日本で初めて燃料電池(FC)バスの型式番号を取得し、2018年3月に「SORA」の車名で販売を始めたトヨタ自動車。2020年に向けて、まずは東京都を中心に100台の導入を予定する。「水素社会」の実現と燃料電池自動車(FCV)の普及を目指すトヨタだが、このバスが果たす役割とは何か。

  • トヨタのFCバス「SORA」

    トヨタのFCバス「SORA」

「MIRAI」10台分の水素タンクを積む「SORA」

トヨタは2018年4月20日、「SORA」の報道向け試乗会を開催。そこで概要などを確認してきた。

「SORA」はトヨタがFCV「MIRAI」向けに開発した「トヨタフューエルセルシステム」を採用するFCバス。具体的には「MIRAI」で使っている水素タンクを10本、モーターおよびスタック(燃料電池)を2つずつ積む。1回の水素充填で走行できる距離は200キロだが、一般的な路線バスが1日で走行する距離は150キロ未満とのことなので、SORAなら途中で水素充填せずに1日の運行をこなすことができそうだ。

  • トヨタ「SORA」の仕組みを説明したスライド

    試乗会では車内のモニターで「SORA」の説明を受けた。水素タンクは電気自動車(EV)のバッテリーに比べると軽いので、バスの天井に積めるそうだ

乗用車用のモーター2個で大きなバスが走るのか不思議に感じたが、路線バスは基本的に、時速100キロで走ったりすることがないので大丈夫とのことだった。モーターで走るため変速ショックがないという特徴は、乗客が立って乗る場合も多いバスに適している部分だ。

大量の水素タンクを積む「SORA」は「移動する発電機」としての側面も持つ。体育館であれば5日間分の電力を供給できるというから、災害時には頼りになりそうだ。その点に関心を寄せる自治体からトヨタへの問い合わせもあるとのことだった。

現時点で「SORA」は、東京都が3台を導入している。価格は1台1億円程度だそうだが、東京都および国土交通省の補助金を利用できるならば、一般的なディーゼルバスと同程度の金額で購入できるそうだ。

  • 「SORA」の車両開発担当主査を務めた権藤憲治氏

    「SORA」の車両開発担当主査を務めた権藤憲治氏が車内で説明を行った

水素ステーション整備の呼び水となるか

トヨタやホンダなどがFCVを販売しているが、いまいち普及が進まない大きな理由は水素を充填するインフラの少なさだろう。実際のところ、電気自動車(EV)向け充電施設を目にする機会は増えてきたが、水素ステーションを見かけることは稀だ。そんな状況を変えるべく、トヨタ、ホンダ、日産自動車など11の企業が先ごろ、新会社「日本水素ステーションネットワーク合同会社」を立ち上げたことは記憶に新しい。

水素の供給が増えても、消費が増えなければ水素の循環が発生しないので、水素社会実現の夢も遠のく。そういった意味で「SORA」は、水素を大量に消費する大口顧客のような役割を担う。大口の顧客が定期的に寄ってくれれば、水素ステーションとしては収益が上がる。バスの台数増加と水素ステーションの施設数増加が両輪で進むような形がトヨタの理想らしい。

とはいえバス100台ということだし、これで一気に水素ステーション整備が加速するとも思えないが、定期的に一定量の水素を消費するクルマに、まずは街を走らせることが水素の循環を作り出す上で重要なのだろう。トヨタは現状、年間3,000台程度のFCVを生産しているが、今後は専用の生産ラインを作り、生産台数を10倍に増やすとの計画も発表している。FCVに水素充填の不便なく乗れる社会の招来を同社が急ぐのも当然というわけだ。