親世代との「同居」。子育ての手助けを得られる一方で、お互いに気を遣うことを考えると踏み切れないという方も多いのではないでしょうか。ならば、同居ではなく親世代の近くに住む「近居」という選択肢はどうでしょう? 近居を選ぶことでどんなメリットがあるのでしょうか? 考えてみましょう。

「近くにいる」ことで生まれる安心感

そもそも「近居」というワード。なじみがなく、耳にしたことがない人もいるかもしれません。

国土交通省が平成18年に行った「NPO活動を含む「多業」(マルチワーク)と『近居』の実態等に関する調査結果について」によると、近居とは「住居は異なるものの、日常的な往来ができる範囲に居住すること」であり、具体的には、車・電車で1時間以内の範囲に住むことを指します。

お互いが日常的に往来できる距離で暮らすことで、お互いがサポートし合いながら、交流も楽しめる暮らし方です。「スープの冷めない距離」と呼ぶこともあるようです。それぞれの暮らしを守りつつ、協力が必要なときには助け合えるちょうどよい距離感というわけ。

近居を選ぶことで、子世帯は、とくに共働きの場合、家事や子育てのサポートを受けられるのは心強いもの。ときには子どもを預けて自身の趣味の時間を持つこともできるでしょう。両親の老後を近くで見守れるのも安心です。

一方で、親世帯は、日常生活で支えてもらえるほか、病気や緊急事態のときに子世帯が近くにいると何かと安心です。孫や子どもが身近にいることで、親子三世代で家族団らんを楽しむことも可能。孫の学校行事などのイベントにも気軽に立ち会え、成長を見守れるのもうれしいポイントではないでしょうか。

近居で助成金などがもらえる

近居を選ぶメリットは、マネー面にもあります。自治体によっては、近居を対象とした優遇制度が用意されているのです。

例えば東京都品川区では、ファミリー世帯が区内に1年以上住む親世帯と近居・同居するために区外から転入した場合や、区内に住むファミリー世帯と親世代が転居によって直線距離で1.2km以内に住むことになった場合、転居にかかった費用を最大10万円分交付してもらえる「三世代すまいるポイント」の制度があります。対象となる費用は引越費用や住宅登記費用、仲介手数料、礼金など。交付されたポイントは商品券や施設利用券などと交換可能。

また、千葉県松戸市では、出産予定を含む中学生以下の子どもがいる子育て世帯が、市内に1年以上住む親世帯と近居(直線距離で2km以内)・同居するために住宅を取得する際の費用の一部を助成してくれます。近居の場合は50万円、同居の場合は75万円がもらえ、市外から転入の場合はさらに25万円が加算されます。

関西地区では、兵庫県神戸市で、市内に1年以上居住している親世帯と、小学校入学前の子どもがいる子世帯が近居・同居する場合に、移転した世帯が支払った住み替えにかかる費用の半額を助成してくれます。近居の条件は、同一小学校区内もしくは直線距離で概ね1km以内。上限金額は、市内で移転する場合は転居費用を対象に最大10万円。市外から移転などの場合は、転居費用・不動産登記費用・仲介手数料・礼金を対象に最大20万円まで助成してもらうことができます。

住宅ローンの金利も引き下げに!

このほか、近居によって住宅ローンの金利が有利になる自治体もあります。

最長35年間、金利がずっと変わらない住宅ローン【フラット35】をおトクに利用できる【フラット35】子育て支援型・地域活性化型という制度が開始されました。これは、積極的に子育て支援や地域活性化に取り組んでいる地方公共団体と住宅金融支援機構が連携し、【フラット35】の借入金利を当初5年間、0.25%引き下げる制度。特定の条件を満たせば金利を一定期間引き下げる【フラット35】Sと併用することもでき、その場合さらに低い金利で住宅ローンを組むことができます。

例えば東京都福生市では、16歳以下の子どもがいる子育て世帯が長期優良住宅を取得した際に、固定資産税・都市計画税相当額を最長5年間、最高50万円助成する「優良住宅取得推進事業」を実施しています。この助成対象者が【フラット35】を利用して親世帯と同居または近居する場合、【フラット35】の金利が一定期間引き下げられます。この場合の近居とは、親世帯と子世帯が市内または2km以内に住むことです。

ほかにも、神奈川県横浜市や大阪府大阪市など、多数の自治体で【フラット35】子育て支援型・地域活性化型を利用することができます。近居を検討している場合、該当の自治体かどうか、一度調べてみると良いでしょう。

デメリットも理解した上で選択を!

マネー面でもメリットの多い近居ですが、近くにいて一緒に過ごす時間が増えると、お互いの気になる面が見えてくることもあるかもしれません。距離感にもよりますが、同居ほどではないものの、お互いの干渉で多少のストレスが生じる可能性は否めません。

また、子どもが保育園に入りづらくなる可能性があることも頭に入れておきましょう。主に点数制で入園の可否が決定する保育園の申請では、約1km以内に居住する65歳未満の祖父母に子どもを預けることができる場合、点数がマイナスになることがあります。多少のデメリットも理解した上で近居を選択すれば、「こんなはずじゃなかった」という思いも少なくなるのではないでしょうか。

親世帯と子世帯が適度な距離感で暮らし、支え合うことができる「近居」。それぞれの家族がお互いを思いやる気持ちがあれば、良好な関係を築くこともできるはずです。マネー面で優遇される自治体もあるので、これからマイホームを購入する予定がある人は、一度「近居」を検討してみるのも悪くないのではないでしょうか。

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回遊舎

“金融”を専門とする編集・制作プロダクション。 お金に関する記事を企画・取材から執筆、制作まで一手に引き受ける。マネー誌以外にも、育児雑誌や女性誌健康関連記事などのライフスタイル分野も幅広く手掛ける。近著に「貯められない人のための手取り『10分の1』貯金術、」「J-REIT金メダル投資術」(株式会社秀和システム 著者酒井富士子)、「NISA120%活用術」(日本経済出版社)、「めちゃくちゃ売れてるマネー誌ZAiが作った世界で一番わかりやすいニッポンの論点10」(株式会社ダイヤモンド社)、「子育てで破産しないためのお金の本」(株式会社廣済堂出版)など。