ホンダが軽自動車の新型「N-WGN」(エヌ・ワゴン)を発売する。同社には「N-BOX」(エヌ・ボックス)という軽自動車もあるが、ちょっと見た感じだと、同じように背が高く、雰囲気も似ているので、何が違うのか分かりづらいという意見があるかも知れない。比べてみよう。

  • ホンダの「N-WGN」と「N-BOX」

    新型「N-WGN」(左)と2017年登場の「N-BOX」(写真:マイナビニュース)

まず、後席ドアに大きな違いがある

N-WGNはX-BOXの誕生から2年後の2013年に登場した。ミニバンを得意とするホンダが作った「軽のミニバン」的な存在として生まれたN-WGNではあったが、これまでの販売台数を振り返ると、N-BOXとの人気の差は歴然。昨年の数字では、N-BOXの4分の1ほどしか売れていなかった。

軽自動車を主力とするダイハツやスズキを上回るN-BOXの好調さに比べると、N-WGNの存在感は薄かったといわざるを得ない。今回の2代目N-WGNでホンダは挽回を期している。

  • ホンダの「N-BOX」

    ホンダの「N-BOX」(画像)は日本で最も売れているクルマだ

N-BOXとN-WGNでは、何が違うのか。改めて立ち位置を明らかにすると、N-BOXは家族のためのクルマであり、N-WGNは1人乗りを含めた個人移動のために使う軽のベーシック車であるとホンダ広報は解説する。商品性の違いを象徴しているのが、後席のドアだ。N-BOXがスライドドアであるのに対し、N-WGNはヒンジドアになる。この相違点は、初代から変わっていない。それでは、スライドドアとヒンジドアで、使い勝手はどう変わるのか。

家族のクルマであるN-BOXは、子供を連れての外出を想定する。後席がスライドドアであることにより、スーパーマーケットなど出先の駐車場にクルマをとめた時、隣のクルマに開いたドアを当ててしまう懸念がなくなる。子供は思ったことをすぐ行動に移すため、クルマから降りる際には、隣のクルマのことなど気にしない。早く外へ出たくて急いでドアを開け、隣のクルマの車体をドアで傷つけてしまうこともありえる。その点、スライドドアなら心配ない。

  • ホンダの「N-BOX」

    「N-BOX」の後席はスライドドア

一方、個人で外出する場合には、鞄や荷物などを後席に置いて、運転席に座るという場面が想定できる。この時、スライドドアでは開閉に時間がかかったり、ドアのスライド操作が重かったりといった不便が考えられる。しかし、ヒンジドアであれば、パッと素早くドアを開けて荷物を車内へ放り込み、すぐ運転席に座ることができる。後席に人を乗せる際にも、待たせる心配がない。

  • ホンダの「N-WGN」

    「N-WGN」の後席はヒンジドア

そのほか、N-BOXとN-WGNでは車高も異なる。車内で子供の世話をする際は、天井が高い方が動きやすい。一方、車高が高いほど重心は上がるので、走行安定性が損なわれる可能性もある。したがって、N-WGNは初代から、N-BOXよりも車体全高が低かった。そこは2代目でも継承される。

以上が、初代からのN-BOXとN-WGNとの基本的な違いだ。加えて、新型N-WGNはさらなる魅力を追加してきた。

新型「N-WGN」は運転姿勢の調整幅に注目

個人が乗るクルマとして、今回の新型N-WGNでもっとも注目すべきは、運転者のための運転姿勢の調節機能が大幅に改善していることだ。軽自動車全般を見ても、ここまで柔軟に調節できるクルマは珍しいといえる。

最大の特徴は、ハンドル位置の調整のため、従来からのチルト(上下方向の調節)機構に加え、テレスコピック(前後方向の調節)機構を採用していることだ。また、アクセルとブレーキのペダル位置が、N-BOXと比べ、より右側へ寄っている。これにより、足をまっすぐ前へ延ばした姿勢でペダル操作ができるようになった。なおかつ、アクセルペダルとブレーキペダルの段差が少なくなっている。

  • ホンダの「N-WGN」

    「N-WGN」のハンドル位置は調整幅が広い

軽自動車を含む小型車では、ハンドルとペダルの位置を決める際に、小柄な体格の人でも運転に困らないような基本設計とする傾向にある。それは、生活車として考えれば良いことではあるものの、より体格の大きな人にはどうなのかというと、ハンドルとペダルの位置が合わず、操作しにくい状況が永年にわたり放置されてきた経緯がある。

地域によっては、クルマは家族に1台ではなく、運転免許証の取得が可能になった家族全員が1台ずつ所有するというところもある。背の高い若者もいれば、手足の稼動範囲が制約される高齢者もいるという家族構成は、少しも珍しくない。それぞれが適正な運転姿勢をとれなければ、操作のし損ないが起こる可能性がある。

正しい運転姿勢をとるには、まずブレーキペダルをしっかり踏み込めて、膝に少しゆとりが残る位置に座席を移動調整する。次にハンドルの頂点を持ち、ひじにゆとりが残る位置に背もたれの角度を調節する。ところが、背の高い人が小型車で座席を調節しようとすると、ペダル位置に対しハンドルが遠すぎて、正しく握れないということが多かった。このため、ハンドルをきちんと回せる位置に座席を調整すると、今度はペダルが近くなり過ぎて、踏み替えのしにくさが生まれていた。

こんな時、ハンドル位置を前後に調節できるテレスコピック機構があると役に立つ。座席をペダル位置に合わせて調整した上で、ハンドルも正しく握れる位置に背もたれの角度を調整できるようになるからだ。その機構をN-WGNは装備したのだ。おそらく、軽自動車では唯一なのではないだろうか。

実際に運転席に座ってみれば、誰でも気がつくほどその効果は明らかだ。また、アクセルとブレーキのペダル配置がやや右寄りに移動したことも体感できる。なおかつ、アクセルからブレーキへのペダルの踏み替えも、段差が少なくなったことで滑らに足が動かせる。停車したクルマでも試すことができるので、販売店などでN-BOXと比べてみるといいだろう。

実際、N-BOXの試乗で私は、何度かブレーキペダルを踏み損なったことがある。N-WGNであれば、運転のし損ないを減らせる安心感が得られるのではないだろうか。

  • ホンダの「N-WGN」

    「N-WGN」のペダルは旧型よりも右に寄っていて、操作しやすい

「N-WGN」は競合他社に追いつけるか

新型N-WGNの魅力は、もちろん運転姿勢だけではない。まず、外観がN-BOXとは明らかに異なる。初代もN-BOXとは異なる造形だったが、並べて見比べるのではなく、1台だけで見た時には、それがN-WGNだと断定できるほどの差はなかった。

しかし新型は、明らかに顔つきが異なる。例えばヘッドライトは標準車が丸目、カスタムが四角で、それぞれN-BOXとは違う表情となっている。

  • ホンダの「N-WGN」

    「N-WGN Custom」は四角いヘッドライトを備える

また、フロントウィンドウの支柱となるフロントピラーの傾斜がN-BOXよりも強いため、より乗用車的な印象を受ける。それにより、N-BOXと比べると、車高も実際の寸法以上に低く感じられる。家族のためのN-BOXに対し、個人のための乗用N-WGNという価値が、見た目にも明らかだ。

走行中の静粛性にも配慮がある。N-WGNは後席のドアトリムに密閉のシール機能を追加しているので、後席に座ってドアを閉じただけで静けさを感じられる。上質なクルマだと思えるポイントだ。

荷室には、上下2段に空間を分けられる床板がある。これを利用しながら後席の背もたれを前方へ倒すと、広く平らな床を作れる。個人が自分の生活や余暇のために使うのに便利な荷室を生み出すことができるのである。

  • ホンダの「N-WGN」

    背もたれを倒せば広く平らな床を作れる荷室

実は、現在の軽自動車規格の車体寸法は、1960年代に誕生した初代「カローラ」や「サニー」の5ナンバー車と車幅はほぼ同じで、日本の道路や駐車場の広さを考えた場合、使いやすいサイズ感となっている。今日、日本の自動車市場の40%近くを占めるほどの人気を誇る軽自動車だが、人気の理由は、必ずしも購入時の価格や税金の安さといった経済性だけではない。こういうクルマが、日本で生活する上では最も使いやすいのだ。

人気の軽自動車には、スズキとダイハツはもちろんのこと、日産自動車なども力を入れている。そんな中、今回の新型N-WGNは、安心で快適に使える個人のための軽として、競合他社を大きく引き離す商品性を獲得したように思える。N-BOXとの販売台数の差を縮めるべく、ホンダが満を持して上市したクルマといえそうだ。