毎年恒例のフジテレビ系演芸特番『Cygames THE MANZAI 2018 マスターズ』が、きょう9日(19:00~22:24)に放送される。今年も、ビートたけしとナインティナインをMCに迎え、豪華21組による“年に一度の漫才最高峰の祭典”が繰り広げられるが、実はスタジオセットも非常に豪華。この秘密を知れば、ネタがより楽しめるはずだ。
演者の反応が全然違う
デザインを手がけたのは、フジテレビ美術制作局の鈴木賢太氏。他にも『ENGEIグランドスラム』『IPPONグランプリ』『ワイドナショー』『VS嵐』『ジャンクSPORTS』などを手がけ、フジのバラエティに欠かせないデザイナーだ。
『THE MANZAI』はもともと、1980年代初頭に放送されていた番組で、2011年に賞レースとして復活。15年から、現在の“年に一度の漫才最高峰の祭典”というスタイルになった。ここで、当時演出を務めていた藪木健太郎氏から鈴木氏に相談があったのは「1年の間で唯一、『THE MANZAI』だったらネタを新規で書いてきてくれるような気合の入る舞台にしたい」ということ。
そこで、80年代当時も使っていた赤と金を上品に施し、シャンデリアを配置したり、LEDを多用して舞台上をきらびやかにしたり、さらには舞台奥のはっきりと見えない場所にまで下手にペガサス、上手にケンタウロスがそびえ立つこだわりぶりで格調高い雰囲気を演出。『M-1グランプリ』『R-1ぐらんぷり』『キングオブコント』といった他のネタ番組との差別化を図った。
こうしてステージが完成した一方、客席側にも工夫を施している。こちらは『ENGEIグランドスラム』のノウハウを生かしたもので、「どの芸人も一番やりやすい」と言われる大阪・なんばグランド花月の劇場を再現した。鈴木氏は、実際になんばグランド花月のステージに上がり、演者からの目線や観客との距離、音響の跳ね返りなどを体感。客席をすり鉢のような巨大なひな壇にして2階席まで作ることで目の前の客のリアクションが分かるようにし、セットに天井を設けることで笑いの反響を増幅させる仕掛けを作った。鈴木氏は「やっぱり演者さんの反応が全然違います。このステージでウケると、とても気持ちよくなっていただけるようです」と、手応えを語る。
建て込み時間は通常番組より半日増
毎年変わらないように見えるステージだが、実は年々進化している部分もあるという。昨年導入したのは、舞台上で演者の背後にある「自動昇降カメラ」。漫才師越しに客席を映すことで、「スタジオの空気感が一番きれいに撮れる」という効果がある。
カメラマンが演者の背後から撮るとそれが正面から見えてしまい、カメラマンが見えない位置から撮ると臨場感が薄れる。また、固定カメラを置くと、テンションの上がった演者が蹴ってしまう恐れもある…それを解決する方法は無人で自動の昇降式カメラを作るしかないという結論に達し、演者が登場するときは舞台下に隠れ、通り過ぎて漫才が始まったらニョキッと生えてくるように出てくるカメラが設置されているのだ。
そして今年は、舞台中央に手前から奥にかけて、新たに赤いラインを引いて、漫才師がまるでレッドカーペットの上を歩くような雰囲気を作り出している。東京スカパラダイスオーケストラによる出囃子とともに、演者が一層テンションを上げて漫才に臨める効果を生み出すだろう。
これだけさまざまな工夫を凝らしたセットだけに、建て込みには2日間も必要とし、「通常の番組より半日多くかかります。美術スタッフは冗談じゃないですよね(笑)」と苦笑い。「普通は木工で舞台機構を作るんですが、ここまでくると強度も考慮するので鉄骨が入って、建物を作る感じです。もし、客席がグラついてたら、お客さんも安心して笑えないですからね。良いセットというのは装飾が豪華なのは当然なんですけど、見えないところに安心も忍ばされているものだと思うんです」と、デザインにとどまらないこだわりを教えてくれた。
恒例の「開会宣言」今年は…
“最高顧問”のビートたけしは、80年代の『THE MANZAI』で「ツービート」として毎回漫才を披露していたが、「余計に褒めるようなことをされる人ではないので、セットを見て『あぁ』と納得されているのが分かりました」とのこと。近年の『THE MANZAI』は、たけしが冒頭で「開会宣言」を行うことが恒例となっているが、「今回は、湾岸スタジオの屋上で結構な大仕掛けのロケをしています」と予告した。鈴木氏は、そこでのたけしの衣装もデザインしている。
「美術デザイナーというのは、基本は番組のセットをデザインしますが、そこでの色味や空気感を作る仕事ですから、場合によっては演者さんの衣装や番組のロゴを考えたり、ストーリー性のあるものを作りたいとなったら、簡単なコンテを書くこともあります」という鈴木氏。「普通に考えたら面倒な頼まれ事なんですけど(笑)、僕としてはやっぱり最終的に面白いものを作りたいという欲求があるので、そのための礎になるんだったら喜んでやりますね」と話し、フジのお笑いを影で支えるプライドを垣間見せていた。