去る11月、お笑いコンビ「ガンバレルーヤ」のよしこさんが脳下垂体に腫瘍ができる病気・下垂体腺腫を患っていることを所属事務所であるよしもとクリエイティブ・エージェンシーが発表した。よしこさんは芸能活動を一時休養していたが、手術と治療を終えて12月中旬に仕事へ復帰。以降はさまざまなメディアで以前と変わらぬ元気な笑顔を見せている。

ところで、この下垂体腺腫なる病気を今回のよしこさんの報道を受けて初めて聞いたという人も少なくないだろう。下垂体腺腫は脳の一部である下垂体と呼ばれる部分に良性の腫瘍が生じる病気であり、命を直接脅かす可能性はほぼないが、QOLを害するケースが多々生じてくる。具体的にどのような病気なのか、高島平中央総合病院脳神経外科部長の福島崇夫医師にうかがった。

  • 下垂体腺腫の症状や原因、手術方法を脳外科医に聞いた(画像は本文と関係ありません)

    下垂体腺腫の症状や原因、手術方法を脳外科医に聞いた(画像は本文と関係ありません)

下垂体は頭蓋内の底の部分、ちょうど眉間の奥ぐらいに位置し、さまざまなホルモンを分泌する役割を担っている。前葉と後葉に分けられ、それぞれから産生・分泌されるホルモンは異なる。下垂体腺腫は前葉から発生するが、腫瘍が大きくなると後葉に影響を及ぼすこともあるという。

主に分泌されるホルモンは以下の通りだ。

■前葉……副腎皮質刺激ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、成長ホルモン、黄体化ホルモン、卵胞刺激ホルモン、プロラクチン。
■後葉……抗利尿ホルモン、オキシトシン。

これらのホルモンのうち、例えば、副腎はストレスがかかったときに体を守るホルモンを出すし、甲状腺は体の発育を促進し、新陳代謝を盛んにするためのホルモンを分泌している。これだけ数多くのホルモンと関わっているだけに、下垂体に何らかの異常が生じれば、その影響は非常に多岐にわたることが想像できるだろう。

下垂体腺腫は2つのタイプに分けられる

下垂体腺腫は「ホルモンを過剰に産生・分泌するタイプ」と「ホルモンは産生せずに大きくなった腫瘍の圧迫によってホルモンの産生・分泌量が極端に少なくなるタイプ」の2つに大別でき、それぞれのタイプで付随してくる症状が異なる。一つずつ詳しく見ていこう。

ホルモン過剰分泌型

このタイプの下垂体腺腫は、ホルモンの過剰分泌により体重減少や発汗過多、高血圧といったいろいろな症状が認められる。「鼻とあごが急に大きくなった」と自身の経験を語っているよしこさんの場合、成長ホルモンが過剰に産生されることによる「先端巨大症(顔貌の変化や手足のサイズ増大など)」を発症していた公算が大きい。

「同窓会で十数年ぶりに会った際に『顔つきが変わったね』と言われたり、指輪や靴のサイズが合わなくなったりといったケースでは成長ホルモン産生下垂体腺腫(先端巨大症)が考えられますね」

そのほか、副腎皮質刺激ホルモンが過剰に分泌されることで、普段通りの食事をしていても数カ月程度で肥満になってしまうケースも起こりうる。その太り方も独特で、手足は普通で胴体部分だけ太くなったり、顔がまるで満月のように丸くなったりしてしまうという。この「中心性肥満」と「満月様顔貌(まんげつようがんぼう)」は、副腎皮質刺激ホルモン産生下垂体腺腫の特徴的な症状として知られている。

「また、女性がプロラクチン産生下垂体腺腫に罹患すると、生理不順や無月経になったり、妊娠していないのにあたかも出産後の女性のように乳汁が出てしまったりするケースもあります」

ホルモン非産生型

このタイプの下垂体腺腫は、前述のような諸症状が出現しない代わりに、大きくなった腫瘍自体が下垂体の近くにある視神経を圧迫。その結果、だんだん視界が狭くなる視野障害が起きるという。

「ゴルフ中に自分の打った球がスライスすると、その弾道を目で追えずにボールが視界から消えたり、たくさんの人が往来する場所で頻繁にぶつかったりするといったことが起きるようになります」

  • 頭部MRI

    頭部MRI(画像は高島平中央総合病院提供)

このほか、非産生型では「下垂体機能低下症」にも注意が必要だ。大きくなりすぎた腫瘍が下垂体を圧迫し、ホルモンの分泌が滞ったせいで付随的にさまざまな症状が起きることを指す。

仮に甲状刺激腺ホルモンが出なければ、全身の倦怠感や疲れやすさに襲われやすくなる。副腎皮質刺激ホルモンがうまく出なければ風邪をこじらせやすくなり、卵胞刺激ホルモンや黄体化ホルモン分泌に支障が出れば、女性は生理不順や無月経に悩まされるようになる。