JR東日本は不通になっている常磐線の富岡~浪江間が2019年度末をめどに復旧することを受け、7月5日付のプレスリリースにて、東京都区内と仙台市内を直通で結ぶ特急列車(以下、仙台直通特急)を運転すると発表した。2011年3月の東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所事故の発生にともなう帰還困難区域のうち、一部が先行して避難指示が解除されれば、常磐線全線の運転を再開し、特急列車も設定する。詳細な運転本数などは決定し次第、改めて発表される。

  • 震災前の常磐線夜ノ森駅を通過する特急「スーパーひたち」(撮影 : レイルマンフォトオフィス)

    震災前の常磐線夜ノ森駅を通過する特急「スーパーひたち」。不通区間に含まれているこの駅のツツジはすべて伐採されたが、復活が企図されている

この発表が、ちょっとした驚きをもって迎え入れられたのは、震災前にJR東日本が公表していた常磐線特急列車の運転計画とは異なる方向性を持っていたからだ。もちろん、震災と原発事故による情勢の変化が影響していることは言うまでもない。だが、いまは不通区間を抱えるいわき~仙台間へ、東京から仙台直通特急を設定して、ではどのような利用客層が想定されるのか。考察してみたい。

震災前、JR東日本は2010年12月7日付のプレスリリースで、上野~勝田・いわき間などを結ぶ常磐線の特急「スーパーひたち」「フレッシュひたち」(いずれも当時の列車愛称)に新型車両E657系を投入し、既存の651系・E653系を置き換えると発表した。

この段階で、「スーパーひたち」の一部は上野~原ノ町・仙台間を直通運転していた。1時間間隔の運転が基本であった上野~いわき間ほどの頻度ではないが、上野~仙台間の列車が下り3本・上り4本、上野~原ノ町間の列車が下り2本・上り2本、他にいわき発仙台行が下りのみ1本走っていた。発表された計画では、いわき駅をまたいで走るこれらの特急列車について、いわき駅で運転系統を分割。いわき~仙台間にE653系の新しい特急列車を設定し、いわき駅にて上野駅からのE657系特急列車と同一ホームで対面乗換えを可能にすると説明されていた。

  • 現在、品川~いわき間を走る常磐線特急はすべて、このE657系で運転されている。仙台駅にもE657系が乗り入れる

上野~いわき間において、この計画は発表通りに実施され、2012年3月に新型車両E657系が営業運転を開始。翌年3月のダイヤ改正から、「スーパーひたち」「フレッシュひたち」はE657系に統一された。その後、2015年3月14日のダイヤ改正で、両列車が品川駅まで乗り入れ、全車座席指定となったことを機に、愛称を「ひたち」「ときわ」に変更し、今日に至っている。このうち、おもに品川~いわき間を走る列車が「ひたち」である。仙台直通特急は「ひたち」の運転区間を延長する形になる。

■なぜ“仙台直通特急”は復活することになったのか

いわき~仙台間は津波や原発事故の被害が甚大で、とくに避難地域においては、復旧に向けての調査にさえ取りかかれない状況が続いた。そのため、この区間のみの特急新設計画は白紙となり、後にE653系は新潟地区の特急列車に転用されている。いわき~富岡間、浪江~仙台間は運転再開したが、現在は普通列車のみの運転となっている。

  • 2017年10月21日に、常磐線の南側の復旧区間が富岡駅まで延びた。写真は運転再開日の富岡駅

  • 一方、北側は浪江駅まで復旧。富岡~浪江間は2019年度末(2020年春)の運転再開が予定されている

ではなぜ、2010年に発表された計画通りではなく、基本的に震災前の列車体系を復活させるような形になったのだろうか?

第一には、大きな被害を受けた常磐線いわき駅以北(福島県浜通り地方)の復興を促進する意味があるだろう。東京と直結する列車を設定することで、往来の活性化が期待されているに違いない。

もともと著名な観光地があったエリアではないが、震災からの復興を見て学ぶことは、岩手県の三陸鉄道が「震災学習列車」を運転しているように、他の地方から人を招き入れるひとつの要素となりうる。

福島県北部の新地駅付近から宮城県南部の浜吉田駅付近までは、津波によって町が大きな被害を受け、破壊された常磐線も山側に移設して運転再開した区間である。防災意識を高めるために、この地域を見ることも適しているであろう。

  • 津波の被害を受けた常磐線の一部区間は、山側へ新線を建設して移設された

ただ、震災前の福島県浜通り地方の主力産業が原子力発電所とその関連企業であったことは否めない。特急「スーパーひたち」は富岡駅(福島第二原子力発電所の最寄り駅)と浪江駅に全列車が停車。大野駅(福島第一原子力発電所の最寄り駅)にも上り1本を除く全列車が停車していた。それが、事故により第一・第二ともに廃炉が決定。産業そのもの、つまりはこれまでの鉄道の需要が消えることになる。

廃炉の過程がどうなるか、外野からはなかなか想像がつきにくい。しかしながら、むしろ「廃炉にともなう、これまでとは違う人の動き」イコール「鉄道への需要」が発生するのではないかとも想像できる。日本の総力を挙げて、取り組まなければならない事業であることは間違いない。この「マイナスの公共事業」には、関連して生まれる需要があると考えられる。

JR東日本は仙台直通特急に充てるため、E657系10両編成を2編成、計20両を追加で新造すると伝えられている。車両製造費だけで約30~40億円の投資となる。利用客が新たに生まれ、回収できると見込んでいるのだろう。

■原ノ町駅・相馬駅へは東北新幹線経由でも行けるが…

富岡~浪江間が不通、バス代行となっている現状では、それより北に位置する原ノ町駅や相馬駅などから鉄道だけで東京まで行き来しようとした場合、仙台駅に一度出て、東北新幹線に乗り換えることになる。原ノ町駅や相馬駅の周辺地域は福島県であっても、もともと広域的には仙台の経済圏に入っていた。

原ノ町~仙台間は震災前の「スーパーひたち」で約1時間。仙台駅から上野駅まで「はやぶさ」で1時間30分弱である。接続が良ければ、仙台直通特急と「はやぶさ」を乗り継いだ場合の所要時間は2時間40分程度になるだろう。これに対し、かつての「スーパーひたち」は上野~原ノ町間にて、最速列車でも約3時間10分を要していた。

一方、2019年7月現在の運賃・料金で東京~原ノ町間を試算してみると、原ノ町駅から仙台直通特急に乗り、仙台駅で東北新幹線に乗り換えた場合の合計額は片道1万3980円。これに対し、仙台直通特急で東京へ直接向かった場合の合計額は7,980円となり、6,000円もの差がある。運賃・料金の面では常磐線を乗り通すほうが有利である。

ただし、原ノ町駅や相馬駅から東北新幹線を利用できる割引きっぷ「東京フリー乗車券」(原ノ町発で1万180円)が発売されており、これを使えば片道あたりの差は4,070円に縮まる。4,000円を余分に支払うことで30分短縮できるのならば、一考するビジネス客も出てきそうだ。「東京フリー乗車券」は4日間有効で、東京とその近郊を走るJR東日本の路線などが乗降り自由となる。

  • 相馬駅に貼られた「東京フリー乗車券」をPRするポスター。2017年の撮影だが、現在もこの割引きっぷは発売されている

この東北新幹線経由と常磐線経由の所要時間、運賃・料金の差は、原ノ町駅より北にある相馬駅からとなると、さらに縮まる。先述の新地~浜吉田間は、相馬駅よりさらに仙台に近いエリアだ。つまり、津波被害からの復興援助が必要とされている地域について、より仙台へ、さらには東京へ近づけ、活性化させるために、仙台駅発着の特急列車の設定もまた、ひとつの手段と考えられるのだ。

仙台直通特急を10両編成で運転することに関して、輸送力過多ではないかという意見もある。実際、以前の「スーパーひたち」はいわき駅以北において、おもに4両編成で運転されていた。しかし、全編成が10両にそろえられているE657系に「特別な」編成を用意しても、予備車の数が増えて運用効率が落ち、かつ初期投資も増えてしまう恐れがある。増結・切離しの手間もかかる。そうした点からの決定と思われる。

いずれにしろ、多額の復旧費用を拠出したJR東日本にとっては、常磐線への投資の回収が大きな課題となるだろう。そうした前提があった上での経営判断と考えられる。復興への貢献を考慮しても、運転再開後の常磐線の列車運転計画が、順調に需要を生み出すことを期待したい。

筆者プロフィール: 土屋武之

1965年、大阪府豊中市生まれ。鉄道員だった祖父、伯父の影響や、阪急電鉄の線路近くに住んだ経験などから、幼少時より鉄道に興味を抱く。大阪大学では演劇学を専攻し劇作家・評論家の山崎正和氏に師事。芸術や評論を学ぶ。出版社勤務を経て1997年にフリーライターとして独立。2004年頃から鉄道を専門とするようになり、社会派鉄道雑誌「鉄道ジャーナル」のメイン記事を毎号担当するなど、社会の公器としての鉄道を幅広く見つめ続けている。著書は『鉄道員になるには』(ぺりかん社)、『まるまる大阪環状線めぐり』(交通新聞社)、『新きっぷのルール ハンドブック』(実業之日本社)、『JR私鉄全線 地図でよくわかる 鉄道大百科』(JTBパブリッシング)、『ここがすごい! 東京メトロ 〜実感できる驚きポイント』(交通新聞社)など。