テクニックに驚きを表していた。
また中村は「唐橋さんが羨ましかった! 私も鶴光師匠に"聞かれたい"です」と、舞台上で"乳頭の色は?"のリクエストを鶴光に行い、客席を盛り上げた。すかさず鶴光が「聞きながらこのへん(客席)回りまひょか」と大サービス発言をしつつ、独特の言い回しで「乳頭の色は?」を披露すると、中村が「初めて聞かれました!」と感激しながらコメント。すると吉田と河崎監督から同時に「当たり前だよ! 普通は聞かれないよ!」と鋭いツッコミが入った。
映画では、吉田の演じるロバマンが『8マン』よろしく北川町を全力で疾走するシーンが大きな見どころとなっている。河崎監督によると「撮影の日は雨が降っていてね、照美さんが滑ってコケないか心配でした。この映画は低予算だから、照美さんがコケると……」と言おうとした瞬間、鶴光が「照美さんコケたら、この映画もコケまんがな」と絶妙な合いの手が入り、客席を沸かせた。劇中でのロバマンの"走り方"が非常に個性的なのだが、吉田は「68歳で、あんなコスチューム着せられて、まともに走れる奴がいたら出てこいよ!」と、動きにくいヒーローコスチュームでのアクションに苦労させられたことを明かした。
映画『ロバマン』出演者は小池美波(欅坂46)、熊谷真実、伊東四朗(特別出演)、HEY!たくちゃん、なべやかん、タブレット純、福本ヒデ・山本天心(ザ・ニュースペーパー)、川島ノリコ、水谷加奈、国本鐘建、みうらじゅん、月光仮面(友情出演)、秀島史香(ナレーター)ほか。主題歌「ロバマンのうた」エンディングテーマ「明日へのバラード」(作詞:湯川れい子/作曲:伊秩弘将/編曲:佐久間誠/歌:吉田照美)は11月にCDが発売される予定。
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