女優の上野樹里が主演するフジテレビ系月9ドラマ『監察医 朝顔』(毎週月曜21:00~)。上野演じる朝顔が監察医として事件や遺体と向き合う姿に加え、夫役の風間俊介、娘役の加藤柚凪、父役の時任三郎と繰り広げるホームドラマ、そして東日本大震災で消息を絶った母への思いを丁寧に描き、視聴率も好調に推移している。

そんな同作に対し、Twitterなどでエールを送り続けているのが、原作の作画を担当した漫画家の木村直巳氏。撮影現場を訪れた同氏にインタビューすると、何度も「いちファン」と公言し、キャラクターのイメージや設定の変更を評価するなど、ドラマの制作スタッフ・キャストに全幅の信頼を寄せていた――。

  • 『監察医 朝顔』主演の上野樹里

    『監察医 朝顔』主演の上野樹里 (C)フジテレビ

■初回放送は正座して視聴

――まずは、原作漫画の作画をすることになった経緯から伺わせてください。

当時の担当編集者が、法医学者の佐藤(喜宣・杏林大学医学部名誉教授、原作監修)先生と知り合い、法医学者の物語を漫画にできないかと考えて企画を持ってきて、とりあえず僕がネーム(構図)を1本作ったんです。でも、それが通らなくて、原作者をつけてみようということで香川(まさひと)さんを紹介されました。そのシナリオには親子の物語が描かれていて、これはいい感じだなと思ったんですよね。

――それで、実際に作品が動き出したんですね。

原作と作画が別になると、僕の思いとマッチする、同じような気持ちで描いてくれる人が少ないんですけど、読んだ瞬間に共感しました。シンパシーを感じたというのかな、この原作ならやっていけるという直感がありました。そのまま毎回原作を読むのが楽しみになって、だんだんキャラクターもでき上がっていったんです。それと、この作品は早い時期に原作者と対面できたんですよ。漫画の世界では、連載が終わるまで紹介してもらえないこともよくあるんですけど、早い時期に2人で会って「ああしたいね」「こうしたいね」ってやっていけたので、そこがとっても良かったなと思います。

――そんな手応えのあった作品が、連載終了してから7年が経ってドラマ化されたわけですが、それを最初に聞いたときはどんな気持ちでしたか?

夢みたいでしたね。まさに信じられないという一言でした。僕の長い漫画家人生でも、そういう話ってしょっちゅうあって、「やっぱりダメでした」になることが多かったので、今回もたぶんウソだろうなと思っていて(笑)。でも、結構具体的に話が進むようになって、しかもシナリオまで届くようになった段階で「うわ~! 本当なんだ!」と思って、うれしかったですね。

――そして実写化されたドラマが始まって、印象はいかがですか?

もう正座して1回目を見たんですけど(笑)、とにかくじっくり丁寧に作られているドラマで、本当に「ありがとうございます」という気持ちしかないです。僕らの作ったキャラクターとは微妙に違うんですけど、古い日本家屋に住んでる親子であるとか、茶子との師弟関係とか、一番大事にして描いていた人間関係の部分を丁寧に抽出して、エッセンスとしてドラマに落とし込んでくれている感じが、とてもありがたかったです。

――朝顔の家は、3世代が一緒に住むというのも含めて、古き良きという感じで印象的ですよね。

あの風景って、今はほとんど失われちゃったんですよ。それがかえって新鮮になる時代が来たのかな、これが令和なのかなって思いましたね。それは、折坂(悠太)さんの主題歌も含めて、すごく素敵な世界になっていると思います。

  • (左から)加藤柚凪、時任三郎、上野樹里 (C)フジテレビ

――先生のTwitterを拝見すると、「ウルッときてる」というツイートもありますが、泣きながらご覧になることもあるんですか?

もう毎回ウルウルしてます(笑)

――ドラマのストーリーについては、制作陣に任せているんですか?

そうですね。香川さんとプロデューサーの方にお会いしたとき、非常に真摯(しんし)に謙虚に作品と向き合ってくれているのが分かったので、これはもうありがたいなという気持ちしかなかったですから。もう勝手にしてくださいということで、僕も香川さんも、「とにかく良い『監察医 朝顔』を作ってください」としか言いませんでした。

■風間俊介演じる桑原は原作と別物

『監察医 朝顔』原作書影(実業之日本社)

――原作と上野さんの朝顔は、ビジュアルの印象がだいぶ違いますよね。

原作とは違うキャラクターとして存在していると僕は思ってます。髪の長さも違いますが、原作でも出産前にバッサリ切っていてその印象もあるので、上野さんのやっている朝顔の髪の長さも、違和感はないですね。僕の描いた朝顔も朝顔で、ドラマの朝顔も朝顔。全く違うわけではないんですけど、どちらも大好きです。

――原作のイメージに一番近いキャラクターは、誰になるでしょうか?

実は、茶子先生だと思うんです。山口智子さんは丁寧に美しい茶子先生に切り替えてくださってる感じがして、本当に毎回見てワクワクしています。妖怪めいているところまで演じていただいているので、見ていて本当に面白いですね。

  • 山口智子 (C)フジテレビ

――逆に、原作とは違うけど「こういう描き方があったのか」と思うようなキャラクターは?

桑原くんは別物です(笑)。僕の描いた桑原は、「桑原くん」なんて呼ばれるような人じゃなくて、もっと強面のハードボイルドな男なので、風間俊介さんが演じるかわいらしい桑原くんになったのは、意外性もあるけど「朝顔の旦那がああいう桑原くんで良かったな」と思います(笑)。漫画の朝顔のお父さんは身長が小さいんですけど、時任三郎さんは大きいですから、朝顔が妊娠して、桑原くんが「朝顔~!」って言いながら平さんに抱きついたときはビックリしましたね(笑)。でも、あれも素敵なシーンでしたね。

――ほかに、印象に残っているシーンはありますか?

帰宅した朝顔が玄関を開けると、平さん(時任)が台所の冷蔵庫の前で奥さんに話しかける姿が見えるというシーンは、最高に素晴らしかったですよね。先ほどセットを見学させていただいたんですけど、玄関から台所まで、この距離だったら聞こえるなあと思いながら、あのシーンを思い出して感動しちゃいました。

――やはり、撮影現場を見ると、自分の描いたものが立体的になっていることに感動されるんですか?

そこよりも、いつも見ているドラマの中に飛び込んだ感じがして、もう夢みたいでした(笑)。ドラマのいちファンですから、本当にうれしかったです。それと、現場に一体感があって、素晴らしかったですね。和気あいあいと心が通じ合ってる感じで撮影が進行しているのが見られて、とても良かったです。