近年、「ビジネス英語が話せる方」「TOEICで〇〇点以上の方」といった"英語力"を採用条件に加えている企業も多い。そんな背景もあり、今注目を集めているのが「アクティブ・ラーニング」という学習方法だ。名前はよく聞くけど、どのようなものなのか、どのような効果があるのか……"イマイチわからない"という人も多いのでは?

  • 最近よく耳にする「アクティブ・ラーニング」とは何なのか? 英語学習の専門家に解説してもらった(写真:マイナビニュース)

    最近よく耳にする「アクティブ・ラーニング」とは何なのか? 英語学習の専門家に解説してもらった

ここでは、英語教師のトレーナー経験もあり、グローバル人材育成を目的としたビジネス英語の学習プログラム「Excedo」の学習デザイン及び講師管理担当ディレクターを務める、デブラ・マーシュ氏に解説してもらう。

アクティブ・ラーニングの効果とその根拠

長年、英語を勉強してきた日本のビジネス・プロフェッショナルの中には、TOEICなどの英語の試験では高いスコアが取れても、実際のビジネス上のコミュニケーションに悩みを抱えている……という話を数多く聞いてきました。私自身は、ヨーロッパをはじめ、さまざまな国で社会人向けに英語を教えてきた経験や英語教師のトレーナーとしての経験から「人がどのように言語を学ぶか」という点に大きな関心を持ってきました。ここでは能動的な学習方法「アクティブ・ラーニング」が、日本人が英語を学ぶ上でいかに有効的な学習方法であるかをご紹介します。

積極的で能動的な学習方法「アクティブ・ラーニング」は、グループ・ディスカッション、ディベート、ロールプレイなど参加型のスタイルを通じて理解を深める実践型の学習方法です。実践から学ぶそのアクティブ・ラーニングは、特に語学においては、従来の受け身型学習「パッシブ・ラーニング」と比較し、効果的に身につけることができるといわれています。

現在、日本の教育現場においても「アクティブ・ラーニング」は注目されています。文部科学省が2017年に公示した「新しい学習指導要領の考え方」に、この能動的な学習方法の視点を取り入れた授業の改善、推進について記載がされていることから、大学をはじめ、幼稚園から小・中・高等学校などの多くの教育機関でアクティブ・ラーニングの要素を取り入れた学習方法の導入が始まっています。

最近の調査によると、学習者の習熟度や学習への取り組み方について、アクティブ・ラーニングは一貫して高い結果が出ていることが明らかになっています。応用行動科学研究所などの調査では、学習者が受動的(パッシブ)に学習した場合、内容のわずか10%-20%程度しか記憶に残りませんが、能動的(アクティブ)に学習を行うと、その割合は約90%になることが分かりました。

パッシブ・ラーニングにおいて、教師は基本的にすべてのクラスに同じ教材を使用し、教えるポイントを把握し授業を進めます。学習者は、座って講義を聴き、時々ノートを取るだけです。この学習方法は、教師が学習環境をコントロールし、学習者は教えられた内容において、何も決める必要はありません。

一方、アクティブ・ラーニングは全く正反対の方法です。教師は学習の「ファシリテーター」として、学習者が自信を持って臨んだか、コミュニケーションパフォーマンスはどうであったかをフィードバック/アドバイスする役に徹します。学習環境は、学習者が自身に関連性のあるコンテンツに取り組むため、学習者を中心とした環境になります。

アクティブ・ラーニングを語学学習に取り入れる場合、3~5名でのセッションが最適です。例えば20名以上の教室のレッスンの場合、グループワークに尻込みしてしまった生徒は、他の生徒に埋没してしまい、積極的な参加や発言しないままになってしまうかもしれません。また、教師と学習者が一対一で授業を行う方法も、実際のビジネス・ミーティングのような複数の人たちと関わるシナリオにならない点が懸念されます。一方、小規模なグループであれば、ファシリテーター(講師)は学習者全員が参加していることを把握でき、学習者にとっても抵抗感なく、積極的に参加できます。

学習者が自信をつけ始める「ストレッチ・ゾーン・ラーニング」

パッシブ・ラーニングと比較し、アクティブ・ラーニングは学習効果が高いのですが、2つの理由から、日本を含め、世界的にパッシブ・ラーニングは今でも継続されています。1つは、それが今まで常に行われていた方法だからという点、2つ目は、パッシブ・ラーニングは、ラーニング・プロセスにおける「コンフォート・ゾーン(快適な環境)」にいることを意味し、教師にとっても、学習者にとっても、ずっと心地良いと感じられる環境だからです。

  • ストレッチ・ゾーン・ラーニング

外国語の学習は決して容易なものではありません。なぜなら、コンフォート・ゾーンを抜け出し、ストレッチ・ゾーン(少しチャレンジングな環境)へ向う必要があるからです。学習者にはコンフォート・ゾーンからストレッチ・ゾーンへ一歩を踏み出せるようなサポートが必要です。自信をつけ始めた学習者はチャレンジングな状況に少しずつ対応し、実際のコミュニケーションに言語を使うことができるようになります。

アクティブ・ラーニングは日本では比較的新しく導入されたメソッドなので、最善の方法というには時期尚早かもしれません。 そもそも、自発的に発言することよりも周りとの協調性を重視する教育を受けてきた日本人にとって、ディスカッションやディベートはあまり馴染みがないため、難しく捉えられがちだが、このような文化的な違いが言語学習の上でバリアになるべきではありません。

語学学習では「コンテキスト(文脈)」が最も重要になります。コミュニケーションを取るためにコンテキストを十分に理解し、その会話にエンゲージするは、相手の発言に耳を傾け、積極的にその会話に参加することと言えます。

教育現場の経験を応用したアクティブ・ラーニング

私たちが開発した人財開発プログラム「Excedo(エクセド)」はアクティブ・ラーニングを採用し、学習者がコンフォート・ゾーンからストレッチ・ゾーンに到達するまでサポートします。私たちはこの語学学習方法を自分たちの教育現場の経験から開発しました。バーチャルなグループ演習の前に、学習者が個々、または学習のパートナーと練習をする構成です。このプロセスが学習者の自信につながります。

さらに、現代のビジネスパーソンのライフスタイルに合わせ、モバイル環境で単発的に学習が可能なマイクロ・ラーニングを実現させることにより、継続的な学習と習得を可能にしました。専属のラーニング・カウンセラーを始めとするスタッフやチャットボットによってサポートし、学習者のモチベーションを高めています。

アクティブ・ラーニングによって、学習者自身が学びの理解を深め、個々の自信へつなげていきます。上達を実感することは誰にとっても喜ばしいことです。私たちが最終的に目指しているのは、一人一人が積極的に言語を使えるようになることですが、そのためにまずは「積極的な学習者」になってもらうことが重要だと考えます。

アクティブ・ラーニングはコミュニケーション能力の向上を助けるメソッドです。学習者が自信を持って英語で意思疎通が図れるよう、励める内容の語学学習プログラムの開発に勤しみます。

※出典
Freeman, Scott, Sarah L. Eddy, Miles McDonough, Michelle K. Smith, Nnadozie Okoroafor, Hannah Jordt, and Mary Pat Wenderoth. “Active learning increases student performance in science, engineering, and mathematics.” Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, vol. 111, no. 23, 2004, pp. 8410-8415.

デブラ・マーシュ(Debra Marsh)


Excedo 学習デザインおよび講師管理担当ディレクター。Excedo製品の設計・開発における教授方法を担当。20年以上の教育経験を有する学習の専門家で、学習と教育に尽力。教育用テクノロジーによる学習意欲向上についても高い関心を寄せる。1995年以降、学習イノベーションの最前線で活躍し、初期のオンラインEFLコースの開発やバーチャル学習環境のプロジェクト責任者を務めた。オンライン学習における開発・導入のあらゆる面に関する多くのプロジェクトを歴任。