米労働省が2019年6月7日に発表した5月雇用統計の主な結果は、(1)非農業部門雇用者数7.5万人増、(2)失業率3.6%、(3)平均時給27.83ドル(前月比0.2%増、前年比3.1%増)という内容であった。

(1) 5月の米非農業部門雇用者数は前月比7.5万人増となり、市場予想の17.5万人増を大きく下回った。業種別では、政府部門(1.50万人減)や小売業(0.76万人減)が足を引っ張った。なお、貿易摩擦の影響が懸念された製造業は0.30万人増だった。非農業部門雇用者数の3カ月平均増加幅は、3月および4月分が合計で7.5万人下方修正された結果、15.1万人となった。

(2) 5月の米失業率は3.6%となり、1969年12月以来、ほぼ50年ぶりの低水準を記録した前月と同じだった。なお、結果は市場予想どおりであった。労働力人口に占める働く意欲を持つ人の割合を示す労働参加率も62.8%と前月から横ばいだった。一方で、フルタイムの仕事を希望しながらパートタイム就業しかできない人なども含めた広義の失業率である不完全雇用率(U-6失業率)は7.1%と、2000年12月以来の水準に改善した。

(3) 5月の米平均時給は27.83ドルとなり、前月から0.06ドル増加して過去最高を更新。ただ、伸び率は前月比+0.2%、前年比+3.1%と、いずれも市場予想(+0.3%、+3.3%)を下回った。賃金の漸増基調は維持されたが、伸び率は減速した格好。

(4) 米5月雇用統計の発表を受けてドル/円は下落した。貿易摩擦の影響などで米景気が後退するのを食い止めるため、米連邦準備制度理事会(FRB)が早い段階で利下げに動くとの見方が広がる中、非農業部門雇用者数と平均時給が予想を下回った事は格好のドル売り材料となった。

もっとも、米5月雇用統計では3カ月平均の雇用者は持続的な米景気の拡大に必要とされる10万人増を上回っており、失業率に至ってはほぼ50年ぶりという歴史的低水準にとどまっている。少なくとも今回の雇用統計に、FRBが差し当たって利下げしなければならない理由を見つけるのは難しい。賃金上昇ピッチが緩やかで、インフレ押し上げ圧力が増していない事は確かだが、利下げの根拠にはなり得ないだろう。

FRBが、6月18-19日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、景気状況にどのような見解を示し、政策金利の道筋をどのように説明するのか注目したい。

執筆者プロフィール : 神田 卓也(かんだ たくや)

株式会社外為どっとコム総合研究所 取締役調査部長。1991年9月、4年半の証券会社勤務を経て株式会社メイタン・トラディションに入社。為替(ドル/円スポットデスク)を皮切りに、資金(デポジット)、金利デリバティブ等、各種金融商品の国際取引仲介業務を担当。その後、2009年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画し、為替相場・市場の調査に携わる。2011年12月より現職。現在、個人FX投資家に向けた為替情報の配信(デイリーレポート『外為トゥデイ』など)を主業務とする傍ら、相場動向などについて、WEB・新聞・雑誌・テレビ等にコメントを発信。Twitterアカウント:@kandaTakuya