英語ができなくても外国人と話ができる――かつて、SF系の映画やアニメの世界でしか見かけることがなかった"AI翻訳"の機器が、今やビジネスシーンに普及しつつある。そうなるとこの先、ビジネスマンは英語を学ぶ必要がないのでは? そんな疑問が頭に浮かぶに違いない。果たして、本当にそうなのだろうか。

  • AI翻訳がある今、ビジネスマンに英語学習は必要なのか? - 専門家が解説

    AI翻訳がある今、ビジネスマンに英語学習は必要なのか? 専門家に見解を伺った

グローバル人材育成を目的としたビジネス英語の学習プログラム「Excedo」の共同創設者兼最高執行責任者であるクリストフ・グラウ氏に、「AI翻訳がある今、ビジネスマンに英語学習は必要なのか?」をテーマに見解を伺った。

進化が目覚ましいAI翻訳

AIの進化は目覚ましい。AI翻訳は、人間の翻訳レベルにまでその精度を向上し続けている。2017年、グーグルやマイクロソフトが相次いでヒトの脳神経細胞の学習機能(ニューラルネットワーク)をモデルにした深層学習(ディープラーニング)をAIに導入した。これにより、単語ベースで翻訳をしていた従来のコンピュータ翻訳とは異なる、文脈を把握した上での翻訳が実現し、人の言葉に近いアウトプットが可能になった。このような高精度AI翻訳は、今後、ビジネスにおける高いコストパフォーマンスが見込めるだけでなく、語学学習の労力も削減できることだろう。

ビジネスシーンで、高精度AIが翻訳・通訳を担うことになれば、もはや外国語の学習の必要はない、というような意見も出てきている。では、AIの登場によって、ビジネスにおける言語の壁は取り払われ、我々は近い将来、語学学習の苦労から完全に解放されるのだろうか?

答えはNoだ。「外国語を自国の言葉に翻訳」することと「外国語でコミュニケーションを取る」ことはイコールではないからだ。

日本における英語学習の現状

日本の学校教育では、いまだに英文法学習と英文和訳が授業課題の中心で、多くの英語教員は英語の複雑な文法構造を日本語で説明し、文法問題を解かせることに重きを置いている。そして、英文をいかに正しく日本語訳に置き替えられるかが試験評価の基準になっているので、実践的な英語でのコミュニケーションを学習する機会が少ない。そのため、実際の場で活用できる英語が身に付かず、ビジネスシーンにおいても多くの日本企業は外国人とのやり取りの際に通訳者を同席させている。通訳者は会社の海外出張にも同行し対応する場合がある。

日本企業が海外から情報を収集し、周囲とその情報を共有する必要があった時代には、翻訳は確かに必要なスキルであった。しかし、コミュニケーションが多様化した現代において、外国語で意思疎通を図る場合、言葉の言い換えだけでは十分とは言えない。実際のコミュニケーションは、翻訳に比べてもっと多くの言葉が必要になるだけでなく、感情を会話の間から読み取り、言葉のキャッチボールを通じて「対話相手との関係の構築」することが重要になってくるからだ。

日本企業のグローバル化と英語力の必要性

日本人にとって英語学習は困難だという印象を持っている人も少なくないかもしれない。おそらく今までの学習経験の中で多くの人がモチベーションを維持できず挫折してしまったのではないだろうか。学習者が動機づけられ、些細なワーディングや文法の間違いを気にするより「いかに伝えるか」という点にフォーカスし、学習を継続していれば語学の習得は決して困難なものではなくなるのではないだろうか。

今、日本の英語学習市場には、非常に大きなビジネスチャンスがある。日本企業は、国内市場だけでなく、海外市場をターゲットとするグローバル・ビジネスの戦略を最優先に掲げている。実際に、日本企業の海外生産・海外売上高比率は上昇を続けており、日本貿易振興機構が発表した「ジェトロ世界貿易投資報告」(2017年版)によれば、2016年の日本の対外直接投資は1,696億ドルとなり、2015年と比べ24.3%増と過去最高増となった。製造業企業においては、海外生産・海外売上高比率が既に生産・収益全体の3分の1を超えている。

このような企業のグローバル化に伴い、2010年以降、楽天やユニクロなどの日本の企業が相次いで英語公用語化・準公用語化したことは記憶に新しい。さらに学校教育でも、実際に使える英語習得を目的に動きが生じている。2020年から大学入試の英語試験内容は、読む・聞くが中心の従来のテストから、「書く・話す」を加えたの4技能を評価するように刷新される。評価のために英検、TOEIC、TOEFLなどの外部試験が日本の大学入試に積極的に活用される予定だ。このように現在日本では企業、従業員、学校教育でも新しい英語学習方法を擁護する準備ができている。

ビジネスで必要となる英語力は、単語や文法を学べば養える訳ではない。私たちが提供する学習プログラム「Excedo(エクセド)」は、語学学習の枠を越え、グローバル・ビジネスに不可欠なコミュニケーションスキルと異文化への対応力を身につけることを目的に開発された。日本が初のローンチ国となるが、将来的には他国の学習者ともコミュニケーションが図れるプログラムの提供を目指している。

今後、英語学習はどのように変わっていくか

先に、高精度AI翻訳が言語の壁を打破するには限度があると述べた。しかし、語学学習のプロセスでは、AIは大きな役割を担うだろう。

近い将来AIは、学習パターンの分析や学習中の過程を支援する戦力として期待できる。他の業界と同様に、教育業界も様々な作業がデジタル化され、データドリブンになりつつある。学習者の習熟度など複雑なパターンについては、もっとインテリジェントになることが必要。この分野でもAIを駆使することにより、学習者のペースメーキング、動機付け(励まし)から、個々へのフィードバックまで様々なサポートが可能になる。

ゆくゆくは教育業界がもっとも大きな課題と考える「モチベーションを持続」し、学習を継続してもらうことが解決できるに違いない。「Excedo」においても、より実践的なコンテンツを学習者に届けられるよう、最新デジタル・テクノロジーを駆使し、将来的にはAIの採用を視野に入れつつ、日々研究・開発を重ねている。

実践的な英語の学習を通じて自分の意図を伝え、相手の意図も理解してコミュニケーションを図ることができたら、大きな喜びと自信につながり、さらなる学習意欲が湧いてくる。これこそ人が語学を学習することの醍醐味と言えるだろう。AI翻訳の使用では決して及ぶことができない体験である。

筆者プロフィール: クリストフ・グラウ


Excedo共同創設者兼最高執行責任者(COO)。学習教材出版社の大手マクミラン・エデュケーションにおいてチーフデジタルオフィサー、およびドイツとスイスの合弁企業リンギアー・アクセル・シュプリンガー・メディアのCOOとして、ニュースや広告メディア事業統括を歴任。2017年に最高経営責任者のタス・ヴィグラットシス(Tas Viglatzis)、最高執行責任者のテュー・ドアン(Thu Doan)と共に「Excedo」を創設。現在は、製品開発および事業経営の責任者としてExcedoの学習体験の方向性を指揮。