外為どっとコム総合研究所の神田卓也氏が2019年7月の為替相場レビューと、今後注目の経済指標やイベントをもとにした今後の相場展望をお届けする。

【ドル/円 7月の推移】

7月のドル/円相場は107.209~108.999円のレンジで推移し、月間の終値ベースでは約0.8%上昇(ドル高・円安)。1.8円程度の狭い値幅ではあったが、7月30・31日の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利下げ幅を巡る思惑で神経質に上下しつつ小幅高で終えた。

米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が10日の議会証言で「不確実性」を強調して早期利下げを示唆すると50bp利下げの思惑が浮上。18日にはウィリアムズNY連銀総裁の発言が「利下げに前のめり」と受け止められたため107.209円まで下値を切り下げた。

しかしその後は、米債務上限問題がひとまず解決したことや、米4-6月期国内総生産(GDP)速報値など米経済指標に良好な結果が目立ったことから、利下げ幅はやはり25bpに落ち着くとの見方が広がった。これに伴いドル/円は108円台後半へと反発。31日にはFOMCが10年半ぶりに利下げに動いたが、パウエルFRB議長が追加利下げに前向きな姿勢を示さなかったことから108.999円まで上昇した。

【ドル/円 8月の見通し】

7月末の米連邦公開市場委員会(FOMC)は25bp(0.25%)の利下げを決めたが、既報の通りドル買いを誘発した。パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長が「利下げは下方リスクに対する保険が狙い」と説明した上で「利下げは緩和サイクルの開始を必ずしも意味しない」との見解を示したため、過度な追加利下げ観測が後退した。

とはいえ、米金利先物は9月の次回FOMCでの25bp追加利下げを依然として5割以上の確率で織り込んでいる(シカゴマーカンタイル取引所のFedウォッチ、8月1日時点)。このため、8月のドル/円相場は、FOMCの9月利下げを巡る思惑が値動きを左右しそうだ。なお、パウエルFRB議長の上記発言には、「小幅な利下げによって景気拡大をさらに持続させることができる」という主張が表れている。そうした主張に沿う形で、米7月雇用統計(2日)や米7月小売売上高(15日)が良好なら、利下げ織り込み度合いの低下とともにドルは一段と上昇することになりそうだ。

ドル/円相場のチャート上の上値ポイントは、5月6日にトランプ米大統領の対中関税ツイートでマドが空いた111.00円前後になると見られる。一方、可能性は低いと見るが、米経済指標の悪化が続いた場合は9月利下げの可能性が再浮上することも考えられる。その場合は22-24日に米ワイオミング州ジャクソンホールで開かれるシンポジウムで、FRB高官からなんらかのシグナルが発信されるだろう。ドル/円相場の下値ポイントは107.00円と見ている。

【8月の日米注目イベント】

執筆者プロフィール : 神田 卓也(かんだ たくや)

株式会社外為どっとコム総合研究所 取締役調査部長。1991年9月、4年半の証券会社勤務を経て株式会社メイタン・トラディションに入社。為替(ドル/円スポットデスク)を皮切りに、資金(デポジット)、金利デリバティブ等、各種金融商品の国際取引仲介業務を担当。その後、2009年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画し、為替相場・市場の調査に携わる。2011年12月より現職。現在、個人FX投資家に向けた為替情報の配信(デイリーレポート『外為トゥデイ』など)を主業務とする傍ら、相場動向などについて、WEB・新聞・雑誌・テレビ等にコメントを発信。Twitterアカウント:@kandaTakuya