3月29日深夜放送の『フルーツ宅配便』(テレビ東京系)を最後に、2019年の幕開けを飾る冬ドラマがほぼ終了した。

全話平均視聴率では、『刑事ゼロ』(テレビ朝日系)が11.6%、『3年A組 -今から皆さんは、人質です-』『家売るオンナの逆襲』(ともに日本テレビ系)が11.5%、『トレース~科捜研の男~』(フジテレビ系)が10.8%、『ハケン占い師アタル』(テレ朝系)が10.6%、『メゾン・ド・ポリス』(TBS系)が10.3%と、ズバ抜けたヒットはないものの6作が2桁を記録。さらに『3年A組』は、視聴率以上に大きな反響を集め、今冬最大の話題作となった。

ここでは「学園ドラマは死なず!」「進む事件ドラマの予定調和化」という2つのポイントから冬ドラマを検証し、全20作を振り返っていく。今回も「視聴率や俳優の人気は無視」「テレビ局や芸能事務所への忖度ゼロ」のドラマ解説者・木村隆志がガチ解説する。

※ドラマの結末などネタバレを含んだ内容です。これから視聴予定の方はご注意ください。

  • 片寄涼太、菅田将暉、今田美桜

    (左から)『3年A組』に出演した片寄涼太(撮影:蔦野裕)、菅田将暉、今田美桜(撮影:島本絵梨佳)

ポイント1:学園ドラマは死なず!

プライムタイムの約半数が視聴率獲得の面で失敗の少ない事件ドラマとなる中、『3年A組』の存在は、それだけで異質だった。

「教師が生徒を監禁する」という過激な設定である上に、原作なしのオリジナルで、次の展開が気になる連続のあるストーリー。さらに、「SNSでの暴言を思いとどまらせる」「顔の見えない人の痛みや周囲への影響を考えよう」という身につまされるメッセージも含め、若年層にとっては「こんなドラマは見たことがない」という刺激的かつ希少価値の高い作品となった。

一方、大人の世代にとってこれらの過激な設定は「これまで何度か見てきたもの」であり、刺激や希少価値は薄く、SNSでの暴言というメッセージも「若年層向けで大人には当たり前のこと」という認識の人が多数派。しかし、放送が進むたびに柊一颯(菅田将暉)の熱血授業に惹かれる人が増えていった。

大人の世代にとって柊の熱血授業は、古くから『熱中時代』(日テレ系)、『3年B組金八先生』(TBS系)、『GTO』(フジ系)などで親しんできた好ましいシーン。このところ、「視聴率が獲れないから」と学園ドラマが絶滅しかけている中、「やっぱりいいよね」と感じた人が多かったのではないか。

『3年A組』は、「クライムサスペンス」と思わせておいて、実は「熱血授業をする」というド真ん中の学園ドラマだった。しかも、「若年層にはメッセージも出演俳優も身近であり、大人の世代にとっては胸が熱くなる」という学園ドラマの底力を再認識できたことが、テレビ業界にとって最大の収穫なのかもしれない。

  • 西島秀俊、高畑充希

    『メゾン・ド・ポリス』に出演した西島秀俊(左)と高畑充希

ポイント2:進む事件ドラマの予定調和化

前述したように今冬は、これまでと同等以上に刑事、弁護士、科捜研が主人公の事件ドラマが多く、いずれも“一話完結”“勧善懲悪”という共通点があった。

さらに「主人公に家族を殺されたなどのつらい過去がある」という設定も目立ち、『トレース』『メゾン・ド・ポリス』『刑事ゼロ』『記憶捜査~新宿東署事件ファイル~』(テレ東系)の4作で「その黒幕は警察内部だった」という結末が一致。

いずれも放送前から視聴者が予想していたことであり、かつての『水戸黄門』(TBS系)などを彷彿させる善悪両面での“予定調和化”が進んでいる。視聴率という点では、一定の成果をあげているが、これは「高齢層を中心にした特定の事件ドラマファンはリアルタイム視聴傾向が強い」というだけで、録画視聴率、視聴満足度、ネット上の反響など、他の指標は高くない。

つまり、特定のファンに向けたスポット的なビジネスをしているのであって、高齢化社会を踏まえると必要なことではあるが、先細りであり発展性に欠ける。たとえば事件ドラマでも、『アンフェア』(フジ系)のような連続性のあるミステリーや、『HERO』(フジ系)のようなエンタメ性を追求した作品も可能であり、安全策ばかりではなく視聴者層を広げるトライも見たいところだ。


上記を踏まえた上で、冬ドラマの最優秀作品に挙げたいのは、勇気あるトライで幅広い視聴者層からの支持を得た上に、視聴率やHulu視聴数などの利益につながる結果も出した『3年A組』。「バットを短く持ってヒット狙い」の安全策が目立つ中、「三振かホームランかのフルスイング」のスタンスが見事に実を結んだ。

同じくトライという点では、NHKの『ゾンビが来たから人生見つめ直した件』と『トクサツガガガ』も負けていない。視聴率やスポンサーのプレッシャーがないNHKならではであり、民放各局と比べるのはナンセンスではあるが、事件ドラマに偏っていた連ドラ全体の多様性を担保していたのは間違いない。

主演俳優では、複雑なキャラクターを硬軟織り交ぜて演じた菅田将暉と常盤貴子。助演では、『フルーツ宅配便』の女優陣が光っていた。

  • 【最優秀作品】『3年A組』 次点-『ゾンビが来たから』『トクサツガガガ』
  • 【最優秀脚本】『ゾンビが来たから』 次点-『3年A組』
  • 【最優秀演出】『トクサツガガガ』 次点-『フルーツ宅配便』
  • 【最優秀主演男優】菅田将暉(『3年A組』) 次点-濱田岳(『フルーツ宅配便』)
  • 【最優秀主演女優】常盤貴子(『グッドワイフ』) 次点-小芝風花(『トクサツガガガ』)
  • 【最優秀助演男優】永山絢斗(『初めて恋をした日』) 次点-大東駿介(『ゾンビが来た』)
  • 【最優秀助演女優】仲里依紗(『フルーツ宅配便』) 次点-徳永えり(『フルーツ宅配便』)
  • 【優秀若手俳優】白石聖(『絶対正義』) 田中みな実(『絶対正義』)