国立感染症研究所の発表によると、10月17日現在、今年の風疹患者累積数は1,289人で、昨年の93人の約14倍となっています。
とくに妊娠中の女性が感染すると、胎児に影響を与えることもあると言われる風疹。感染を防ぐため、妊娠中の女性はできるだけ人の多いところに行かないようにと言われていますが、仕事をしている人はどうしても通勤電車や接客など避けられませんよね。
今回は風疹の基本から働く妊婦さんの注意点などについて、産婦人科専門医の十倉陽子医師にお話を聞きました。
妊娠中の女性が風疹にかかるとどのような問題があるのでしょうか?
妊娠の初期に風疹に感染すると、先天性心疾患、白内障、難聴を特徴とする「先天性風疹症候群」が赤ちゃんに出てくる可能性があります。
2012年から2013年に全国的な風疹の感染の流行が起こった際には、この時期に45例の先天性風疹症候群の赤ちゃんが生まれたと報告されていて、先天性心疾患、難聴、白内障をはじめ、血小板減少、小頭症、子宮内発育遅延、髄膜脳炎などの症状が報告されています。
とくに妊娠の早い時期に感染が起こるほどリスクが高く、1カ月で感染した場合にはこのような症状が50%、2カ月の場合は35%起こる可能性があります。そのため、妊娠の初期にはとくに感染に注意が必要です。
風疹にかかるとどのような症状が出ますか?
風疹ウイルスに感染すると、2~3週間症状が出ない潜伏期間の後に、発熱や耳の後ろや首周りのリンパ節の腫れ、全身の発疹や眼球結膜の充血が見られます。ただし、感染しても症状が出ない方も15~30%程度おられ、風疹に特徴的な症状がすべて揃っていないこともあり、診断が難しいこともあります。
風疹の感染経路を教えてください。
風疹は、風疹にかかった人の鼻や喉から排泄される風疹ウイルスが、くしゃみや会話で細かいしぶきになったものを吸い込むことで感染します。
日本国内で風疹が流行していない時期には、海外での感染が主に報告されていましたが、国内での流行が認められると同居家族、同僚からの感染の報告がされるようになりました。さらに流行が大きくなると、感染経路が不明の感染報告が多く見られるようになりました。
流行が広がってくるにつれ、免疫がない妊婦さんは人ごみへの外出や通勤ラッシュを避ける必要が出てくることになります。
予防接種をしていれば大丈夫なのでしょうか?
前回の流行時に先天性風疹症候群が起こってしまった45例の赤ちゃんのママのうち、ワクチン接種歴は「不明」が20人、「なし」が16人、「接種歴1回」が9人で、「接種歴2回」の方はおられませんでした。予防接種を受けていることで、リスクは極めて低くすることができると言えるでしょう。ただし、すでに妊娠中の女性は風疹の予防接種を受けることはできないので注意が必要です。
妊娠中の女性はなるべく人が多いところに行かないことが推奨されていますが、通勤などでどうしても満員電車に乗らなければいけない場合もあります。風疹の感染を防ぐ対策などがあれば教えてください。
ワクチン接種歴がない場合や、風疹に対する抗体値が不十分である場合、通勤中や販売などの対面業務での感染の可能性があります。妊娠20週頃までの時差通勤を行ったり、対面業務の少ない部署への配置転換をしたりしてもらえるようであれば、対策をとられても良いかと思います。
職場でほかの人が風疹を発症した場合、自分は感染していなくても休むなどの措置をとった方がいいのでしょうか?
本来は風疹を発症した方がお休みをとる対策を企業側がとってくださることが理想ですが、症状の出ない潜伏期が比較的長く、発症したお一人で職場内の感染が収束するのかどうかすぐにはわかりません。感染例や疑いのある方が出た時点でお休みし始めることを決めると、長期間のお休みになってくる可能性があります。
ご自身に抗体がない方、ワクチンを打ったことがない場合には、風疹に感染してしまうと赤ちゃんに一生に渡って残る障害を起こす可能性があると、職場の上司や産業保健スタッフへご相談をしてみてください。
妻が妊娠中の男性なども同じように対策をする必要はありますか?
理想としては、すべての妊娠の可能性のある女性が風疹に対する免疫を持っていると血液検査で確認されているか、妊娠までに2回の風疹ワクチンの接種が行われていることです。
ただ、このような状況が整う前に妊娠が起こることもあり、その場合には感染源の可能性の一つである同居されているご家族の方への早急な風疹ワクチン投与や、抗体があるかどうかの血液検査を行うことが大切です。抗体の検査をせずにワクチンを投与していただいても問題ありません。
取材協力: 十倉陽子(トクラ・ヨウコ)
産婦人科専門医。
大学卒業後、総合診療、家庭医、地域医療を初期研修で学び、その後女性を全人的に見ることができる医師を目指し産婦人科医局に入局。
腹腔鏡手術での婦人科良性腫瘍、性感染症、女性医療、婦人科悪性腫瘍、周産期医療、新生児治療の研修を踏まえ、現在は不妊治療専門施設に勤務。体外受精を含む不妊治療を中心に、その他女性のトラブル全般に対応できる女性の全人的医療者を目指しています。一歳と三歳の二児の母としても奮闘中です。
En女医会所属。英ウィメンズクリニック勤務
En女医会とは
150人以上の女性医師(医科・歯科)が参加している会。さまざまな形でボランティア活動を行うことによって、女性の意識の向上と社会貢献の実現を目指している。会員が持つ医療知識や経験を活かして商品開発を行い、利益の一部を社会貢献に使用。また、健康や美容についてより良い情報を発信し、医療分野での啓発活動を積極的に行う。En女医会HPはこちら。