モラハラに遭ったときの対策

最も重要なのは、今起きていることがモラハラなのかどうかを知ることです。相手が理不尽な要求をしてくる、非常識な言動が目立つ、常識が通じない、こちらが論理的に話しているのに論点をずらされて話がかみ合わないと感じるならば、それはモラハラを受けている可能性が高いと言えます。

  • モラハラに遭ったときの対策

そもそもモラハラは(セクハラやパワハラもそうですが)、誰かの行為に対して「精神的な苦痛を感じた」「嫌がらせだ」と感じた時点でモラハラです。相手が「そんなつもりではなかった」というのは言い訳に過ぎません。

しかし、モラハラの被害者になりやすい人は、真面目な常識人、いわゆる"いい人"であることが多いのです。いい人自覚がある方は気を付けましょう。その上で、モラハラに遭っていると自覚があれば具体的な行動としては次の3つを検討しましょう。

1.身近な人に相談する

モラハラに遭っている事実を周囲の人に相談することが重要です。真面目な常識人であればあるほど「加害者の悪口を言ってしまうことになるのでは?」「自分にも良くないところがあったのでは?」と自責の念に囚われてしまいます。相手の行為を冷静に、客観的に捉えたうえで、信頼できる身近な人に相談することが第一です。

2.録音する

モラハラの被害に遭っているときに重要なのは、証拠を集めることです。証拠がなければ、誰に相談をしても共感してもらえても、動いてもらうことができません。具体的にはICレコーダーなどで録音しておくことです。特に相手が暴言型のモラハラであれば有効です。今はスマホのアプリでワンタッチ録音が可能ですので、相手に気づかれずに証拠を押さえることが可能です。

あるいは、わざと「録音させてください」と申し出て反撃することで、それ以上のモラハラを防ぐことが可能となります。そもそもモラハラする人は「こいつは私に反抗しない」という根拠のない確信があるからモラハラに及ぶので、反撃する姿勢を見せると途端に怯むことが少なくありません。

3.相手から渡されたメモ、メール、LINEを保存しておく

モラハラの加害者は、相手に対して高圧的な内容の指示書やメモを渡したり、メールやLINEで攻撃したりすることがあります。意外と外面が良い人も多いのですが、メールやLINEでは、暴言を平気で書いてくるケースがあるのです。相手から送られてきた書類やメールなどで非常識な言動を窺わせるものがあれば、捨てずにバックアップを取るなどして、きちんと保存しておくようにしましょう。

また、SNS上でモラハラが行われている場合は、その画面を写真やスクリーンショットで撮影、もしくはプリントアウトしておくことをお勧めします。後になって、相手が証拠隠滅を図り、書き込みを削除してしまう可能性があるからです。2と同様に記録を取っていることを相手に知らせるだけでも、かなりの抑止力が働くものと思われます。

上記の2、3の行為は、たとえ本人に直接訴えることができなくても、第三者(上司、会社、労基署、弁護士など)に相談する際の強力なエビデンスとなります。

最後に

読者の中には「自分がモラルハラスメントをしてしまわないだろうか……」と心配する方がいらっしゃるかもしれませんが、これまで見てきたようにモラハラは、モラル(道徳、倫理)に欠ける「世間知らず」「幼児性が強い」「無責任」な人が起こす行為ですので、常識のある組織人であれば加害者側に回ることはないと思います(セクハラは性差、パワハラは権力が絡むので常識人であっても加害者側に回る可能性はあります)。

本稿を読んでいただいている常識人の読者にお願いしたいのは、周囲のモラハラを見過ごさないようにしていただきたいということです。小中学校であれば、いじめられっ子をかばうような行動を取れば、自分がターゲットになりかねないため、見てみないふりをしてしまい、いじめが陰湿化します。

しかし、職場のモラハラは、権力のある人の行為(パワハラ)ではなく、権力がないにもかかわらず、理不尽な行為をすることです。モラハラの現場に遭遇したら、例えば加害者に「それってモラハラになりますよ」と冗談っぽい雰囲気でさりげなく気づかせたり、上司や人事部門に通報したりするなど事態が悪化する前に表沙汰にするのが賢明です。

麻野進

1963年、大阪でサラリーマンの家で生まれる。大企業から中小・零細企業など企業規模、業種を問わず、組織・人材マネジメントに関するコンサルティングを展開。人事制度構築の実績は100社を超え、年間1,000人を超える管理職に対し、組織マネジメント、セルフマネジメントの方法論を指導。入社6年でスピード出世を果たし、取締役に就任するも、ほどなく退職に追い込まれた経験から「出世」「リストラ」「管理職」「中高年」「労働時間マネジメント」「働き方改革」を主なテーマとした執筆・講演活動を行っている。著書に『幸せな定年を迎えるために 50才からやっておくべき《会社員の終活》41のルール』(ぱる出版)、『課長の仕事術』(明日香出版社)、『「部下なし管理職」が生き残る51の方法』(東洋経済新報社)などがある。