40歳。この年齢を聞いて、あなたはどんなことを思い浮かべますか。

5月30日に東京・青山ブックセンター青山本店で行われたライターで早稲田大学文化構想学部助教のトミヤマユキコさんと文筆家・岡田育さんのトークイベント「40歳までに身につけたいこと、手放したいもの」の内容から、一部をご紹介します。

  • お互いの新刊を手にしたトミヤマユキコさん(左)、岡田育さん(右)

    お互いの新刊を手にしたトミヤマユキコさん(左)、岡田育さん(右)

40歳を前に「ファッションのチャンネルを増やした」というトミヤマさんの経験には、節目を前に自分の仕事やライフスタイルを変革するヒントが詰まっていました。

「40歳問題」に向き合う先輩後輩

トミヤマユキコさんが5月30日に上梓した『40歳までにオシャレになりたい!』(扶桑社)は、「グレーのパーカーばかり着てADに間違われていた」トミヤマさんが、大人のオシャレを身につけるまでを綴ったエッセイです。トミヤマさんは、2019年に40歳を迎えます。対談相手の岡田さんは現在、ウェブメディア「OTEKOMACHI」にて「40歳までにコレをやめる」を連載中。2020年に40歳となる予定です。

トークイベントは、お二人の出会いのきっかけから始まりました。お二人をつなげたのは、2016年に亡くなったライターの雨宮まみさんだったそうです。

「雨宮さんがかつて『40歳がくる!』という連載(大和書房)をなさっていて、今、トミヤマさんが『40歳までにオシャレになりたい!』という本を出されて、私の学年にも40歳が迫ってくるなと思っていたところで、私は1月から『40歳までにコレをやめる』という連載をはじめました。40歳問題に向き合う先輩後輩どうしという感じです」(岡田さん)

「自分が実験台に」コンサバファッションを研究

トミヤマさんが、40歳までにオシャレになろうと思ったのは、大学教員としての仕事がきっかけでした。学生の教育実習先を訪れる際に、自分の服装によって「教え子に恥をかかせてはいけない」と思ったそうです。

「圏外ファッションの"1チャンネル"だけで生きていくのはどうかと思ったので、自分に合うコンサバファッションを探してみることにしました。『マネキンと同じものをお願いします』と言うことはできますが、オシャレが好きな自分の心を殺すことができなかったんです。それなら、コンサバファッションを自分なりに取り入れる研究をしようと思いました。

カリスマの読モやスタイリストさんがファッションを教える本はあるものの、ド素人が七転八倒している本が無かったので、自分が実験台になるしかないということで、最初の一段を登るつもりで書いたのがこの本です」(トミヤマさん)

  • 「ド素人が七転八倒している本が無かった」とトミヤマユキコさん

    「ド素人が七転八倒している本が無かった」とトミヤマユキコさん

「バッグが大きい」問題の原因とは

続いてトークは、トミヤマさんの新刊に合わせて、岡田さんが40歳を前にしたファッションの悩みを紹介する流れに。その一つが、「バッグがでかすぎる」というものです。思い当たる方も多いのではないでしょうか。

2015年に渡米した岡田さん。ニューヨークで大学に通う際に、荷物が重いことから毎日リュックを背負うようになったものの、コーディネートで苦労したことがあるそうです。

「ヒールの靴も履かなくなって、服装も学生っぽくコーディネートできるようになったんです。でも、ニューヨークの高層ビルにある真面目な会社に、ワンピースと低めのパンプスにリュックという格好で行ったら、鏡に映る自分を見て『うわー』ってなりました。『いくらこういう仕事でも、リュックじゃない時もある』と……」(岡田さん)

  • 「リュックじゃない時もある」と岡田育さん

    「リュックじゃない時もある」と岡田育さん

トミヤマさんはバッグについて研究するなかで、「オシャレな人は荷物が最低限」と気づき、仕事の時は仕方なくても、ファッションの幅を広げるために荷物を減らす練習をしようと思ったといいます。

「一生モノ」はない!

「一生モノだと思って買った服が3年で似合わなくなる」という問題も、岡田さんが40歳を前にして気づいた問題だといいます。「一生モノ」だと思って買ったシンプルな服が、数年後に着ると違う印象になると気づいたそうです。

それに答えてトミヤマさんは、定番服をアップデートする必要性を学んだエピソードを紹介しました。

「男の人はスーツやコートを着て会社に行く人が多いじゃないですか。そういう服装の人と飲み会で喋っていたら、『一生モノはない』と言われました。3~4年くらい経つと微妙にダサくなってくるのだそうです。女の人は男性の格好は代わり映えしないと思っているけれど、男性こそ2~3年に1回は買い換えないと、歳をとってから"素敵なおじさま"にはなれないのだと言われたんです」(トミヤマさん)

チャンネルを増やすと人生の後半戦が楽しく

新刊についてトミヤマさんは、「40歳までにおしゃれにならないとダメという呪いの書にはしたくない」と語ります。

「私はたまたま35歳くらいの時に『40歳までに(ファッションのチャンネルを)もう1チャンネル増やしたい』と思っただけで、会場の皆さんのなかに、40歳までにトンチキなファッションのチャンネルを開発する人がいてもいいんです。本の構想としては、チャンネルをもう一個増やすと、人生の後半戦がちょっと楽しいんじゃないかということです」(トミヤマさん)

飲食店で隣の席を盗み聞き……

最後は岡田さんの新刊についてのトークも行われました。新刊『天国飯と地獄耳』は、「おいしいご飯を食べながら、隣席の会話に聞き耳を立てる」がコンセプトです。

「『食べ歩きのようなエッセイを書いてください』と言われたのですが、最初に連載をしていたのは中高年のおじさまが読まれているような雑誌で、お店紹介はハードルが高かった。それで20代の編集者と一緒に話し合うなかで、おひとりさまであちこちご飯を食べていると、隣の会話が気になるという話になりました」(岡田さん)

<東京編>と<NY編>で構成された本書。おすすめの飲食店を紹介するのではなく、「たまたま面白い話が聞けたお店」での会話を取り上げたエッセイが24本入っています。

  • お互いの新刊について語り合うトミヤマユキコさんと岡田育さん

    お互いの新刊について語り合うトミヤマユキコさんと岡田育さん

「人の話をちゃんと記録して、文章化して読むとこんなに面白いのかと思いました。隣の席に聞き耳を立てることはみんなやっているけど、内容を忘れちゃうし、反芻はしないので、面白い本ですよね」(トミヤマさん)

また、飲食店に来ている人がどんな人かは、服装から推測することが多かったと岡田さん。

「ヨボヨボの老夫婦かと思って見てみたらジーンズにスニーカーで『すごく健康に気を使っている意識高い系だな』と思ったり、男女4人組を見て『無味乾燥な服装だな』と思っていたけど、よく考えたら『あれがノームコアか!』となったり。ビジュアルの与える影響は大きいと思いました」(岡田さん)

トミヤマさんは『天国飯と地獄耳』を読んで、「優しさ」に惹かれたと言います。

「人の話を聞いてそれを料理するという文章は、人によっては上から目線になってしまいます。ただその人達を面白がって終わってしまうところがあるんですけど、必ずそこで寄り添う何かがある。『私も盗み聞きしているんで』と書いてあったりと、横から目線をキープしているんですよね」(トミヤマさん)

イベントでは、お二人がそれぞれの「圏外ファッション」アイテムを画像や実物で紹介する場面も。会場は終始和やかな笑いに包まれ、「チャンネルを増やしてみようかな」と背中を押してくれるようなトークイベントでした。