思わず「これって雑誌の『VOGUE』ですか?」と聞きたくなるハイクオリティのファッションマガジンが、勤労感謝の日に都内の書店で無料配布され、今密かに話題を集めている。誌面でモデルたちがカッコよく着こなしている衣装は、当然ハイブランドの物ばかり……と思いきや、実は違う。なんと、すべて中小企業のユニフォームなのだ。

  • このファッション誌、服はすべて中小企業の作業着!? 作り手に想いを聞いた

    雑誌『NN CHUSHOU UNIFORMS』の中面

しかも、雑誌を作ったのはファッション誌とはまったく無縁の保険会社「エヌエヌ生命」。これは、どういうことなのか? 企画を立ち上げた同社広報部の方々に話を聞いてみた。

  • 雑誌の企画立案に携わった「エヌエヌ生命」の広報・武井発子さんと徐 英剛さん

雑誌の目的は「中小企業を盛り上げる」ため

「うちなんて、しがない中小企業で~」というフレーズを枕詞に使うビジネスマンも多く見かけるように、何かとネガティブなイメージをまといがちな"中小企業"。でも実際は、日本企業の99.7%が中小企業で、大企業はごくごくわずかの0.3%(※平成26年経済センサスより)。つまり"中小企業が日本を支えている"と言っても決して過言ではないのだ。

  • 雑誌『NN CHUSHOU UNIFORMS』の表紙

だからこそ、「もっと中小企業で働いていることに自信を持っていこうぜ!」と言っても、なかなか中小企業ワーカーたちの心には響かない。若者には特に。それゆえ、地方では人材不足が深刻化しており、マンパワーが足りないために廃業に追い込まれる会社も少なくないのが現状だ。

  • 誌面構成。まるで有名のファッション誌のようなビジュアルたち

そんなとき、"中小企業を盛り上げたい"との想いで立ち上がったのが、保険会社の「エヌエヌ生命」。同社の広報を担当する武井発子さんと徐 英剛さんは「弊社では会社のスローガンとして"中小企業サポーター"を掲げており、法人向けの生命保険商品やサービスを提供しています。だからこそ、お客さまである中小企業の皆さまにどのように役に立てるのかということを常々考えており、今回の企画もその一環です」と話す。

  • 雑誌を通じて「もっと若者たちに中小企業への関心や誇りを持ってほしい」という想いを語る、広報のお二人

中でも、今回の中小企業ユニフォームを使ったファッション誌発行は、特に若者たちに向けた企画だという。「若い人材が不足している企業が多い背景がありますので、若者たちに"中小企業で働きたい"と思ってもらえるような企画ができれば、と思い切って取り組んでみたのが今回の雑誌です。SNSが流行していることからもわかるように、若者たちにとって"ビジュアル"はとても重要な要素。そこで中小企業のユニフォームをあえてファッション誌風に仕立てることでビジュアルの面白味を意識してみました。"ユニフォームという日常"と"ファッション誌という非日常"の異色のコラボを楽しんでほしいと思っています」

誌面作りへの並々ならぬ、こだわり

雑誌のタイトルは、ずばり『NN CHUSHOU UNIFORMS』。気になるその中面はというと、外国人モデルが中小企業のユニフォームを華麗に着こなした、超クールなグラビア写真が並んでいる。重機工業の重厚な雰囲気の作業着、誘導棒とセットの整備員服、「カニ」と書かれた商店の半被、OLさんのお馴染み制服……と、衣装はバリエーション豊かな10種類。

  • カニを取り扱う企業の写真には、なんと実物のカニを使用!

衣装の着こなしはもちろんのこと、ヘアやメイク、照明、誌面デザイン・装丁などすべてがハイクオリティに仕上がっている。それもそのはず、写真を内川聡氏、スタイリングを大橋貴志氏、ヘアメイクを友森理恵氏という、第一線で活躍するクリエイターたちが手掛けているのだ。有名ファッション誌と並べても孫色ない出来映えとなっている。

  • 重機工業の作業着も、こんなにカッコいい写真に

  • ノーマルの作業着はこちら

また、こだわったのは画づくりだけではない。「企業にとってユニフォームは、伝統や誇り。一つひとつに長いストーリーが込められているものです。誌面では、どのような企業なのかわかる解説文も掲載しているほか、それぞれの写真も企業やユニフォームのイメージを投影したものになっています。誌面を通して、各企業の想いや歴史なども感じていただけると嬉しいですね」

日本の中小企業はカッコいい!

同誌は、11月23日の「勤労感謝の日」に東京・八重洲ブックセンター本店にて無料配布されたのだが、あっという間に配布数がなくなるほどの人気ぶりだったという。また、若者を中心に、SNSでも数多くの投稿が見られたそうだ。まさに狙い通りと言えるだろう。ちなみに雑誌はホームページからも閲覧できるのでぜひチェックしたい。

  • 書店でのブースの様子

今後の展開については、「普段、メディアに取り上げられることがある中小企業はごくごく僅かです。でも、素敵な企業はまだまだたくさんあります。今後、またファッション誌を発行するかは未定ですが、さまざまな企画を通して、中小企業の魅力を伝えていきたいと思っています」とのこと。

「仕事がつまらないなぁ」と思っている人、「やっぱ大企業で働きたい」と思っている人、そして「中小企業ってダサい」なんて思っている人。一度、この雑誌を読んでみてほしい。きっと中小企業へのイメージがガラリと変わるに違いない。