あなたの周囲に、こんな困った人はいませんか? 意識的か、無意識かは分かりませんが、特定の人をターゲットにしてハラスメント(いじめや嫌がらせ)を繰り返す人。セクハラ、パワハラは今では一般的に知られていますが、それ以外にも細かく分類すると30種類上の様々なハラスメントが存在します。その中でも特に最近話題に上がることが多いモラハラ(モラルハラスメント)について解説します。

  • モラルハラスメント(モラハラ)とは何か? その特徴と対策を解説

    モラルハラスメント(モラハラ)とは何か?

モラハラとは何か?

モラハラとは、モラル(道徳・倫理)による精神的な暴力、嫌がらせのことを指しますので、セクハラやパワハラを包括した概念といえます。パワハラについては、2019年度中に女性活躍推進法の一部改正の中に盛り込まれる予定ですので、これまで以上に企業側には対応が求められ、従業員の意識が高まり、一定の改善が進むものと思われます。

厚労省の統計を見ると、民事上の個別労働紛争(裁判になる手前の労使紛争)のテーマはこれまで「解雇」が圧倒的でしたが、平成24年度を境に「いじめ・嫌がらせ」つまり、ハラスメントが主体となってきました。

  • 厚労省 平成30年6月27日 民事上の個別労働紛争「主な相談内容別の件数推移」

セクハラやパワハラなどハラスメントの意識の高まりを受けて、これまで耐えてきた被害者が声を上げるようになってきたのは良い傾向といえます。しかし、法制化にまで至っていないモラハラについては、まだまだあなたの職場で放置される可能性がありますので、被害に遭わないように自己防衛する意識が必要です。

パワハラは、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性(立場が上)を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える、又は職場環境を悪化させる行為をいいます。つまり権力・権限を盾に理不尽な要求を押し付けてくる行為ですから、分かりやすいのですが、モラハラは上下関係に関わりなく行われる嫌がらせですので、周囲が気づきにくいという特徴があります。

モラハラとはどのような行為か

「無視をする」「組織内で仲間はずれにする」「陰口を言う」「誹謗中傷する」「馬鹿にしたような視線を送る、態度を取る」「冷笑する」「仕事に必要な情報を与えない」「過小な業務しか与えない」「やたらプライベートに介入してくる」など職位の高低に関わらずこのような行為はモラハラに当たります。

  • どんなことがモラハラか

モラハラの事例1「お菓子外し」

例えば"お菓子外し"という言葉を聞いた子があるでしょうか。「お正月、久しぶりに広島に帰ってきましたー。モミジ饅頭を買ってきましたのでご賞味くださいー」と職場の仲間にお菓子を配るのは、長期休暇直後の一般的な職場風景ですが、職場内の一人にだけお菓子を配らなかったとしたら、貰えなかった人はどういうマインドになるでしょうか。

ささいなことのように思えますが、このような特定の人を常にのけ者にしているような"村八分"的な行為は、明らかに相手に嫌な気分にさせることを目的にしたものです。それもその行為を繰り返すことで相手に相当な精神的ダメージを負わせることになるだけでなく、職場全体の雰囲気も悪くしてしまうことになります。

モラハラの事例2「逆パワハラ」

筆者が最近相談を受けることが多くなったモラハラは、"逆パワハラ"です。新たに赴任してきたばかりであったり、転職してきたばかりの上司に対して、部下が「管理職のくせにこんなことも分からないのか」といった馬鹿にしたような態度をとるようなケースです。組織の内情や「本来なら組織のことをよく理解している自分が昇格して責任者になったはずなのに、別のところから上司が来た」ということが面白くないのでしょうか。子供じみた反抗をする部下が上司を悩ませています。

また、パワハラ教育が行き過ぎている企業では、叱られて当たり前の行為をしておきながら、「これってパワハラに当たるのではないでしょうか」と逆に上司を威嚇するような行為もよく耳にします。これが元で部下にしっかりと指導ができずに思い悩む真面目な新任管理職が増えています。

モラハラの被害者になりやすい人の特徴

モラハラに遭う被害者の一般的なイメージとして、生真面目で自己主張をしない人、口数が少ない大人しい人、自己肯定感の低い(自信のない)人が想定されますが、逆に"仕事が出来る人"も被害に遭うことがあります。転職してきたばかりの新参者が、古参の社員からいじめられるのはよくあるケースです。新規に採用された社員は、組織の責任者からの期待が高いので余計に既存社員からの妬みを買う恐れがあります。いきなり活躍したいという思いは理解できますが、周囲の既存社員のマインドに配慮する姿勢も必要です。

モラハラをする人の特徴とは?

モラハラは大人の「いじめ」です。学校での子供のいじめと同様にモラハラする人は以下のような特徴があります。

  • モラハラをする人の特徴とは?

1.自分に自信がない

モラハラ行為を繰り返す人の多くは、自分に自信がない人です。相対的に弱い立場の人に対して繰り返し行う攻撃的な言動は、自覚しているかどうかに関わらず、そのような自信のなさを相手に悟られまいとする虚勢と言えます。

2.モラハラ家庭で育った

親のモラハラを目の当たりにして育った人です。例えば自分の父親が母親に対して行っていたモラハラを、幼少期からずっと目にして育ってきたとすれば「夫婦とはこういうものなんだ」という間違った認識を抱いたまま成長してしまうケースがあります。また、自分自身も親からモラハラを受けていた場合も考えられます。子どもにとって、親との関係は他人と関わる基本となる大切なポイントです。無意識のうちに自身のコミュニケーションスタイルになっている可能性があるのです。

3.親から過干渉・過保護に育てられた

親の言いつけと違う行動を取って失敗すると「お母さんの言うことを聞かないから失敗した」と言い聞かされ、次第に自分で判断して行動することを避けるようになる場合があります。大人になっても親の意見を取り入れて自分の意見として思考するようになると、自分で決めていくことに必要以上にストレスを感じ、そのはけ口としてモラハラに至るケースもあります。

また、親のお膳立ての中で甘やかされて育ってきたにも拘らず、自分一人の力で乗り越えてきたという「オレ様」系(中国だと一人っ子政策により甘やかされてきた若者を「小皇帝」と呼ぶ)の万能感を抱いてしまうこともあります。褒められて当然という感覚なのでしょうか。職場の仲間やパートナーが尊重してくれないと機嫌が悪くなります。

4.大きなストレスを抱えている

一番分かりやすいのは単純に上司や顧客から受けているストレスが原因となっているケースです。一時的にモラハラ的な言動があっても、すぐに謝ってくるのであれば、「しょうがない」と考えてもいいのですが、上記のような根本的な要因が潜んでいる可能性もありますので、気を付けておきたいところです。

いずれにしても共通して言えるのは、幼少期から大人になるまでの人格形成の過程で「自尊心」や「自己肯定感」が適切に育たなかったことで、歪んだ形で「承認欲求」を満たそうと、他人に対して攻撃的になるのです。

モラハラに遭ったときの対策

最も重要なのは、今起きていることがモラハラなのかどうかを知ることです。相手が理不尽な要求をしてくる、非常識な言動が目立つ、常識が通じない、こちらが論理的に話しているのに論点をずらされて話がかみ合わないと感じるならば、それはモラハラを受けている可能性が高いと言えます。

  • モラハラに遭ったときの対策

そもそもモラハラは(セクハラやパワハラもそうですが)、誰かの行為に対して「精神的な苦痛を感じた」「嫌がらせだ」と感じた時点でモラハラです。相手が「そんなつもりではなかった」というのは言い訳に過ぎません。

しかし、モラハラの被害者になりやすい人は、真面目な常識人、いわゆる"いい人"であることが多いのです。いい人自覚がある方は気を付けましょう。その上で、モラハラに遭っていると自覚があれば具体的な行動としては次の3つを検討しましょう。

1.身近な人に相談する

モラハラに遭っている事実を周囲の人に相談することが重要です。真面目な常識人であればあるほど「加害者の悪口を言ってしまうことになるのでは?」「自分にも良くないところがあったのでは?」と自責の念に囚われてしまいます。相手の行為を冷静に、客観的に捉えたうえで、信頼できる身近な人に相談することが第一です。

2.録音する

モラハラの被害に遭っているときに重要なのは、証拠を集めることです。証拠がなければ、誰に相談をしても共感してもらえても、動いてもらうことができません。具体的にはICレコーダーなどで録音しておくことです。特に相手が暴言型のモラハラであれば有効です。今はスマホのアプリでワンタッチ録音が可能ですので、相手に気づかれずに証拠を押さえることが可能です。

あるいは、わざと「録音させてください」と申し出て反撃することで、それ以上のモラハラを防ぐことが可能となります。そもそもモラハラする人は「こいつは私に反抗しない」という根拠のない確信があるからモラハラに及ぶので、反撃する姿勢を見せると途端に怯むことが少なくありません。

3.相手から渡されたメモ、メール、LINEを保存しておく

モラハラの加害者は、相手に対して高圧的な内容の指示書やメモを渡したり、メールやLINEで攻撃したりすることがあります。意外と外面が良い人も多いのですが、メールやLINEでは、暴言を平気で書いてくるケースがあるのです。相手から送られてきた書類やメールなどで非常識な言動を窺わせるものがあれば、捨てずにバックアップを取るなどして、きちんと保存しておくようにしましょう。

また、SNS上でモラハラが行われている場合は、その画面を写真やスクリーンショットで撮影、もしくはプリントアウトしておくことをお勧めします。後になって、相手が証拠隠滅を図り、書き込みを削除してしまう可能性があるからです。2と同様に記録を取っていることを相手に知らせるだけでも、かなりの抑止力が働くものと思われます。

上記の2、3の行為は、たとえ本人に直接訴えることができなくても、第三者(上司、会社、労基署、弁護士など)に相談する際の強力なエビデンスとなります。

最後に

読者の中には「自分がモラルハラスメントをしてしまわないだろうか……」と心配する方がいらっしゃるかもしれませんが、これまで見てきたようにモラハラは、モラル(道徳、倫理)に欠ける「世間知らず」「幼児性が強い」「無責任」な人が起こす行為ですので、常識のある組織人であれば加害者側に回ることはないと思います(セクハラは性差、パワハラは権力が絡むので常識人であっても加害者側に回る可能性はあります)。

本稿を読んでいただいている常識人の読者にお願いしたいのは、周囲のモラハラを見過ごさないようにしていただきたいということです。小中学校であれば、いじめられっ子をかばうような行動を取れば、自分がターゲットになりかねないため、見てみないふりをしてしまい、いじめが陰湿化します。

しかし、職場のモラハラは、権力のある人の行為(パワハラ)ではなく、権力がないにもかかわらず、理不尽な行為をすることです。モラハラの現場に遭遇したら、例えば加害者に「それってモラハラになりますよ」と冗談っぽい雰囲気でさりげなく気づかせたり、上司や人事部門に通報したりするなど事態が悪化する前に表沙汰にするのが賢明です。

麻野進

1963年、大阪でサラリーマンの家で生まれる。大企業から中小・零細企業など企業規模、業種を問わず、組織・人材マネジメントに関するコンサルティングを展開。人事制度構築の実績は100社を超え、年間1,000人を超える管理職に対し、組織マネジメント、セルフマネジメントの方法論を指導。入社6年でスピード出世を果たし、取締役に就任するも、ほどなく退職に追い込まれた経験から「出世」「リストラ」「管理職」「中高年」「労働時間マネジメント」「働き方改革」を主なテーマとした執筆・講演活動を行っている。著書に『幸せな定年を迎えるために 50才からやっておくべき《会社員の終活》41のルール』(ぱる出版)、『課長の仕事術』(明日香出版社)、『「部下なし管理職」が生き残る51の方法』(東洋経済新報社)などがある。