『仮面ライダージオウ』で20作を数える人気シリーズ「平成仮面ライダー」の"歴史"をふりかえる企画の第15弾は、『仮面ライダー鎧武』(2013年)をとりあげる。
前作『仮面ライダーウィザード』(2012年)は「指輪/宝石」、その前の『仮面ライダーフォーゼ』(2011年)は「ロケット/宇宙服」と、各シリーズで活躍する(主役の)仮面ライダーには明確なモチーフがデザインに盛り込まれる場合があり、視聴者に強烈なインパクトを残している。そんな中、本作では奇抜といえばあまりにも奇抜すぎるモチーフが採用された。それが「フルーツ」と「戦国武将」という取り合わせである。
『仮面ライダー鎧武』とは、2013(平成25)年10月6日から2014(平成26)年9月28日まで、テレビ朝日系で全47話が放送された連続テレビドラマである。「ライダー戦国時代」というキャッチコピーが付けられた本作では、天下統一に向けてさまざまな武将(仮面ライダー)たちが現れ、ある者は正攻法の技で戦い、ある者は知恵を働かせて策略をめぐらせるなど、それぞれの特性を活かしながら激しくぶつかりあうという「仮面ライダー同士の群像劇」に作劇の重点が置かれた。
経済、教育、医療、福祉などあらゆる面で人々の生活を支える巨大企業「ユグドラシルコーポレーション」の傘下にある計画都市・沢芽(ざわめ)市では、いくつかのグループに分かれた「ビートライダーズ」と呼ばれるストリートダンスチーム同士の勢力争いが激化していた。元「チーム鎧武」のメンバーで、現在はフリーターとして忙しく働いている葛葉紘汰(演:佐野岳)は異世界の「森」の中で不思議なベルト「戦極ドライバー」と錠前型アイテム「ロックシード」を拾ったことがきっかけで、アーマードライダー「鎧武」に変身。人間を超える強大な力を手に入れた紘汰は激しく戸惑いながらも、危険な怪物インベスから人々を守るため戦う決意を固める。やがて、紘汰と同じく戦極ドライバーとロックシードを手にしたアーマードライダーたちが次々に出現し、互いの主義主張や理想をぶつけあう"戦い"が勃発する……。
『鎧武』でまず注目が行くのは、フルーツを模した「鎧」を装着する各アーマードライダーのビジュアルだろう。第1話放送前の新番組予告でも強調されていたように、紘汰が戦極ドライバーにロックシードを装填すると、その頭上の空間にクラック(裂け目)が発生。その中から降りて来た巨大なオレンジ(を模した物体)は紘汰の頭に被さった後、ゆっくりと展開して上半身の装甲へと変形する。頭の上にフルーツが落ちてきて変身、という大胆なギミックは玩具商品でも忠実に再現され、その"意外性"によって子どもたちに好評を博した。
鎧武/葛葉紘汰とは常に反発し合うライバル関係にあり、何者にも負けない"力"を追い求めるチームバロンのリーダー・駆紋戒斗(演:小林豊)は「仮面ライダーバロン」、ユグドラシル本社重役を父に持ちながら、そのことを隠してチーム鎧武に参加していた呉島光実(演:高杉真宙)は「仮面ライダー龍玄」、ユグドラシル研究部門のプロジェクトリーダー(主任)を務める実力者・呉島貴虎(演:久保田悠来)は「仮面ライダー斬月」に変身。そして仮面ライダー黒影/初瀬亮二(演:白又敦)、仮面ライダーグリドン/城乃内秀保(演:松田凌)といった他のビートライダーズも参戦し、ダンスチームのテリトリー争いが激化する。そこに、元傭兵で戦闘能力の高い屈強な"オネエ"キャラであり、洋菓子店「シャルモン」を営むパティシエでもある凰蓮・ピエール・アルフォンゾ(演:吉田メタル)が乱入し、アーマードライダーの戦いは大乱戦の様相を呈する。
当初「ダンスチーム同士のテリトリー争い」で始まった『鎧武』のストーリーだが、やがてその裏に潜む大人たち(ユグドラシル)の陰謀や、異世界「ヘルヘイムの森」の恐るべき実態、人類の脅威である「オーバーロード」の全貌などが明らかにされ、話のスケールが回を追うごとに拡大。これに伴って、最初はアーマードライダーの強大な力に戸惑っていた紘汰が、自らに与えられた使命を自覚し、最終的には人類を滅亡から救う戦いに身を投じていくという「ヒーローの成長物語」が1年を通じてじっくりと描かれた。
紘汰たちが変身に用いる戦極ドライバーよりも高い能力を備えた「ゲネシスドライバー」で変身する新世代ライダー~仮面ライダー斬月・真/呉島貴虎、仮面ライダーデューク/戦極凌馬(演:青木玄徳)、仮面ライダーマリカ/湊耀子(演:佃井皆美)、仮面ライダーシグルド/シド(演:波岡一喜)~が登場する中盤展開より、ストーリーはどんどんシリアスで悲壮な方向へと転がっていく。第1話で消息不明となったチーム鎧武リーダー・角居裕也(演:崎本大海)のショッキングな"行方"が判明したり、初瀬がヘルヘイムの果実を口にしたことによってインベスに変貌したりと、紘汰にとって大きな精神的ダメージとなる出来事も多発した。そして、チーム鎧武の仲間・高司舞(演:志田友美)に想いを寄せ、彼女を守りたい一心で紘汰たちを欺き、目的のためには紘汰や兄・貴虎を攻撃するのも躊躇がない光実の"暴走"と"破滅"に至る経緯なども描かれていった。
前半で巧みに張られたいくつかの伏線が、後半で次々と回収されていくシリーズ構成の緻密さが本作の魅力のひとつであり、1年間を通じてさまざまな人物の"成長"と"発展"あるいは"末路"が描かれていった。『仮面ライダー鎧武』を彩った個性豊かなキャラクターが織りなす、激しすぎる"戦い"のドラマは今もなおファンの間で熱く語られている。
ちなみに、本作は平成仮面ライダー第15作目ということで、第1作『仮面ライダー』(1971年)から劇場映画『仮面ライダーJ』(1994年)に登場した歴代"昭和"仮面ライダー15人(1号、2号、V3、ライダーマン、X、アマゾン、ストロンガー、スカイライダー、スーパー1、ZX、BLACK、BLACK RX、シン、ZO、J)と、平成仮面ライダー(クウガ、アギト、龍騎、ファイズ、ブレイド、響鬼、カブト、電王、キバ、ディケイド、W、オーズ、フォーゼ、ウィザード、鎧武)がその存在をかけて"激突"するという映画『平成ライダー対昭和ライダー 仮面ライダー大戦 feat.スーパー戦隊』が2014年3月29日に公開され、昭和世代および平成世代の仮面ライダーファンの心を興奮で燃え上がらせた。昭和と平成のどちらのライダーが"勝利"を収めるか、ネットや全国映画館で厳粛なる投票が行われ、得票数が高かったほうのラストシーンを見せるという異例の試みも、各方面から大いなる話題を集めていた。
『鎧武』テレビ本編で活躍したキャラクターたちを主演に据えてのスピンオフVシネマも、放送終了後に製作されて大好評となった。2015年4月22日には、仮面ライダー斬月/呉島貴虎と仮面ライダーバロン/駆紋戒斗をメインにした2つのエピソードからなる『鎧武/ガイム外伝 仮面ライダー斬月/仮面ライダーバロン』が、2015年11月11日には仮面ライダーデューク/戦極凌馬と仮面ライダーナックル/ザック(演:松田岳)がメインの『鎧武/ガイム外伝 仮面ライダーデューク/仮面ライダーナックル』が発売された。そして最新の情報としては、2019年3月に舞台『仮面ライダー斬月』 -鎧武外伝-が上演されることが明らかとなっている。登場キャラクターがみな濃厚で魅力的な存在感を有する『鎧武』ならではの、スピンオフ作品の充実ぶりも見逃せない要素である。
次回は、愛車トライドロンを駆って人類の脅威である人工生命体ロイミュードと戦う「刑事で仮面ライダー」泊進ノ介の活躍を描いた『仮面ライダードライブ』(2014年)の概要をご紹介しよう。
映画『平成仮面ライダー20作記念 仮面ライダー 平成ジェネレーションズ FOREVER』は現在大ヒット公開中。なお、マイナビニュースでは平成仮面ライダー20作を記念した『仮面ライダー平成ジェネレーションズFOREVER』大特集を展開している。
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