『¥マネーの虎』は頭脳系バラエティの代表格に

プレゼンテーションされた番組ラインナップをみると、必ずしも現在放送中の番組だけではない。世界展開を目指し、各局の海外セールスチームが番組のエッセンスなどを抽出した「フォーマット」として売り込み、世界の地域に合わせてローカライズ化しやすい番組を重視して選んでいる。

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日本テレビ『欲9』

例えば、日本テレビが今回、新作として発表した心理系バラエティ『欲9』は、2006年に放送されたもの。同じ欲望を持った9人が集まり、その目的を叶えられる1人を自分たちの手で選び出すというコンセプトは、時代に関係なく、国も越えて受け入れられる要素のあるものだ。同局が2000年代のはじめに放送した、心理戦を駆使した『¥マネーの虎』が、すでにそれを証明している。同番組は現在も海外で人気を得ており、今年のMIPTVでは世界で人気の頭脳系バラエティの代表番組として紹介されていた。

そして、TBSは『風雲!たけし城』を発表した。伝説のバラエティとしてよく知られているものの、この番組も日本の地上波では現在は放送されていない。日本でヒットしたのは80年代だが、実は今でも世界展開の売れ筋番組なのである。

タイ、インドネシア、ベトナム、台湾のアジア各地をはじめ、米国、ブラジル、オランダ、スペインなど幅広い地域で現地版制作が実現し、新たにサウジアラビア版の制作も進められている。もともと『Takeshi's Castle(タケシズ・キャッスル)』の番組名で親しまれていたイギリスでは、名物司会者ジョナサン・ロスが司会を務める新作の放送が始まった。そのタイミングで今回、その英語のリメイク版を引っ提げ、売り出された。

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  • TBS『風雲!たけし城』

衣装を着なかったこともあったたけし

ベースとなっているタイ版は、TBSのプロデューサーを務めた桂邦彦氏自ら制作指導し、作られたという。今から約40年前、企画した際から桂氏は世界を目指していたのだろうか。直接確かめる機会を得たので聞いてみると、桂氏は「世界にウケるとは思って作っていなかったですけどね。素人が一生懸命やる笑いは爆発力がある。コケたり、ドジったりする笑いには迫力があるわけですよ。それの積み重ねで作っただけ」と答えた。とにかく、お笑い番組のナンバーワンを目指して作っていたということだ。

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『風雲!たけし城』プロデューサーの桂邦彦氏

また、「当時、『8時だヨ!全員集合』プロデューサーの古谷昭綱さんに言われていたことがあって、5秒に1回、せめて10秒に1回は爆笑を作らないとダメだって言われました。笑いじゃなくて、爆笑。とにかく笑いを生み出していた。だから、今のテレビはかったるくみえるね」と、皮肉交じりに昨今の制作現場についても触れた。

番組人気は、ビートたけしの存在も大きかったはず。桂氏は当時の思い出も語ってくれた。「リアクションに対して彼自身の言葉で表してくれたから良かったんだろうね。でも彼も忙しかったから、場合によっては衣装を着なかったり、着たりとバラバラだったこともありました。撮ってすぐ出さないといけなかったという状況もあったし、それよりも、中身が面白いことが何より大事だと思っていました」。

カンヌの会場でも『たけし城』の笑いを追求する番組フォーマットを評価する声が聞かれた。なかでも、レバノンの番組プロデューサーの「80年代に作られた番組であることは知っているけれど、決して古くはない。スマイルはスマイル。コメディはコメディ。そのメッセージはどの世代にも伝わり、どの文化でも受け入れることができます」という言葉が印象に残った。これから作り出される番組にも日本の笑いが世界でも評価される可能性に期待したい。

■長谷川朋子(はせがわ・ともこ)
テレビ業界ジャーナリスト。2003年からテレビ、ラジオの放送業界誌記者。仏カンヌのテレビ見本市・MIP現地取材歴約10年。番組コンテンツの海外流通ビジネス事情を得意分野に多数媒体で執筆中。