財務省、MBA留学、マッキンゼーを経て、2015年にスタートアップ企業・ウェルスナビを立ち上げた柴山和久さん。お金にまつわる独自のキャリアを生かしながら、現在は資産を自動運用するサービス・ロボアドバイザー「WealthNavi(ウェルスナビ)」の提供を通じて、誰でも手軽に資産形成ができる世の中を作ることにチャレンジしています。

本稿では、そんな経歴を持つ柴山さんに、「社会人3年目」の方をはじめとする自身のキャリアについて悩んでいる読者の方へ向けて、3冊の本を紹介していただきます。


人生100年時代という長いキャリアの中でも、「社会人3年目」はこれからのキャリアを考えるのに最適な時期のひとつです。仕事の進め方がひと通りわかり、職場や業界について何となく肌感覚がつかめてきた頃ではないでしょうか。一方で、そもそも自分のキャリアがこれでいいのだろうかと悩み始める時期かもしれません。私自身もそうでした。

私は財務省に10年近く勤務した後、5年ほどマッキンゼーで働き、「金融 × テクノロジー」で資産運用のスタートアップを起業して4年近くになります。自分ではまったく考えていなかった道のりですが、振り返れば、社会人3年目頃に出会った本からは大きな影響を受けました。

転職が当たり前になり、テクノロジーによって社会が大きく変容しようとしている今、キャリアについて考える機会はますます増えています。ご自身のキャリアや将来について考えたいという皆さんに、2019年の今、ぜひ読んでほしい本を3冊ご紹介します。

『ホモ・デウス』

自分がどこへ向かうかを決めるには、自分を取り巻く世界全体がどこに向かおうとしているのか、その全体像を知ることが大切です。

  • 『ホモ・デウス』(ユヴァル・ノア・ハラリ 著/柴田裕之 訳/河出書房新社)
  • 『ホモ・デウス』(ユヴァル・ノア・ハラリ 著/柴田裕之 訳/河出書房新社)
  • 『ホモ・デウス』(ユヴァル・ノア・ハラリ 著/柴田裕之 訳/河出書房新社)

『ホモ・デウス』(ユヴァル・ノア・ハラリ 著/柴田裕之 訳/河出書房新社)をおすすめする理由は、話が本質的で、全体像をつかむ題材としてぴったりだからです。人工知能(AI)が人間の仕事を代替していくという話をよく耳にするようになりましたが、それは現在生じつつある大きな変化の一部分に過ぎません。

テクノロジーによって人間や社会そのものの仕組みを変えることが可能となり、その流れを押し止めることはできない、と著者ハラリは指摘します。そして、AIなどのテクノロジーが人類をどこに向かわせるのかについて、真正面から考察されています。

ハラリはイスラエル人歴史学者で、大ベストセラー『サピエンス全史』の著者でもあります。人類の一部が自らを創造主へとアップグレードしつつある、というハラリの考察のすべてが正しいとは限りません。しかし、大胆とも言える仮説は、人類の未来への深い考察の上に成り立っています。今後の世界の流れを読み解くにあたり、本書は重要な手がかりとなるはずです。

『世界の一流だけが知っている 成功するための8つの法則』

自分を取り巻く世界がどこに向かっているのかをつかんだ上で、個人はどんな選択をすればいいのでしょうか。

私がマッキンゼーを退職してウェルスナビを創業した頃に読んでいたのが、『世界の一流だけが知っている 成功するための8つの法則』(リチャード・セント・ジョン 著/中西真雄美 訳/新潮社)でした。

  • 『世界の一流だけが知っている 成功するための8つの法則』(リチャード・セント・ジョン 著/中西真雄美 訳/新潮社)

    『世界の一流だけが知っている 成功するための8つの法則』(リチャード・セント・ジョン 著/中西真雄美 訳/新潮社)

この本は500人以上の“成功者”へのインタビューをもとに構成されています。会社経営者、スポーツ選手、映画監督、科学者、探検家など、その道で一流とされている人たちです。彼らを成功に導いた実践的な知恵は、起業家としても大変役に立つ内容でした。

「自分を奮い立たせ、内面のバリアを克服せよ」「アイデアを生み出す魔法はない」「成功とは、まさに自分の人生が人の役に立っていると実感することだ」……。分野は異なれど“成功者”の思考や習慣には共通項があり、実践的でもあります。

一方で、この本を読み進めていくと、より本質的なテーマが別に隠れていることに気付くはずです。それは、誰もが同じ山に登るべきとは限らず、どの山に登るのかは一人ひとりが決めることだ、ということです。

成功の定義は自分自身が決めることであり、両親や友人たち、就職ランキングなど、世間が決めるわけではありません。私にとって「起業」は、それまでの人生で登ったものとは違う種類の山に登ることでした。だからこそ、それぞれ自分の山を選んで登った500人の“成功者”の存在にとても勇気づけられました。

『ミラノ 霧の風景』

登る山がたくさんある中、世界が向かっていく方向に合わせてどの山を登るか決めるべきかというと、そうとも限りません。

もちろん、世界が向かう方向に合わせて山を選べば、経済的には成功する確率が高くなるでしょう。しかし、それは人生の一つの側面に過ぎません。年収が一定水準を超えると幸せを感じにくくなるという国際研究もあるほどです。

  • 『世界の一流だけが知っている 成功するための8つの法則』(リチャード・セント・ジョン 著/中西真雄美 訳/新潮社)

    『ミラノ霧の風景』(須賀敦子 著/白水社)

私は社会人3年目でボストンに留学し、自分自身の人生やキャリアについて悩んでいたころ、たくさんの本を読みふけっていました。その中で一番心に残っているのが、ハーバードの図書館で借りた『ミラノ霧の風景』(須賀敦子 著/白水社)です。

この本は、自らの心の声にしたがって一つの山を登り続けた人物の記録です。敗戦の焼け跡が残る日本から単身イタリアへと移り住んだ著者の20代後半から30代にかけて過ごした日々が、落ち着いた筆致で描かれています。

交わした言葉、街を包んでいた薫り。それらがあまりに鮮鋭に切り取られているので、読者は一瞬、60年代のイタリアにたたずむことになります。人生において印象深い風景は、山頂にだけあるのではないことに気付かされ、そのことに深く勇気づけられます。

これからの人生で歩むべき道、登るべき山について悩んでいる若い方々にぜひ薦めたい珠玉の一冊です。


執筆者プロフィール : 柴山 和久(しばやま かずひさ)

「誰もが安心して手軽に利用できる次世代の金融インフラを築きたい」という想いから、プログラミングをイチから学び、2015年4月にウェルスナビ株式会社を設立。16年7月に世界水準の資産運用を自動化したロボアドバイザー「WealthNavi」、17年5月におつりで資産運用アプリ「マメタス」をリリース。
起業前には、日英の財務省で約10年勤務、その後マッキンゼー・アンド・カンパニーに勤め、ウォール街に本拠を置く10兆円規模の機関投資家を1年半サポート。東京大学法学部、ハーバード・ロースクール、INSEAD卒業。
著書に『元財務官僚が5つの失敗をしてたどり着いた これからの投資の思考法』。