JR西日本は29日、福知山電車区に設置された「車両状態監視装置」を報道公開した。地上設備を用いて自動的に電車の屋根上・パンタグラフ・車輪の状態を把握できる機能を持つという。今後、同社の在来線の電車配置箇所16カ所で順次使用開始予定となっている。

  • 287系が福知山電車区へ。車両状態監視装置の設置区間を徐行で通過する

車両状態監視装置は三菱電機が製造。高さ約7.2m、横幅約13.1m。「屋根上状態監視機能」「パンタグラフすり板摩耗測定機能」「車輪踏面形状測定機能」「車輪フラット検知機能」の4つの機能を持つ。電車の屋根上・パンタグラフ・車輪の状態に関して、現在は一定期間ごとに実施する検査の中で、係員が測定器や目視・触手などで確認を行っているが、車両状態監視装置の導入により、装置の設置区間を電車が通過することで、高解像度カメラやセンシング技術を用いて自動で測定・記録・判定を行えるようになる。

「屋根上状態監視機能」「パンタグラフすり板摩耗測定機能」は門柱型の装置の上部に設置されたセンサや照明、高解像度カメラ、制御装置などで構成され、屋根上の状態の動画撮影とパンタグラフすり板の寸法測定、さらに測定結果の自動判定機能も有する。これにより、係員は撮影した動画記録および測定結果を地上側で確認できるようになり、従来の屋根上での作業が削減され、作業の安全性が向上する。

  • 門柱型の装置の上部にセンサや高解像度カメラ、線路上に車輪踏面の自動測定を行う装置などを設置

  • 289系・223系が福知山電車区へ。屋根上の撮影のために照明も使用される

「車輪踏面形状測定機能」として線路上にセンサや制御装置などが設置され、車輪踏面の各部寸法の自動測定と、測定結果にもとづく良否の自動判定が可能に。「車輪フラット検知機能」は線路付近に設置する振動センサなどで構成され、振動レベルを測定してフラット(車輪がレール面を滑るなどして発生した傷)の大きさを自動判定する機能を持つ。

床下の確認は現在、交番検査(90日以内に1回実施)において係員が目視や測定器などを用いて実施しており、各部測定作業では2人で1編成8両あたり20分程度の時間を要したという。車両状態監視装置によって検査を自動化でき、電車が装置内を通過する1分程度で車輪関係の測定を行えるようになるため、効率的な車両状態の把握が可能になる。

  • 屋根上・パンタグラフ・車輪の状態を確認する作業は危険が伴う。車両状態監視装置の導入で安全性向上の効果も期待される

こうした高所作業や車両床下狭小部の作業の減少による安全性向上に加え、屋根上・パンタグラフ・車輪の状態を測定する頻度が高まるため、これらに起因する不具合の未然防止につながり、より状態に応じた車輪転削(車両を正常な状態に削る作業)も行えるようになって乗り心地の改善にもつながる。電車配置箇所に入るたびに状態監視を行えることから、車両品質の向上にもつながると考えられているという。

福知山電車区の車両状態監視装置は車両基地に入る手前の位置に設置されている。報道公開の途中、223系・289系・287系の回送列車がトンネルから出てきた後に一旦停止し、ゆっくりと徐行しながら装置の設置区間を通過していく様子も見ることができた。

報道公開で取材に応じたJR西日本車両部の堀保史氏は、車両状態監視装置を設置した経緯について「車両メンテナンスの仕事は、たとえば高所だと感電したり屋根上から落ちたりするおそれがあり、床下にもぐっての作業も危険が伴います。そうした危険な作業をなくすことはできないかと考え、2014年頃から新たな装置の導入に向けて検討してきました」と話す。最初の設置場所が福知山電車区となった理由のひとつとして、堀氏は冬期の霜(しも)による被害を挙げた。霜の付着が原因でパンタグラフのすり板が損傷するケースがあり、屋根上も確認できる車両状態監視装置の設置を優先的に進めたようだった。

福知山電車区の車両状態監視装置は6月11日に設置完了し、データ取得も始まっているが、現在は係員によるデータ測定も並行して行っている状況で、「装置が取得したデータと実際に測定したデータの整合性を取っていく必要があり、もう少しお時間をいただいた上で、間違いのないデータが取れるようになったときに(係員による)手作業から車両状態監視装置に切り替えたい」とのこと。車両状態監視装置は今後もJR西日本の在来線の電車配置箇所に順次設置する予定で、福知山電車区に続き、今年度中に網干総合車両所明石支所に設置する計画であるとの説明もあった。

  • 車両状態監視装置が有する「屋根上状態監視機能」「パンタグラフすり板摩耗測定機能」「車輪踏面形状測定機能」「車輪フラット検知機能」も紹介された