ホンダのコンパクトSUV「ヴェゼル」に新グレード「ツーリング」が追加となった。この仕様は最上級グレードで、パワフルな1.5Lターボエンジンを新搭載しているのが大きな特徴だ。新たなパワートレインでヴェゼルはどう変わったのだろうか。既存モデルと乗り比べた。

新たなパワートレインを搭載したホンダの「ヴェゼル ツーリング」

ヴェゼルが発売されたのは2013年12月のこと。街乗りを基本とした全く新しい小型SUVとして注目を集め、発売と共に大人気となった。2018年12月までの5年間で、国内累計販売台数は約36万7,000台を記録。6年目を迎えた現在も安定して売れているホンダのヒットモデルだ。

2018年2月のマイナーチェンジでは、先進の安全運転支援システム「Honda SENSING」(ホンダ センシング)の全車標準化をはじめ、ハイブリッドシステムの改良、静粛性や燃費性能の向上、内外装の小幅な変更などを実施してブラッシュアップを図った。そして今回、マイナーチェンジ車をベースとする新エンジン専用グレード「ツーリング」が登場した。価格はシリーズで最も高価な290万3,040円となる。

前回のマイナーチェンジ車にターボエンジンを搭載し、各部に専用の改良を加えたのが「ヴェゼル ツーリング」だ。リヤスタイルの大きな違いとしては、左右出しとなるマフラーが挙げられる

最大の違いはエンジン! 排気量据え置きでパワーアップ

ホンダが「ツーリング」を投入した狙いは、ヴェゼルの走行性能を強化することだ。

ヴェゼルでは従来、2種類のエンジン(ガソリン仕様)が選べた。1つは1.5Lの4気筒エンジンで、最高出力は131ps、最大トルクは155Nm。もう1つはハイブリッド車で、132ps/156Nmを発揮する1.5Lの4気筒エンジンに、29.5ps/160Nmの駆動用モーターを組み合わせたものだ。エンジン単体の出力がさほど大きくないので、走りを重視するならモーターアシストが得られるハイブリッド一択だった。

特に、最新型のヴェゼルが搭載するハイブリッドシステム「i-DCD」は、燃費最重視だった同システムが、走りの良さと燃費を両立させた「乗って楽しいハイブリッド」へと進化したこともあって、その傾向が強まっていた。ところが、「ツーリング」が搭載する新しい1.5Lターボエンジンは、既存のエンジンと同じ排気量でありながら、ガソリン仕様との比較で最高出力が41ps増の172ps、最大トルクが65Nm増の220Nmと、大幅にパワーアップしている。

さらにホンダは、CVT(無段変速機)のプログラムやボディ補強といった専用チューニングを加えるなど、「ツーリング」の開発に徹底したこだわりを見せている。内外装でも差別化を図り、専用仕様とすることで質感を高めた。

専用仕様となり質感が高まった「ヴェゼル ツーリング」の内装。撮影車はオプションの本革シート仕様だが、標準ではウルトラスエードとフェイクレザーによるコンビシートを装着。シート地の色を専用の組み合わせとし、他グレードとの差別化を図っている

得意領域が異なる2台に試乗

今回の試乗では、ハイブリッド車の「ハイブリッド RS」とターボ車の「ツーリング」の2台を乗り比べた。

ハイブリッド RSは走りの楽しさを意識したグレードで、18インチタイヤ、専用サスペンション、パフォーマンスダンパー、可変ステアリングギアレシオ(VGR)などを装備する。「ツーリング」は同モデルをベースとしながら、パワーアップに合わせた専用仕様となっている。どちらのグレードも、前輪駆動車しか選べない点は共通だ。

「ハイブリッド RS」の価格は281万円で、ツーリングよりも約9万3,000円安い。なお、ガソリン車にも「RS」が設定されているが、こちらは247万5,000円だ

最初に試乗したのは赤の「ハイブリッドRS」だ。マイナーチェンジ後のハイブリッド車には初めて乗ったが、i-DCDの制御システムの改良は、すぐに体感できた。

ハイブリッドには無段変速トランスミッションを組み合わせるのが一般的だが、i-DCDは7速の有段変速トランスミッションを備えているのが大きな特徴だ。このため、変速による力強い加速やエンジンブレーキ効果が得られるのがメリットといえる。普通のAT(オートマチックトランスミッション)車から乗り換えても、違和感が少ないハイブリッドカーだ。

「ハイブリッド RS」の運転席。基本的なデザインは共通だが、メーターパネル内の表示やシフトレバーがハイブリッド車専用となるなど違いがある

ところが、デビュー当初はハイブリッドカーらしく燃費を最重視していたため、走りの気持ちよさはスポイルされている感があった。そこでホンダは、前回のマイナーチェンジで低燃費と走りの良さのバランスを狙ったセッティングを施し、そのキャラクターを立たせたのだ。その結果、ハイブリッドRSは、市街地や峠道などで求められるキビキビした走りを得意とし、スポーツカーライクな運転感覚が楽しめるクルマとなった。これならクルマ好きにも刺さる味付けといえる。

当初はハイブリッドカーらしく燃費を最重視していたが、前回のマイナーチェンジにより、ハイブリッドの良さをいかしたスポーツカーライクな走りを獲得。その走りを最も楽しめるグレードが「ハイブリッド RS」だ

一方、「ツーリング」はターボエンジンを搭載するので、スペックでは断然、こちらの方が上だ。しかしながら、そのキャラクターはハイブリッドRSとはやや異なる。こちらはスポーツカー的ではなく、快適なロングドライブに重きを置いたグランドツーリングカーに仕上がっているのだ。

もちろん、街中や峠道の走りも悪くはない。ただ、トランスミッションがCVTだということもあり、加速がスムーズな反面、モーターアシストと変速のあるハイブリッドと比べると加減速にメリハリがない。低速走行が中心となる街中の走行では、ターボパワーがいかしづらい分、ヴェゼルらしいキビキビした走りが薄まった印象を受けた。これだと、ストップ&ゴーが多いシーンでは、大人しいクルマに感じてしまうだろう。

「ヴェゼル ツーリング」(画像)の価格は290万3,040円から。ちなみに、「ヴェゼル」で最も価格の安いガソリン車「G Honda SENSING」(前輪駆動車)というグレードは207万5,000円からだ(※全車に先進安全運転支援機能「Honda SENSING」が標準装備されるが、一部仕様ではレスオプションが選べる)

その強みを発揮するのは、高速道路だ。合流や追い越しなど、一気に加速する必要があるシーンでは、変速ショックのないスムーズで伸びやかな加速が得られる。ギア比も最適化されているので、高速巡行の静粛性にも優れている。もっとサイズの大きい上級車を運転しているような走りのゆとりが感じられた。

「ヴェゼル」に何を求めるかで選択を

パワートレインが3種類となり、選択肢が増えたヴェゼル。新グレード「ツーリング」が、ヴェゼルでは見られなかった世界を見せてくれたことは間違いない。週末に高速道路を使ったロングドライブを楽しむ人、人と荷物をたくさん載せて趣味を楽しみに出かける人には、魅力的なチョイスとなりそうだ。ただ、ヴェゼルのアーバンSUVとしてのキャラクターを考えると、個人的には、キビキビした走りが光るハイブリッド RSの方が魅力的に感じた。

誤解のないようにいっておくと、「ツーリング」の要となるターボエンジンのポテンシャルが高いのは確かだ。同じエンジンを積む「シビック」では、力強くスポーティな走りを楽しむための良いアクセントとなっている。ただ、私が「ツーリング」を選ばないのは、その完成度のためではなく、クルマのキャラクターを考えた上での判断だ。

大人っぽい上級SUVの要素を求めるなら、ホンダ車では1クラス上に位置する「CR-V EX」の前輪駆動車という選択肢も見えてくる。こちらも同じく1.5Lターボを搭載する。確かに価格とサイズに差はあるが、荷物はたくさん積めるし、より車内も広く、快適なクルマだ。価格の差も、CR-Vの標準装備が充実していることを考えると十分、比較対象になる。

上級SUVをホンダ車で探すなら、「CR-V」(画像)のターボエンジン搭載車も選択肢に入ってくる。確かに価格は高いが、ナビやETC2.0車載機などが標準化されており、「ヴェゼル ツーリング」との価格差は思ったより圧縮される

ヴェゼル同士で比較する場合は、価格が有利なガソリン車、燃費と走りをバランスさせたハイブリッド、圧倒的なパワーのターボから、どれを重視して選ぶかという話になる。個人的にはハイブリッドを推したい。ターボとヴェゼルの組み合わせがより魅力的なものにならないかぎり、最上級グレードの「ツーリング」にはちょっと食指が動かないというのが、正直なところだ。

(大音安弘)