――遺体を解剖するときに朝顔が「教えてください、お願いします」と遺体に話しかけるのは、実際に原作監修の佐藤先生もやられているそうですね。
漫画を描くたびに、「これは実際にはどういう風に言ってるんだろう」って想像するんですけど、実はその想像の中で、声が聴こえてきたことがあまりなかったんです。でも、上野樹里さんが言っているあの言葉を聴いたときに、「あーこれだ!」って分かった感じがしたんです。漫画では手を合わせるんですけど、ドラマではご遺体に触って話しかけていて、それもまた素敵でうれしかったですね。
――漫画からの大きな設定変更として、朝顔の母・里子が、原作では阪神大震災で亡くなっていますが、ドラマ化するにあたって舞台を2019年の現在に置き換え、8年前の東日本大震災で被災・行方不明ということになりました。これについては、いかがですか?
僕は、石巻(宮城県)の「石ノ森萬画館」とオープン当時(2001年)からお付き合いがあって、震災の前から石巻に何度も行って、向こうに友達もいっぱいいるんです。震災の2カ月後には瓦礫の山になった石巻を目の当たりにして、萬画館の人たちから「この震災をテーマにした漫画を描いてほしい」と言われて、2年後には地震を経験した漁師を主人公に描きました。この石巻で取材したことは、『朝顔』でも反映させているんです。そして、僕は両親が東北の人間で、非常につらい思いもしてきたので、あの震災を風化させてはいけないという思いから、東日本大震災を描いてくれることは本当にありがたいですし、感謝しています。
――また、京都アニメーションの放火事件があり、放火事件を扱ったドラマの第3話放送を1週見合わせ、配慮した形に編集して放送するという対応もありましたが、これについて先生は「心遣いに感謝」とツイートされていましたよね。
3年前から大阪芸大のキャラクター造形学科で先生もやっているんですが、ここで教えている学生は、漫画家になる人もいればゲームクリエイターになる人もいて、中にはアニメーターになる人もいるんですよ。だから、もしかしたら教え子がその現場にいたかもしれないし、狭い業界ですから僕自身がそこにいたかもしれない…そういうことを考えると、これはとても許しがたい事件であるし、本当に未来が失われる感じがしたので、今回のドラマの決断に関しては本当に感謝しているんです。そういうところも、ドラマの制作陣の皆さんへの信頼につながっています。
■まだまだ終わってほしくない
――ドラマの視聴率も好調ですが、先生のほうに反響は届いていますか?
漫画は大人の男性向け雑誌で連載していたので、女性の方には認知されていなかったと思うんですよ。それが今、電子書籍で読めるので、女性の人たちも読んでくださっているんです。ドラマの影響で「面白い」という感想がTwitterで見られるので、「やった!」という気持ちがあります。7年前の作品がまたこうやって日の目を浴びるのは、作者としてもうれしいです。
――ドラマは終盤に入っていきますが、今後の期待はいかがでしょうか?
漫画では(朝顔の娘の)つぐみちゃんが生まれてくるのは最後のほうで、生まれてからはほとんどエピソードがなく終わっちゃうんですよ。ドラマではわりと早い時期に結婚して子供が生まれる展開になっているので、どういう風になっていくのか、とても楽しみです。最後はやっぱり、未来につながる終わり方をしてもらいたいですし、まだまだ終わってほしくないなっていう気持ちもあります(笑)。いちファンとして、これからも朝顔や平さんの活躍を見たいです。ホームドラマですから、『渡る世間は鬼ばかり』や『北の国から』みたいに、ずっとやってもいいですよね(笑)
――ドラマが放送されるのをきかっけに、漫画も続編を作ろうという話にはなっていないんですか?
僕はやりたいんですけど、香川さんが「次はグルメ漫画を描こう」って言って、今はそっちが進行しています(笑)。夫婦漫才の2人が日本中をあちこち回って、おいしいものを食べてラブラブするっていう面白い漫画を描いています(笑)
●木村直巳
1962年、東京都新宿区に生まれ、千葉県佐倉市で育つ。78年、『最後の妖精』が新人賞佳作に入選し、高校1年生でデビュー。主な作品に『ダークキャット』、『イリーガル(原作:工藤かずや)』『監察医 朝顔(原作:香川まさひと)』など。03年、『てんじんさん』で第7回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞。現在、「漫画『時代劇』」で『銭形平次捕物控(原作:野村胡堂)』を連載中。