今の時代だからどう作るかを考える

――中の人の分析としてすごくおもしろいです。さきほど『おっさんずラブ』の話が少しありましたが、あれだけの大ヒットが数カ月前に出ていると、やはり「先にやられた!」と思う部分はあったんですか?

いや、それは全然ないですね。素晴らしいと思いました。過去にも男性カップルが登場するドラマはありましたが、主要キャラクターが全部男性というのは『おっさんずラブ』が初めてでしたよね。僕はどちらかというとあの作品はコメディとして楽しんでいたので、『ポルノグラファー』はあえてそうしないで差別化したいとは思っていました。そういった意味でも、丸木戸さんの作品はベストだったんです。

結局、シェイクスピアまで遡って広げて考えたら、日本のドラマなんてほとんど全部それのオマージュだと思うんですよ。その中で、何をどう組み合わせればヒットするかということをやっている。『おっさんずラブ』を作り上げた方々は、今、その形でドラマを作るという才能にあふれていたんだと思います。『おっさんずラブ』がなければ、もしかしたら『ポルノグラファー』が映像化されることは世間に知られないまま終わっていたかもしれないし、そういう意味では「入り口をお借りしました」って感じですね。

――清水さんの過去の作品『最高の離婚』や『問題のあるレストラン』は現在の社会にある問題や、多様性のあり方を描いているところが魅力でしたが、『ポルノグラファー』もその延長線上にあるのでしょうか?

これまでは、男性と女性がいるから好き嫌い、いわゆるラブがある、だから初恋がもあって結婚もあってその先に離婚や不倫もあると思ってたんですけど、今は「男と女がいるから」じゃなくて「人がいるから」という言い方だと思っています。好き嫌いって普遍的じゃないですか。そこでドラマをつくっていきたい。それに加えて、社会的な要素を入れるのは、その時代にその作品をつくる意味がそこにあるからだと思います。今の時代だからどう作るかを考えて、なるべく生の情報を入れたい。それが普遍的なものになればいいですよね。

男性同士だと、ラブシーンに遠慮がなくなる

――キャスティングについても聞かせてください。今回、“受け”のミステリアスなポルノ作家・木島を竹財輝之助さんが、“攻め”の大学生・久住を猪塚健太さんが演じられています。このキャスティングにはどういった理由があるのでしょうか?

竹財さんはキャリアも長くFOD作品にもたくさん出演してくれています。いま、斎藤工さんや高橋一生さん、それこそ田中圭さんもそうですが、下積みを経てブレイクして頑張っている30代中盤~後半の俳優さんが多い中で、竹財さんもこういう新しいタイプの作品に出ることがさらに上にいくきっかけになるかもしれない、という気持ちでオファーし、彼がそれを受けてくれた形です。

猪塚さんは、演じる久住が大学生なんですね。でもあまり実年齢が学生に近い若い子だと、ほとんど2人のお芝居だけで進む作品なので、ちょっと演技面に不安が残る。猪塚くんは31歳だけど若く見えるし、アップで撮っても肌がきれいで、大学生に見えないことはないな、と。それと、映画『娼年』で男性同士のシーンを演じていて、うまいなと思ったことも理由の一つです。本人も乗り気で、「やりたいです」と応じてくれました。

実際に撮影してみておもしろかったのは、三木康一郎監督が「2人がラブシーンで"やりすぎ"る」と言ってたことですね。竹財さんと猪塚さんも言ってたんですが、やっぱり女優とのラブシーンは緊張するし遠慮が出ちゃうんだそうです。その点、男同士だと遠慮なくできる、って(笑)。

――そのエピソードがめちゃくちゃBLっぽいです(笑)。おっしゃる通りかなり激しいラブシーンもあるのに、配信から2週遅れで地上波でも放送されていたので「大丈夫なのか?」と勝手に心配してしまいました。

「これは配信ではいいけど、地上波は大丈夫なんだろうか」というのは考えながら作っていました。それじゃいけないのかもしれないけど、結局のところ、何はダメでどこまでOKなのかというのは、はっきり線が引かれているわけではないところもあると思うんですよ。もちろん、放送法で明確にアウトなものは配信でも地上波でも排除してます。たとえば原作には性器の名前がそのまま出てきますが、扱いをどうしようかな、と考えました。

――バラエティだとピー音が入るような部分ですね。

ドラマだとそれはおかしいから言葉の音を抜いたんですけど、そういうふうに最初から危ないとわかっているところに関しては配信、放送関係なく対応しています。僕も20何年この仕事をしていて、この年になってこんなにも悩むとは思わなかったんですけど、ギリギリってなんだろう? ということとかですね。例えば、女性の乳首が見えちゃいけないけど、男性は? とか、乳首をなめてるのはどうなんだ? 男のお尻の割れ目はダメなのか? いやでもバラエティではたまに出てるよな、とか(笑)。

結局のところ、不快に思う人がいるかどうか、なんですよね。テレビはタダで観られるものだし、子どもからおじいちゃんおばあちゃんまで観るので、誰かが不快感を持った瞬間にそれは大衆のものではなくなってしまう。今回は制作前に局内でいろんな人の意見をかなり聞きました。地上波の編成担当や考査担当複数人に台本を読んでもらって、OKが出る方法を推敲しました。

炎上のリスクはどう考えていたのか

――ただ、BL作品はそれなりにセンシティブというか、熱いオタクがついているジャンルは、テレビ局が扱うと炎上することも多いですよね。配信メインとはいえど、その点は心配してなかったんですか?

僕は担当した作品で炎上を経験したことがないのでその怖さがわからないんですが、マンガ原作だといちばんよくあるのが「原作レイプ」と言われることですよね。「なぜこの人を使ったのか」とか「なぜあのシーンをカットしたのか」とか。『ポルノグラファー』の実写化では、それはないと確信していたのが大きいかもしれません。原作の1ページめから最終ページまで、「これは外しちゃいけない」というところは外していないと思います。(笑)……でも、炎上ってそういうことだけじゃないんだろうな、とも思いますけど。

――そうですね。腐女子の間でよくあるのは、「BLが好きなのは隠しておくべき趣味なので、陽の光のもとに引っ張り出してくれるな」という反応です。『ポルノグラファー』実写化が発表されたときも、冗談まじりではありますが、多少そういう反応は見かけました。

なるほど。それだと、僕は「隠しておくべき趣味」だと思ってないのがダメかもしれませんね。秘め事だと思っていない。だとしたら、あんなに渋谷の駅前のTSUTAYAで大々的に並べられていないだろうって思うから(笑)。男性が観るAVはレンタルビデオ屋さんでカーテンの奥にありますけど、BLマンガはカーテンかかってないですからね。

――腐女子の中でもそのあたりは意見が割れるところですが、私もそう思います。

逆に、狭いストライクゾーンにボールを投げたらすごくひっかかって、異様に盛り上がることってありますよね。アイドルも、一部の熱狂的なファンによって支えられてるわけじゃないですか。同じように、特に配信ドラマでも狙いを絞ったら、ものすごく大きくなるんじゃないかという気持ちは常々持っていたので、そこを試してみたい気持ちがありました。だからBLに限らず、もっといろんなパターンのラブストーリーを今後も作っていきたいです。それこそ、女性×女性の話でもいいかもしれませんしね。

■著者プロフィール
斎藤岬
1986年生まれ。編集者、ライター。月刊誌「サイゾー」編集部を経て、フリーランスに。編集を担当した書籍に「別冊サイゾー 『想像以上のマネーとパワーと愛と夢で幸福になる、拳突き上げて声高らかに叫べHiGH&LOWへの愛と情熱、そしてHIROさんの本気(マジ)を本気で考察する本』」『DEATH MATCH EXTREME BOOK 戦々狂兇』(共にサイゾー刊)など。