江戸川乱歩賞受賞作家・翔田寛の同名小説を上川隆也主演で映像化したWOWOW『連続ドラマW 真犯人』(9月23日スタート 毎週日曜 22:00~ 全5話 ※第1話無料放送)は、昭和49年と平成20年に起きた2つの殺人事件が交差するクライムサスペンス。時代をまたぎ、未解決のままだった幼児誘拐殺人事件の"真犯人"を追求する刑事・重藤成一郎を主演の上川が演じるほか、俳優の小泉孝太郎が平成の殺人事件の真相を追う刑事・日下悟に扮し、弟の誘拐殺人事件によって軋轢が生じた家族の絆をふたたび取り戻したいと願う健気な姉・尾畑理恵を、女優の内田有紀が演じている。それぞれのキャラクターを演じる上で心掛けたことから、役者仲間として感じる互いの率直な印象について、3人に赤裸々に語ってもらった。

  • 左から、内田有紀、上川隆也、小泉孝太郎

――まずは重藤役を演じた上川さんから、役柄にどのような思いで取り組まれたのかお聞かせいただけますか?

上川隆也(以下、上川):僕が今回演じた重藤という男は、一言で要約するのがとても難しい役柄なんです。例えば「一徹」といったような言葉でわかりやすく表現してしまうと、彼の持っている複雑な要素がスポイルされてしまいそうな気がするんです。もちろん刑事としての自分の仕事や立場も含めて、重藤が矜持を持って過ごしていることは確かなんですけれど、それ以前に「下手くそな男」のような気がするんです。心の内側には人に対する温かさを秘めている筈なのに、自分の想いの伝え方も含めて、とても不器用な人なんだなと思います。でもそれが上手に出来ないからこそ、それ以外のやり方で示していこうとする、と言ったらいいでしょうか。

――なるほど。たしかにこのドラマに登場するキャラクターは、内側に抱えた葛藤をストレートには表に出さないタイプの人が多いですよね。

上川:それぞれ演じる立脚点は異なるとは思うのですが、僕の場合はこのドラマに登場するほとんど全てのキャラクターに会って、一連の事件がどう推移していくのかを見続けていく役回り。ですからいわゆる「客観的な立場」こそが、重藤の今回のあるべき居場所なのではないかと思っていました。もちろん主役として据えてはいただいていますけれども、重藤は実は物語の軸を周りから見続けている男であるとも言えるんです。

――事件の真相解明に向けて奮闘する日下役を演じた小泉さんはいかがでしたか?

小泉孝太郎(以下、小泉):僕が演じる日下は、第1話では重藤さんとまだ大分距離があります(笑)。「面倒くさい若者が来たぞ~」って思われてますから。

上川:それはだって、君が何度も会いに来るから(笑)。

小泉:日下という役を演じる上で僕が一番大事にしたのは、大先輩である重藤さんや警部補の辰川さん(でんでん)との「繋がり」です。自分がもし昭和の時代に生きていたら、絶対にこの仲間に入りたかったです。辰川さんと重藤さんと、日下がそれぞれ持っている「刑事としての熱量」みたいなものが、同じレベルじゃないと成立しないと思ったんです。

――小泉さんは辰川役のでんでんさんとは、ドラマの同じシーンには登場しないわけですよね。

小泉:確かに共演シーンはないんですが、撮影中に現場でお会いすることができました。「辰川さんって、こういう雰囲気か」「でんでんさんはこんな風に役作りをされているのか」というのが分かって。それは非常に大きかったです。だからこそ僕は、「辰川さん、重藤さんからのタスキを繋がなければ」と思えたんです。

――内田さん演じる尾畑理恵は、被害者遺族でありながら、どこか罪の意識も背負って、翻弄されながらも葛藤を抱えていく、といったような非常に難しい役柄でしたね。

内田有紀(以下、内田):そうですね。実は今回撮影に入る前に「理恵という女性の境遇や気持ちに寄り添わないと、最後まで演じることが出来ないな」と思っていたんです。もちろんあくまでもドラマの中の物語ではあるのですが、現実社会にもこの様な事件はありますし、人生は一筋縄では行かないものですよね。自分が演じることで、ドラマを観ている人たちは理恵という女性のことをどのように感じるのだろうか、という思いがすごくありました。

――なるほど。

内田:だからこそ、まず最初に台本を読んだ時に「20代の理恵の役を演じる方は大変だな」と思っていたんです。

上川:え!? 違う人が演じると思っていらっしゃったんだ(笑)。

内田:そうなんです。「いったいどんな方が演じるだろう?」と思っていたら、自分だったのでビックリしました(笑)。20代って、本当はもっとはしゃいだり、若気の至りのような面もあったりしてもいい年頃なのに、理恵は「私は幸せになってはいけないのではないか」と思いながら生きている女性なので、演じることに覚悟が必要でした。

――そうだったんですね。

内田:でも、結果的には20代の理恵も自分で演じたからこそ、「今の理恵はどんな女性になっているのかな」という参考にもなりました。大抵ドラマは40代の女性の役なら、40代から始まることがほとんどですよね。でも、今回こうして若い時代から丁寧に辿って行けたことで、彼女がどんな人生を歩んできたのかが想像しやすかった部分もありました。

――ちなみに上川さんは、20代、40代、60代と、異なる年代の役を演じるにあたり、具体的にどのような役作りをされたのでしょうか。

上川:「ここを、こんな風に」といったような、いわゆるレシピのようなものが明確にあるわけではないのですが、やはり20代の重藤と、40代、60代の重藤には、課せられているものが違う気がするんです。それをそのままウェイトとして考えるならば、彼の一挙手一投足に「重さ」の違いが反映されるはず。年代ごとに圧や重みが増すからこそ、動きや声や仕草を含め、それら全ての有り様が変化していく。そんな風にそれぞれの年代の重藤について考えていきました。

――ドラマの中では時間軸が交差しますが、撮影自体は年代順ですか?

上川:いいえ、バラバラです。でもそれが演じるにあたって障壁になるかというと、僕はそうでもないような気がしていて。内田さんもお話しされていたように、今回は時間を行きつ戻りつすることで、過去を振り返ると同時に未来を見越こすことも出来たので、僕自身はとても有益に感じていました。

――内田さんはいろいろな年代を演じ分けている上川さんと、現場で向き合われていかがでした?

内田:その時代のその世界に入れて下さったなと感じました。重藤さんを始めとする共演者の方が、既にその年代の役柄の空気をまとって現場にいて下さっているので、立ち姿や目を見るだけで、その当時の理恵の気持ちにスッと入っていけたという感じでした。

――このドラマにおける、重藤さんと日下刑事の距離感が絶妙でした。やはりそれは役を演じる上川さんと小泉さんお二人の関係性にもよるところも大きいですか?

小泉:もちろん過去に共演させていただいたというのもあると思います。でも、そもそも人って、相手が苦手な人だったらそれこそ同じ空間に長く居たくない、というのがあるじゃないですか。だからこそ、セリフなしで二人で一緒に佇んでいるシーンの方が、どちらかというと演じるのは難しかったですね。重藤さんと日下の関係が台無しに見えないようにするためには、どうしたらいいのかいろいろ考えて。前半戦は重藤さんに踏み込みすぎないように、僕なりに意識していました。

上川:いや、それはあくまでも「重藤」と「日下」としてです(笑)。別に僕が「お前これ以上入ってくるな」って、小泉さんに言ったわけではありませんから、そこは誤解なきよう、お願いします。

小泉:もちろん、上川さんご自身のことではないです! いま僕は、日下として重藤さんに対する想いを述べているだけですから(笑)。最初のうちこそ重藤さんには踏み込んではいけないところがあるんですが、第2話、第3話と回を重ねるうちに、段々と日下に心を許してくれる部分も感じられて。結果として、とても贅沢なことを言わせていただくと「コンビ」として見てもらえたら、そこがゴールかなと思えたんです。時代は違っても一つの事件を執念で追いかけた「コンビ」として見てもらえるようなところまで、何とかして持っていきたかったんです。

――まさに、重藤さんと日下刑事は「名コンビ」であると感じました。でも、その一方でこのドラマには、綺麗ごとでは済まない複雑な感情もたくさん描かれますよね。

上川:これはあくまで僕の主観なんですけれど、日下という人物は「けがれのない身」なんです。だからこそ、重藤の懐にも入り込んで行けたんでしょうし。34年前の誘拐殺人事件をまっとうに見ているのも、実は日下だけなんです。彼はこの物語の中で「アク」や「澱」のようなものを感じさせない、唯一のキャラクターであるとも言えます。重藤にしても、彼が40代でこの事件とも向き合う時は、実は請負仕事の一つにすぎないんです。高嶋政伸さん演じる静岡県警本部長の榛(はしばみ)から、「あの誘拐殺人事件を(俺の地位や名声を守るために)お前がなんとかしろ!」と押し付けられた形で請け負った事件なんです。だから、そこに対する忸怩たるものは、ずっと彼の想いの底に流れているのでしょう。

  • 静岡県警本部長の榛(はしばみ)役の高嶋政伸(左)

――高嶋さん扮する榛(はしばみ)という役柄は、観ているこちらも「うわぁ」と引いてしまうような、イヤ~な感じのキャラクターですよね。実際に現場で向き合って演じられている時にも、思わず「イラっ」とされたりしませんか?

上川:「イラっとさせられて」なんぼなんです。そこを見事にやってのけるのが、高嶋さんのすごさだと思うんです。『連続ドラマW 沈まぬ太陽』の時も、高嶋さんは今回とは違ったタイプの癖のある役を演じられていたことを記憶されている方も多いかもしれません。何より僕が心を動かされるのは、役柄と違って高嶋さんご本人は、話題も豊富で、食にも精通していらっしゃる、とっても良い方であるということなんです。いったいどこにそんな渋みとか苦味のような喉越しの悪いものを秘めていらっしゃるのかがわからないのですが、いざ役をまとったときに「これでもか!」というくらいに、そういったものをこちらに提示してこられるんです。つまり、撮影しながら「重藤」として精神的な軋轢やいらだちを「榛本部長」に対して覚える一方で、役者である「上川」として「すごいなぁ」と「高嶋さん」に感心している自分もいる。だから、むしろその「イラっ」が「心地よい」という領域にまで達するほどなんです。現場ではそんな風に2つのビジョンを同時に抱えながら、榛を演じる高嶋さんと対峙しておりました。

――そうなんですね。ちなみに、上川さんは『真犯人』が単なる「事件モノ」や「謎解きミステリー」にとどまらない理由は、どのあたりにあるとお考えですか?

上川:このドラマに出てくる多くのキャラクターには、心のどこかに引きずっている「にた」のようなものがあって、みんなそこから手を離せずにいる。それが何となく、この物語のいろいろな局面に響いてきているような気がするんですね。このドラマがただの「事件モノ」や「謎解きミステリー」にならなかったのは、その「重さ」ゆえなんじゃないかと僕は思っているんです。