NHKの大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』(毎週日曜20:00~)の第8回「敵は幾万」が24日に放送される。1912年開催のストックホルム五輪大会に日本人として初参加することが決定した金栗四三(中村勘九郎)だが、なんと渡航費が実費! というまさかの展開に。そこで現れた救いの神が、兄・実次(中村獅童)だ。演じる中村獅童は、中村勘九郎と同じ歌舞伎俳優で、2人が竹馬の友という間柄なため、実次役への思い入れは相当深かったようだ。
四三は実次に、藁をもすがる気持ちで資金援助の手紙を出していたが、待てど暮らせど、兄からの吉報は来ない。ある日、ようやく大金を携えて実次が上京してくる。実次によると、四三を思う春野スヤ(綾瀬はるか)の働きかけで資金を得られたとのこと。ところが、四三の壮行会が開かれる頃、スヤは熊本で嫁入りをすることに。果たして四三は、スヤへの思いを諦めてしまうのか?
■勘三郎・勘九郎親子への思い
――四三の兄・実次役は、どんな思いで演じられましたか?
勘九郎さんとは、若手の公演である新春浅草歌舞伎を10年近く一緒にやってきました。亡くなった勘三郎兄さんにも息子のようにかわいがっていただいたし、2人で一緒に怒られたりもしてきました。そんな勘九郎さんが、歌舞伎以外の大河ドラマに出演し、ましてや主役でとなった時、微力ながら自分も力になれたらと思ったし、勘三郎兄さんに対する思いもありました。しかも兄弟役をやらせていただけたことは、非常にありがたかったです。
――第8話では、どんな点を意識して演じましたか?
弟のためにと張り切っていいことをした実次さんが、いかにもおのぼりさん的に都会にやってくる。声がでかいし、すごく外してるけど、自分では全く気づいてない感じです。きっと目に入るあらゆるものが新鮮だったに違いないです。
父親を早くに亡くし、長男として自分が一家の長だという責任感から、弟たちには子どものころから厳しくしてきたんだと思います。また、弟が自分にできなかったことを実現しようとしているという、家族の活躍は彼にとっても非常に喜ばしいことなんじゃないかなと。
■亡き父と実次との共通点
――弟思いの実次役ということで、共感する部分も多かったですか?
勘九郎さんと一緒に育ってきたので、お芝居をするうえでも思い入れが深かったです。また、僕の父は、萬屋錦之介と中村嘉葎雄の兄ですが、パーッと熱くなるタイプの人だったようで、子役時代に大先輩に向かってかつらを投げ、歌舞伎をやめてしまった。なぜ投げたかというと、弟たちが怒られたことに対して「やめろ! 俺もやめてやる!」と、間違った方向に行ってしまったようで(苦笑)。弟思いという部分では、なんか似ているなと思いました。
――そこで、お父さんとの共通点を見出したわけですね。
うちの親父と重ね合わせるつもりはなかったけど、本を読んでいくと、うちの親父が浮かんできました。親父は歌舞伎を廃業した人間なので、僕が歌舞伎の世界に入った時「やりたいのならやればいいけど、歌舞伎の世界では自分が手助けすることはできない。でも、好きだったらやりなさい」と言ってくれました。
親父は僕の初舞台をはじめ、子役時代の舞台は一度も観に来たことがなかったです。でも、30歳を過ぎて、ある映画で少しみなさまに知っていただけるようになり、歌舞伎のほうでも役がいただけるようになっていきました。その後、自分が初めて主役を務める新春浅草歌舞伎をやらせていただいた時、幕が開いたら、まだ、何も始まってないのに、真正面で誰よりもでっかい拍手をしている人がいて。それがうちの親父でした。何もできないと言いながら、陰では心配し、いろんな人に頭を下げてくれていたことも、あとから知りました。
――実次さんも四三のために、いろいろな人たちに頼み込んだようですね。
なんとしてでも弟にいい思いをさせてあげたいということで、頭を下げるだけ下げるんです。宮藤さんの脚本は、そこもお涙ちょうだいじゃなくて、どこかクスッと笑えるところがいいですね。だから僕も、変にウケを狙おうとせず、真っ直ぐに演じようと思いました。
この前、電車で旅立つ四三を見送るシーンも、普通に演じたらあんなに鼻水が出ちゃいました(苦笑)。自分もあそこまで泣くとは思ってなかったけど、最初から感情移入してしまい、それを監督が拾ってくれました。やっぱり芝居は一期一会ですし、狙ってあんなに鼻水は出ないです。余計なことはせず、いつも真っ直ぐに演じるだけです。
■スヤ役の綾瀬はるかの魅力
――綾瀬はるかさん演じる天真爛漫なスヤがとてもチャーミングです。綾瀬さんとは何度も共演されていますが、今回の役の印象はいかがですか?
綾瀬さんは普段からああいう雰囲気で、天然というか、すごくピュアだし清潔感があります。僕はNHKの『精霊の守り人』(16~18)や『八重の桜』(13)、映画では『ICHI』(08)など、実は共演作がすごく多くて。綾瀬さんはキャリアを重ね、どんどんいい女優さんになっていってるけど、ピュアな感じは全く変わらないです。
うちの息子は綾瀬さんが大好きで、一緒に雑誌のページをめくっていたら綾瀬さんの広告が入っていて大喜びしたんです。本当に女性が好きで、誰に似たんだろうなと(笑)。
また、彼女は運動神経がめちゃくちゃいいので、とにかく体がよく動きます。自転車で列車と並走するシーンでも、昔の自転車だから乗りにくいし、怖かったと思うけど、芝居に入るとすっと行ける人。その根性もすばらしい。最近まで、僕のことを“シュドウくん”と呼んでいたけど、かわいいから許しちゃう。運動神経と根性がすばらしい。
■チャレンジングな作品との出会いに喜び
――獅童さんは、宮藤官九郎さん脚本の作品にも、何本か出演されていますね。
僕の役者人生の転機となった作品が、宮藤さんの脚本による『ピンポン』(02)で、僕はオーディションでドラゴン役をつかみとりました。そのあと出演した『木更津キャッツアイ』や『アイデン&ティティ』(03)も宮藤さんの脚本です。また、海老蔵さんとの歌舞伎で『地球投五郎宇宙荒事』(15)もそうだし、すごくたくさんの作品に出させてもらっています。
――大河ドラマとしては、かなりチャレンジングな作品と言われている本作ですが、参加してみていかがですか?
役者は常に何かにチャレンジしたいと思っています。ものを作る方々や監督もそうだと思いますが、大河ドラマという長い歴史のなかで、本作は1つの挑戦だと思いました。だからこそ、賛否両論もあるわけで、斬新でいいと言われることもあれば、大河らしくないと言う方もいらっしゃるでしょう。
でも、そこに向かっていくこと自体が挑戦かと。僕としては、宮藤さんの脚本や監督を信じて、ただただ情熱を持って演じるだけです。また、そういった作品に巡り会えるのは、我々からしてみると喜ばしいことです。命懸けで演じるってことは、勘三郎兄さんの教えでもあります。今後も全身全霊で心を込めて演じようと思っています。
中村獅童(なかむら・しどう)
1972年9月14日生まれ、東京都出身。祖父は昭和の名女形・三世中村時蔵、父はその三男・三喜雄。叔父に映画俳優・萬屋錦之介、中村嘉葎雄。8歳のときに歌舞伎座で初舞台を踏み、二代目中村獅童を襲名。歌舞伎のほか、時代劇、現代劇、映画やドラマなどでも活躍。映画の近作は『日本で一番悪い奴ら』(16)や『デスノート Light up the NEW world』(16)、ドラマは『放送90年大河ファンタジー 精霊の守り人』(16~18)や『トットてれび』(16)など。
山崎伸子
フリーライター、時々編集者、毎日呑兵衛。エリア情報誌、映画雑誌、映画サイトの編集者を経てフリーに。映画やドラマのインタビューやコラムを中心に執筆。好きな映画と座右の銘は『ライフ・イズ・ビューティフル』、好きな俳優はブラッド・ピット。好きな監督は、クリストファー・ノーラン、ウディ・アレン、岩井俊二、宮崎駿、黒沢清、中村義洋。ドラマは朝ドラと大河をマスト視聴。
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