新社会人の皆さん、「就業規則」と聞いて何のことか分かりますか? 入社後の新人研修で、就業規則を初めて見た人もいるのではないでしょうか?

社会人マナーや業務内容の研修は大事ですが、就業規則(就業の基本的ルール)の内容も正しく理解する必要があるもの。本稿では、新社会人が知っておくべき就業規則を解説します。

  • 就業規則について正しく理解していますか?

就業規則とは

就業規則とは、社員が働くうえで守るべき規則や労働条件を労働基準法等に基づいて定めた、会社の大変重要なルールです。「ルール」と聞くと会社に縛られている様に感じることもあるかもしれませんが、会社も社員も気持ち良く働くためのものであり、会社で働く上で困った時や分からなくなった時に自分がどの様にしたらよいのかを教えてくれるものです。

ただし、労働基準法第89条により、10人以下の会社では作成義務はありませんので、就業規則がない会社もあります。

内容は採用から在籍中、退社にまつわることまでが明記されています。会社によっては、100条以上にものぼるような冊子になっていますので、会社で働いたことがない状態で読んでも理解出来ない事が多いかもしれません。

そこで、新入社員の皆さんが最初に最低限おさえておくべきポイントについてお伝えしたいと思います。

新社会人が知っておくべき就業ルール

就業時間

会社で決められた始業時刻から終業時刻のことを指します。この時間を守らないと、通常は始業時刻の後に出社した場合は遅刻、終業時刻の前に退社した場合は早退と扱われます。

学生時代にはせいぜい通信簿に記載され「皆勤賞がもらえない」という程度だったかもしれません。しかし遅刻や早退の回数や程度によっては人事評価に影響し、昇給や賞与の額に影響することがあるのです。場合によってはこれに留まらず「懲戒処分」を受けることもあります。

休日・休暇

休日は「毎週1日以上、または4週4日以上」与えなければならないと労働基準法で決められています。この「1週間」、「4週間」については就業規則などで特定されています。

仕事をしていると、どうしても休日に出社せざるを得ない時があります。その際には、振替休日や代休といった制度が設けられています。よく読んで確認しておきましょう。

休暇には、会社の特色がよく出るものです。どの会社にもある休暇が有給休暇です。社員が会社に請求した場合、会社は与えなければなりません。ただ、社員から請求された日に必ず有給休暇を会社は許可しなくてもよく、業務上支障をきたす場合には「時季変更権」を使って社員が請求した日をずらすことも出来る場合がありますので、請求する前に上司に確認するのがよいでしょう。

給与

入社してから初任給や交通費の支給日を知ったという方も多いのではないでしょうか? 4月に初任給が支給されると思っていたら5月だったなど、初任給の支給日を誤ってしまい金銭的に困ってしまう新入社員は珍しくないのです。給与体系・締め日・支払日は確認しておきましょう。

交通費の支給に関しても会社毎に違います。車やバスなどの公共交通機関を利用して通勤する場合、最も一般的なのが「交通機関の定期代実費を支給」という方法です。会社に入った時に定期代の代金を記載した書類を提出した人もいると思いますが、1カ月、3カ月、半年など決められた期間の定期代金が支給されます。

支給方法は、給与と同じタイミングで振り込まれる場合もあれば、半年に1回まとめて支給される、3カ月ごとに現金精算など、会社によって異なります。また「全額支給」の場合と「限度額がある」場合があります。負担が大きい金額なだけに、しっかりと把握しておいてください。

毎月の支給項目の確認はもちろん、割増賃金や有給休暇取得時の支給方法、賞与等も確認しておくとよいでしょう。

知らないと困る服務規律と懲戒

服務規律

服務規律とは、会社の秩序維持を図るために社員が守るべき義務やルールのことです。たとえば、SNSに会社の不満を書き込みした場合は情報漏洩にあたり会社の大損害につながってしまいます。そこで服務規律に禁止の条文を盛り込み会社の秩序を守るのです。

現に多くの企業では、酒気を帯びて就業しないといったごく当たり前のルールから、近年になって社会問題化しているセクシャルハラスメントやパワーハラスメントに関する内容、企業秘密や個人情報の漏洩防止についてまで、幅広く、具体的に規定しています。

特に重要視されているのが、先述のSNSに書き込みをする事例のような、会社のコンピュータ・ネットワークをめぐるさまざまなトラブルです。度を越えた私的利用は、社員が有する「職務専念義務」に違反するだけでなく、放置しておくと顧客データの盗用やインターネット上への流出、有害ウイルスへの感染などのリスクが飛躍的に高まり、企業倫理やコンプライアンスを脅かしかねません。

こうしたトラブルを未然に防ぐために、社内のパソコンや電子メールなどの情報通信機器の私的利用禁止やモニタリング(利用状況の調査)の実施などについて適切に規定し、就業規則として全社員に周知徹底させる会社もあります。学生時代には気にしたり考えなかったりしたことかもしれませんが、社会人として成長していくためには身体に染み込ませる事が大切です。

懲罰

どんな会社でも、従業員に関する問題は起こります。遅刻・欠勤・私用外出を繰り返す社員、能力不足・勤務成績不良の社員、会社の指示に従わない社員、セクハラ・パワハラ社員など。このような社員がいることで、周囲の士気も下がって、会社全体が停滞してしまうといったことも珍しくありません。

そこで、就業規則にのっとって悪いことをした社員に対して懲罰を与えます。服務規律で例にあげたSNSの場合では、服務規律に反する行為に当たり、始末書を書かせた上で、出勤停止となる場合もあります。

懲罰とは、企業秩序に違反した社員に対して、出勤停止や懲戒解雇などの処分を科すことです。就業規則に細かく記載されており、処分の種類には戒告、けん責、減給、出勤停止、懲戒解雇などがあります。

ただし、社員は労基法をはじめとする労働関係法令で強く保護されているため、会社は簡単に辞めさせたり、不利益を与えたりすることはできません。だからといって、就業規則に書かれていないことならなんでもOKという訳ではなく、会社の社内秩序を社員一人ひとりが維持する意識が大切なのです。

したがって、就業規則が何のためにあるのかを理解したうえで、きちんと使いこなすことが重要です。

執筆者プロフィール :大東 恵子(おおひがし・けいこ)

あすか社会保険労務士法人代表社員、特定社会保険労務士。大阪府出身。同志社大学経済学部卒業後、日商岩井株式会社(現在の双日株式会社)を経て1997年社会保険労務士事務所を開業する。現在、東京、大阪、名古屋に事務所展開。お客様のニーズにあったリーガルサービスの提供を心がけ、起業支援から一部上場企業の労務問題まで幅広く対応している。今春、早稲田大学大学院(MBA)を卒業。趣味は筋トレ、書道、芸術鑑賞。