ライター歴10年超の私ですが、取材が大の苦手。できれば、取材は編集者に任せ、書くことだけに専念したいぐらい。特に話してるときの沈黙が一番ツライ。

先日も、こちらの質問に相手が直ぐに話しを返してくれず、「……」が発生。耐えられなくて、私が余計な言葉を挟んでしまう。そうやって喋れば喋るほど、相手の話したいことからどんどん遠ざかってしまう悪循環。

円滑なコミュニケーションってどうすれば正解? 悶々としていると、「ビジネスパーソン向けのコミュニケーション講座があるよ」と編集者が耳よりの情報を。

開催しているのは、落語家の立川談慶師匠。話を聞いてみると、大切なのは「耳をつくること」だそうです。コミュニケーションの方法を相談したのに、耳が大切!? どういうことなの? 前回に続き、談慶師匠より方法を伝授してもらいました。

普通3年ほどの前座修業の9年!?


師匠の話を聴いて、ちょっと不思議に思うことがあるんですけど……



何ですか?



噺家さんで喋りが専門のはずなのに、「耳をつくれ」とか「喋りのテクニックなんてどうでもいい」とか……本業とは真逆の考え方ですよね。どこから、そんな発想が生まれてきたんですか?



これは、私の師匠・立川談志のもとでの、苦い前座修業での経験からですね。


そういえば、師匠は慶應義塾大学卒で、元々サラリーマンという落語家として異色の経歴。故・立川談志師匠の下での修行されたんですよね。


立川談志のもとで、普通なら3年ぐらいで終わる修業を、私は9年間もやってましたから。



9年ですか! それは、苦労されたんですね。



苦労したというか、師匠である談志が求めていることを私が理解していなかったんです。



そうなんですか?



というのも、元々は下着メーカーの営業をしていたんですが、立川一門に入りたいと思って、一度九州吉本に入って福岡で活動していたんです。当時の談志のマネージャーからも「福岡を席巻してこい」と言われてましたし。だから、入門したときには、ヘンに実績があるものだから、師匠に対して「こんなことができます!」「今まで、こんなにやってきました!」というのを、アピールばかりしていたんです。


  • アピールばかりでした

うーん、アピールしたくなるのは人として自然な気もしますけどねー。


師匠は、そんなこと全く望んでいなかったんですよ。それにも気づかずに、オレはこんなにやってきたのに、なんで師匠は振り向いてくれないんだと、そんなことばかり考えていました。そんな状態だから、(自分では聴いているつもりでしたけど)、私も師匠の言うことを全然聴いておらず、おのずと期待には応えられませんよね。


あ、なるほど。さっきの聴く時間=データ集積の話しだ。これが原点かー。

気づけば、自分自身大きく変われる「他者目線」


なのに、どうしてそれに気がついたんですか?



弟弟子が、先に「二つ目」に昇進したんです。越されてしまったわけです。かなりのしくじりですよね。それがきっかけで、弟弟子に「自分のどこがいけないのか」アドバイスを請うて、それでようやくわかったんです。



そこまでされたんですか。なかなかできませんよね。



その頃は結婚もしていましたし、へんなプライドにこだわって、人生閉ざされたままというわけにはいかなかったので。こっちも必死ですよ。それで、自分の落ち度が分かってからは、談志の一字一句聴いてやろうという気構えで臨んだわけです。



そこから「聴き上手」になる発想が生まれたわけですか。



そうですね。それと「聴く側」に徹すると、実は副次的な効果もあるんですよね。



何ですか、それは!? ぜひ、教えてください!



「他者(相手)目線」。それが意識できるようになったんです。


他者目線? なんだろう、またまたまた戸惑う私。


西谷さん、落語ってよく観ますか?



好きですよ。それこそ談志さんの「芝浜」とか、志の輔さんの「中村仲蔵」はDVDでもよく聴いています。



じゃあ、「一眼国(いちがんこく)」という落語も知ってますよね?



金もうけのために一つ眼の女の子をさらいにいく話ですよね。



そうです。見世物を興行している男が、一つ眼の国を訪れ、一つ眼の女の子をさらおうとしたら、逆に誘拐の罪で役人につかまってしまうんです。そして役人の「こいつは珍しい、二つ眼をしている。調べは後にして、見世物に出せ」と言うオチの落語です。これも、ある意味他者目線(視点)ですよ。自分本位の考え方をしていると、つい見落としてしまう気づきを笑いに変えているわけです。


  • 他者目線なんです

あ、これ、ビジネスでは大事だとよく言われることだ。物事を俯瞰してみることで、課題の原因を正しく把握する考え方ですよ。落語も同じなんだ。


この他者目線(視点)を持てるようになって、相手が望むことをイメージできるようになりました。それこそ修業時代に、談志(師匠)から落語以外にも「踊りや唄を覚えろ」というのをよく言われていたんです。短期間で、そこそこの数を覚えないといけないので、けっこうな無茶ぶりですよ。



泣きそうになりますか。



ほんとに。だから、以前なら「唄を5曲覚えろ」と言われたら、3曲ぐらいしかやっていなかったんです。それが、他者目線(視点)を意識するようになってからは、師匠が「唄を5曲覚えろ」と言えば、「師匠、10曲覚えました!」と応え、「踊りを3曲覚えろ」となったときは「6曲覚えました」と言って、つねに倍返ししたんです。



それはすごい!



そうするとね。師匠も私に対する見方ががらりと変わるわけです。「手間取ったけど、やっとわかってきたか」と言ってくれて。そこからすぐに、二つ目に昇進することができたんです。



なるほど。相手が何を望んでいるかを考え、コミュケーションを取っていけばいいわけですね。


自分の居場所があれば、幸せになれる


他者目線で考えられるというのは、これまでの見方を変えることでもあります。前編の最初にいった「短所は長所でもある」というのも考え方と同じ。これができるようになれば、今までの自分のポジションを変えることができて、自分なりの居場所も見つけやすくなります。コミュニケーションで悩んでいる人は、結局自分の居場所がなくて困っている人だと思うんです。


居場所がない? またまたまたまた、戸惑いますよー、私。


居場所があるというのは、他者(人)から求められる存在(立場)にあるということですよね。うまくコミュニケーションができるようになりたいと切望するのは、周りから求められる(あるいは頼りにされる)立場になりたいと思っているからなんですよ。



つまり、「居場所がある=役割がある」という考え方でしょうか?



そう。だから、もし喋りが上手くないなら徹底的に聞き役としてのスキルを磨けば、話しやすい人(話を聞いてもらいたい人)というポジションを築くことができます。そういう人の元には、新しい人のつながりもできるはず。そうなれば企業内においても、人と人をつなぐ、新たな役回りを任される可能性だってあるわけです。


  • 居場所をみつけましょう


他者目線をもって、視点を変え、ポジションを築く。新しい発想ですね。なんだかワクワクします!


「他者目線」を学ぶには、落語がオススメ!?


それともう1つ、ぜひ身に付けてほしいのは「ツッコミ目線」です。



やっぱり笑いを取れ! ということですか。



笑いまでは期待していません。


安心しました。笑いをとるなんで、絶対無理ですー。


取れるに越したことはないですが、西谷さんには難易度が高いと思います。それよりも、まず自分がいろんなところから聞いた話は、「まず疑ってみろ」ということです。立川談志は「新聞で正しいのは日付だけ」と言っていました。それは別の言い方をすれば、「流れてきた情報を真に受けるな。自分のセンスを信じて、疑ってみろ」ということです。落語も同じ。疑った見方をすることで、笑いや感動などの心を揺さぶることが生まれてくる訳ですから。



会話でも「ツッコミ目線」によって、変化が生じるということですか?



「ツッコミ目線」を持って相手とやりとりすることで、新たな気づきや発見を与えられる可能性は十分にあります。それこそ同じ会社でずっと勤めていると、会社の習慣習や文化が当たり前に思ってしまいますが、若い人なら会社に染まっていない分、おかしいところは気づけるはず。そういう感性を大切にすべきだと思います。


なるほどねー、確かに同じ組織に長年いると、その組織文化に慣れて疑問を持たなくなるとよく言いますよね。常にツッコミを意識すると、それが防げるということだ!


最後に読者へアドバイスをいただけませんか。



前座の修業をしている頃はしくじってばかりで、不幸な時代でした。しかし今となっては、その経験をもとに、本を出したり、企業から講演のお話をいただいたりして、ハッピーな時間を過ごしています。そう考えると、正直何が失敗で、何が成功かは分からない。だからこそいろんな経験をして、悩みなれする(悩み上手になる)ことをオススメします。



それと落語をぜひ聴いてください。全てが人間の弱さに立脚して描かれていて、人間のシステムエラーが集まっているので、他者目線を知る上では、かっこうの材料になると思います。隔月でネタ下ろしの会などもやっていますのでHPなどをご覧になり、ぜひお越しください。


プロフィール : 立川談慶

落語家
生年月日:1965年
出身地:長野県上田市(旧丸子町)生まれ
趣味・特技:ウェイトトレーニング歴10年、ベンチプレス120kg
慶應義塾大学経済学部を卒業後、株式会社ワコールに入社。3年間のサラリーマン体験を経て、91年立川談志18番目の弟子として入門。 前座名は「立川ワコール」。2000年に二つ目昇進を機に、立川談志師匠に「立川談慶」と命名される。 05年、真打昇進。慶應大学卒業の初めての真打となる。

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