地方出身者の2人の女性が東京で過ごす、何気なくも感傷的な夜が描かれた漫画「Swimming Through Us -煙草を吸う-」がツイートされ、話題を呼んでいる。作者は、Twitter、pixivなどで漫画やイラストを投稿しているzinbeiさん。どこか浮遊感もある世界観と作風で、東京郊外の夜の一幕が描き出され、好評を得ている。

登場するのは、地図制作の仕事をしながら絵や漫画を描く東京・多摩地域に住むタテワキ(25)と、理論物理学を研究する博士課程の学生で神奈川・横浜在住のかんな(26)。2人とも山形・庄内地方出身で中高のクラスメイトだ。物語は22時、自室の暗闇の中で漫画の制作に勤しむタテワキのもとに、かんなが牛丼を持って訪れる場面から始まる。

創作に没頭するあまり「うしたべたい」とだけ残した電話に心配したかんなは、タテワキに進捗を尋ねながら、電気を点ける。2人は卓で丼を食べた後、作業を再開。かんなは学会の用意を進めるため、ノートパソコンを広げる…が、それより先に煙草を吸うと告げる。そんな彼女にタテワキは「うちにくるとき、いつもどこまで吸いに行ってるの」と聞くと、水辺が好きだという言葉と共にかんなは「多摩川」と答える。興味を引かれたタテワキは、同行を願い出る。

  • zinbeiさんによる漫画「Swimming Through Us -煙草を吸う-」1ページ目~4ページ目(左から)

外は寒く、2人は長袖。タテワキは「こんな街深夜に1人でよく歩いてたねぇ…」と感心するが、かんなは「君が住んでる穏やかな街でしょうが」とツッコむ。しかし「ここは東京だよ」とタテワキ。「善意がマックス100だとしたら地方は20~80、都会には0~100の人がいると思う」と怯んでしまう。途中、コンビニに寄ってタテワキは「この街の夜にはモヒートが一番似合う」と何本か酒を買っていく。

真っ暗の多摩川に着いた2人。「こんなこともあろうかと!」とタテワキは、潜ませていた懐中電灯を光らせる。リトルシガーを取り出したかんなに、彼女は「1本ちょうだい」とねだる。タテワキはゆっくりと煙草を火にかざしながらも突然、「あれやろ! シガーキス!」と、かんなの煙草に自分の分から火を移そうとするが、「この…腐女子は全く…あまり近付きたくない顔してるから無理」と拒まれてしまう。「はー…」と、束の間の一服。慣れた手付きで煙草をのむタテワキに、かんなは「もしかして煙草吸ったことある?」と尋ねる。

  • 漫画「Swimming Through Us -煙草を吸う-」5ページ目~8ページ目(左から)

「あるよー昔彼氏の影響で」とタテワキ。意外だというかんなに「私にも誰色かに染まりたい時期がありましてよ」といたずらっぽく口にする。酔いが回ってきた彼女は、多摩川の対岸で光る街の灯りが、何かに似てると思い出す。タテワキの脳裏に浮かぶのは、地元・庄内平野の景色。幼い頃、祖母の家から遅く帰る時、田んぼの向こうの集落の灯りがともる風景と、眼前の光景がオーバーラップする。

対岸の方に煙草を向け、タテワキは小さな"灯り"をそこに一つ加える。そこで彼女は「…あの頃は全然わかってなかったけど」と切り出し、「煙草って瞑想かもしれない。百害あって~っていうけどさ」と漏らす。「一利くらい見つかったようで良かったよ」と、かんな。「…ちょっと散歩する?」と酔ったタテワキを誘い、「私にとってはもう煙草は息継ぎみたいなもんだけどね」と告げる。「それはちょっと困るよ~…長生きしてくれ…」とタテワキ。その左手は懐中電灯を、右手はかんなの背中をつかんでいる。そんな彼女に、かんなは「努力するよ」と苦笑する…。

  • 漫画「Swimming Through Us -煙草を吸う-」9ページ目~12ページ目(左から)

リプライには「こーゆー世界観すき」「なんか…いいですね、雰囲気がすき」「大学時代思い出してしんみりする…」「何気ない日常の話なのにとても面白いです。善意の数値もなんとなくわかる」「ん~この煙草ならではの雰囲気、ただの夜ではないこの感じが好きです!」としみじみ感傷に浸るコメントが。中には「庄内の車からの風景も多摩川もわかる。ありがてえ」「思いもかけず、2人の出身地が生まれ故郷というので読んじゃって、それで面白い…」と、彼女らと同郷ゆえに深く共感したという意見も見られた。

この漫画の作者はTwitter、pixivなどのSNSで漫画やイラストを投稿している、zinbeiさん。自身のサークル「瀝青の海」として各種イベントに参加。『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝』などの公式アンソロジーコミックに寄稿もしている。学研による情報サイト「Getnavi web」では『ほろ酔い道草学概論』を連載していた(現在は休載中)。