外為どっとコム総合研究所の神田卓也氏が2019年8月の為替相場レビューと、今後注目の経済指標やイベントをもとにした今後の相場展望をお届けする。

【ドル/円 8月の推移】

8月のドル/円相場は104.439~109.315円のレンジで推移し、月間の終値ベースでは約2.3%下落(ドル安・円高)。7月末の米連邦公開市場委員会(FOMC)で強まったドル高の流れを継いで109.32円前後まで上昇して始まったが、一時休戦と見られていた米中貿易戦争が再開すると早々に反落した。人民元相場の下落も、中国が関税の影響を緩和するために通貨安を容認したと見なされ、リスク回避の円買い要因となるケースが目立った。

その他、米中貿易戦争のあおりで世界的に景気が後退するとの見方が広がり、米債市場で2年債利回りが10年債利回りを上回る「逆イールド」が発生したことも先行き不透明感を強めた。8月のドル/円相場は、米中貿易戦争に振り回される格好となり、26日には1月3日の「フラッシュ・クラッシュ」で付けた年初来安値とほぼ並ぶ104.439円まで下値を拡大する場面もあった。

【ドル/円 9月の見通し】

9月のドル/円相場は、引き続き米中貿易戦争を巡る動きに左右されそうだ。米中両国は9月1日に予定通り相互に関税を発動。今回、発動を猶予した一部の品目については12月に引き上げられる予定となっている。一方で、両国は対話を続ける姿勢も維持しており、9月中の閣僚級対面協議を模索している。ドル/円は、関連報道に一喜一憂する展開が続くだろう。

また、9月相場は日米の金融政策も手掛り材料となる可能性がある。米連邦公開市場委員会(FOMC)は18日に利下げに動く公算が大きいが、市場は25bp(0.25%)の利下げを確実視しており、利下げそのものには大きなインパクトはないだろう。ただ、市場は年内のさらなる追加利下げも8割方織り込んでおり、FOMC声明やパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長会見の行間から先行きのスタンスを読むことになる。

利下げについて、「サイクル途中の調整」、「予防的措置」と、これまでのスタンスを踏襲すれば、追加利下げ期待は後退するだろう。ただし、パウエル議長は8月23日の講演では「サイクル途中の調整」、「予防的措置」というキーワードを一度も使わなかった。7月のFOMCで示した「利下げサイクル入りではない」とのスタンスに変更があるのか注目されよう。

一方、日銀の追加緩和については見方が分かれている。これまで「大規模な金融緩和」を続けてきた日銀には緩和余地が乏しいとの見方が優勢だ。ただ、FOMCのみならず欧州中銀(ECB)も9月の利下げが確実視される中では、日銀の現状維持がさらなる円高を呼ぶリスクがあるため、今回、日銀も追加緩和に動くとの観測がくすぶる。

スケジュール上でも、ECB(12日)、FOMC(18日)、日銀(19日)と、日銀の発表が最後に予定されているため、緩和の「先出し」が避けられるとの見方もある。9月のドル/円相場の動きを見る上では、主要中銀の金融政策会合にも注目したい。

【9月の日米注目イベント】

執筆者プロフィール : 神田 卓也(かんだ たくや)

株式会社外為どっとコム総合研究所 取締役調査部長。1991年9月、4年半の証券会社勤務を経て株式会社メイタン・トラディションに入社。為替(ドル/円スポットデスク)を皮切りに、資金(デポジット)、金利デリバティブ等、各種金融商品の国際取引仲介業務を担当。その後、2009年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画し、為替相場・市場の調査に携わる。2011年12月より現職。現在、個人FX投資家に向けた為替情報の配信(デイリーレポート『外為トゥデイ』など)を主業務とする傍ら、相場動向などについて、WEB・新聞・雑誌・テレビ等にコメントを発信。Twitterアカウント:@kandaTakuya