2008年に第一期がスタートしたTVアニメ『夏目友人帳』は、OVAやサウンドシアターなど様々な展開を見せ、2017年には第六期が放送されるなど息の長いシリーズとして人気を博している。そして現在、『劇場版 夏目友人帳 ~うつせみに結ぶ~』が上映中だ。

  • 神谷浩史(かみやひろし)。1月28日生まれ。千葉県出身。青二プロダクション所属。主な出演は『夏目友人帳』夏目貴志役、『進撃の巨人』リヴァイ役、『〈物語〉シリーズ』阿良々木暦役、『おそ松さん』チョロ松役など(左)
    井上和彦(いのうえかずひこ)。3月26日生まれ。神奈川県出身。B-Box所属。主な出演は『夏目友人帳』ニャンコ先生・斑役、『NARUTO』はたけカカシ役、『サイボーグ009』島村ジョー役、『美味しんぼ』山岡士郎役など(右)

今回は『劇場版 夏目友人帳』の上映を記念し、夏目貴志役の神谷浩史、ニャンコ先生役の井上和彦にインタビューを実施。劇場版の話だけではなく、『夏目友人帳』そのものの魅力や10年間演じてきての変化などについて話を聞いた。

▼遠慮のなさが関係をあらわしている

――まず、『劇場版 夏目友人帳 ~うつせみに結ぶ~』の台本を読んでの感想をお聞きしたいです。

神谷 これまでのTVアニメは原作のエピソードをつづっている中で、今回の劇場版は完全オリジナルストーリーなんですが、台本を読ませていただいたら、なんの違和感もなくすっと内容が入ってきて、オリジナルということを忘れてしまいました。

井上 とても自然だったね。スタッフが納得のいくまで作ったという感じがしました。ただ、今回はニャンコ先生が3体に分裂するじゃないですか。それを知ったときに「3体も誰が演じるんだろう。……俺か!」って(笑)。そのエピソードも含めて、優しくて楽しいお話だなと。

――今回の劇場版はニャンコ先生が1号、2号、3号と3体に分裂してしまうことも見どころのひとつですね。

井上 はい。でも、特に演じ分けはしていないんですよ。もちろん、それぞれの性格や役割は意識していました。声のトーンは一番つらいところで出しています(笑)。分裂したニャンコ先生はしゃべることができないので、そこをどう表現しようかと思ったんです。第一声でキュンとくるような、かわいいと思っていただければ嬉しいですね。

――劇場版を観ていても思ったのですが、夏目は人と妖(あやかし)に対しての対応が違うなと。

神谷 妖と対峙しているときのほうが素に近いとは思います。夏目は自分が変わり者だという自覚があるので、人と接しているときは「変わり者じゃない」と装っているんです。妖たちは自分たちの姿が見える夏目のことを「見えるんだな」と多少は驚きますけど、変わっているとは思わない。そして、ニャンコ先生を見ているとわかりますけど、妖は夏目に対して遠慮がないんです。

――たしかに、何一つ遠慮がないですね。

神谷 夏目の面白いところが、一人称が「俺」なんですよ。装っているときには「僕」ということもあるんですけど。人間や妖でも、遠慮をしない相手に対しては「俺」と言って、多少強めなことばで言い返すシーンもありますね。

――今回、『夏目友人帳』初の劇場版ということで、劇場版ならではのポイントや楽しみ方を教えて下さい。

井上 ポイントは、せせこましくないところですね(笑)。たとえば、島本須美さんが演じている津村容莉枝が木の前で膝をついて悲しむシーンがあるんですけど、立ち上がるまでが長いんです。心の間を描いているんですけど、その間が持ってしまう、これは劇場版ならではの時間の使い方ですね。

神谷 僕は気持ちを切り替えるテンポがTVアニメとは違うなと思いました。TVアニメだと本来なら前後編で描きたいエピソードでも1話完結にする場合があります。その場合は、セリフやナレーション、モノローグがめまぐるしく変化し、尺にあわせて能動的に気持ちを作り変えていかないといけないので、1話収録するとぐったりしていたんです。劇場版では気持ちに寄り添うような作り方になっていたので、自ら気持ちを作らなきゃいけないシーンがなかったんです。あと、ゲスト声優に島本須美さんや高良健吾さん、バイきんぐのおふたりが出ているんですけど、これも劇場版ならではですね。

――劇場版のアフレコはどういった感じで進行していったんですか?

神谷 3回にわけてアフレコをしていきました。前半、後半、そして取りこぼした箇所やナレーション部分。TVアニメよりたっぷり時間をかけて、気持ちをゆるやかに変化させていったので、全然疲れませんでしたね。

――島本須美さん演じる津村容莉枝、高良健吾さん演じる津村椋雄は物語にも深く関わってきます。

神谷 椋雄は「なにかあるんだろうな」というくらい不自然なんですけど、自然と受けいれてしまうようなキャラクターでした。そして、それを受け入れる容莉枝。第1話から存在していたんじゃないかっていうくらい、『夏目友人帳』に寄り添ったキャラクターでしたね。

井上 『夏目友人帳』の空気感って、ちょっと前の昭和の田舎な感じ。その中にスッと溶け込んでいて素敵だったね。

神谷 全体的な雰囲気に品がありますよね。

井上 物語の中で、容莉枝が切り絵を作っているシーンが多く出てくるんですけど、観ていると切り絵がやりたくなっちゃったよ。