九州新幹線西九州ルートでは初となるレール敷設作業の開始を記念し、30日に嬉野温泉(仮称)駅予定地の高架橋上で「九州新幹線(西九州)、武雄軌道敷設他レール発進式」が行われた。8月31日以降、俵坂トンネル出口付近に向けてレール敷設作業を進めていく。

  • 「九州新幹線(西九州)、武雄軌道敷設他レール発進式」が嬉野温泉(仮称)駅予定地の高架橋上で行われた

九州新幹線西九州ルートは現在、武雄温泉~長崎間(線路延長約66km)で新線の建設が進む。2012年6月に標準軌での工事実施計画の認可を受け、認可の日からおおむね10年後、2022年度の完成をめざして工事に着手。2015年1月の政府・与党申合せにおいて、可能な限り完成を前倒しすることとされた。佐世保線と接続する武雄温泉駅、長崎本線と接続する諫早駅・長崎駅に加え、新駅として嬉野温泉(仮称)駅、新大村(仮称)駅を設置。新大村(仮称)付近に大村車両基地が設置される。

武雄温泉~長崎間で軌道工事を実施するにあたり、約10~20kmごとに軌道敷設の拠点となる基地を設ける予定。その中のひとつ、嬉野温泉(仮称)駅予定地付近の今寺軌道基地へ、今年6月からレールの陸送が開始された。基地に搬入したレールは高架橋上に吊り上げ、溶接により長さ200mのレールを作成。武雄温泉~嬉野温泉(仮称)間の三坂トンネル内に貯積している。200mのレールが所定の本数でき上がり、準備作業も終えてレールを本線上に敷設する段階となったことから、今回のレール発進式が行われることになった。

嬉野市長、新幹線は「関西直通の実現を前提」

レール発進式は工事の受注者である三軌建設(JR九州グループ)が主催し、鉄道・運輸機構 九州新幹線建設局長の綿貫正明氏、嬉野市長の村上大祐氏らが出席。ときおり激しい雨の降るあいにくの天気の中、清めの儀に続いてレール発進作業が行われた。今後のレール敷設作業では、専用の工事用機械を使用し、1日600~800m(レール6~8本分)を敷設する予定だという。敷設したレールは工事用の資材運搬にも使用する。レールの敷設を終えた後、レール上を走行する台車で軌道スラブを運搬し、敷設するとのことだった。

  • レール発進式では鉄道・運輸機構 九州新幹線建設局長の綿貫正明氏、嬉野市長の村上大祐氏らが挨拶。レール発進に先立ち、清めの儀が行われた

  • レール発進作業では綿貫局長と村上市長が送込装置のボタンを押し、レールを送り出した

綿貫局長はレール発進式の挨拶の中で、九州新幹線西九州ルートの進捗状況を「8月1日現在、トンネル工事が83%、高架橋・橋りょう工事が43%の進捗となっています」と説明。工事を担当する三軌建設について、「過去に九州新幹線鹿児島ルートをはじめ、数多くの実績を有する会社。これまで培った豊富な知識と知見を生かし、世界に誇れる新幹線を施工していただけるものと期待しています。(発注者の)鉄道・運輸機構としても、三軌建設と一体となり、安全を第一に工事を進めてまいります」と述べた。

レール発進式の後、インタビューに応じた村上市長は、フリーゲージトレインの導入を断念し、武雄温泉駅以東の整備方針が決まっていない九州新幹線西九州ルートの現状にも触れた。「東側のルート整備でさまざまな議論があることは承知していますが、嬉野市としては関西直通の実現を前提に駅周辺整備構想などを進めており、その認識で県とも一致しているものと考えています。あとは費用負担について、国、県、JR九州との協議の中で、それぞれが納得できる結論を得られるようにしたい」と語った。

武雄温泉駅以東については「全線フル規格」「ミニ新幹線」の整備案も挙がっているが、財政負担が増えるとして佐賀県が難色を示していると報道された。村上市長は「私たちが求めるのはフル規格」「私の中でミニ新幹線という選択肢はありません」とコメントする一方、「ただ、私たちは佐賀県の嬉野市であり、県としての立場もあるでしょうから、県とそっぽを向いたまま主張を通そうとは思っていません。一歩一歩、同じ方向に向かっていけるか確認しつつ、歩みを進めていこうと思います」とも話していた。

なお、嬉野温泉(仮称)駅は市街地中心部から東へ約1.5km離れた位置に設置され、2面2線の相対式ホームを有するハイブリッド構造(駅の外装や上家が高架橋を覆う構造)を採用した高架駅となる予定。駅舎デザインも決定しており、歴史ある嬉野の湯宿の装いを洗練された和の構成で表現し、焼物を使った細い縦格子などで温泉宿の趣を演出するという。駅周辺では新幹線を生かしたまちづくりが行われる計画で、駅に隣接して国立病院機構嬉野医療センター(2019年度に移設開業予定)の建設も進んでいる。

  • レール発進式の会場と駅予定地の周辺から見た高架橋の様子