はじめての契約で取引相手から、「これ、掛けで払うから。3カ月手形でいいかな」と言われた。よく分からないまま、上司に伝えて了承してもらい、契約は無事成立したけど、そもそも手形って何? ということで今回は、いくつかある決済手段の中から「振込払い」と「手形払い」についてご紹介します。

■「掛け取引」について

私たちが普段の生活で使用する決済手段(支払い方法)と言えば、現金や電子マネーが一般的でしょう。しかし、一日に何十件、何百件もの取引が行われたり、時に高額になることもある企業対企業(BtoB)の取引には不向きです。そこで企業は、一定期間の取引分を後からまとめて支払うことができる「掛け取引」を行います。いわゆる「ツケ」ですね。

「掛け取引」となった代金は、請求する側にとっては「売掛金」、支払う側にとっては「買掛金」となります。企業によって締日は異なりますが、1カ月分をまとめて支払うのが一般的です。決済手段はいくつかありますが、次項では、企業間取引でよく利用される「振込払い」と「手形払い」について解説します。

■振込払い

どんな企業でも金融機関に口座を保有しているため、企業間取引では「振込払い」が主流となっています。企業によって締日や支払い条件などは異なり、「20日締めの翌月末払い」であれば、前月21日~当月20日までに発生した取引分を、翌月末までに金融機関を通してまとめて支払うことになります。

振込払いには、1件ごとに振込手数料がかかります。一般的に、送金先の金融機関(当行か他行か)や金額(3万円未満か以上か)、送金方法(窓口/ATM/IB/FB)といった条件によって額は異なりますが、無料または108円~864円かかるのが相場です。また、PCから振込手続きを行うことができるIB(※1)やFB(※2)を導入すれば、銀行に出向く手間を削減することも可能です。 なるべく手数料が安く、手間のかからない送金方法を選択すると良いでしょう。

(※1)IBとはインターネットバンキングの略。パソコンを使い、インターネット上で処理を行います。

(※2)FBとはファームバンキングの略。企業内に設置した専用端末から銀行サーバーにアクセスして処理を行います。インターネットバンキングよりセキュリティでの安全性が高い。

■手形払い

「振込払い」は、指定した支払日に代金の支払いが完了します。つまり、数千万あるいは億単位にものぼる大きな取引の場合であっても、支払期日までに現金を口座に用意しなければなりません。もちろん資金に余裕があれば問題ありませんが、現金を工面することが難しい場合もあるでしょう。では、どうするか。

取引先に支払期限の延期をお願いするという手もありますが、先方が聞き入れてくれるか分かりませんし、何よりも「お金がありません」と申告しているようなものですから、今後の取引を断られる可能性もあるでしょう。そこで、「手形」の出番です。手形には「約束手形」と「為替手形」の2種類ありますが、日本の取引で主に使われているのは「約束手形」の方です。約束手形とは、手形の振出人が手形の支払期日に記載された額面を受取人に支払うことを約束した有価証券です。つまり、取引先の同意を得て「手形払い」に切り替えれば、支払期日を先延ばしすることができるのです。

また、手形を振り出すということは、金融機関の厳しい審査を通ったことを意味しますから、単に支払期限の延期をお願いするよりも印象がよく、先方も安心して聞き入れてくれるでしょう。

■手形払いの危険性

資金繰りのために金融機関からお金を借りれば「利息」が発生しますが、手形に利息はかかりません。利息もなく支払期日を先延ばしにできる手形は、とても便利な決済手段と言えますが、発行した手形の支払期日までに、その金額以上のお金が口座に入っていないと「不渡り」を出してしまうことになるので注意が必要です。一度不渡りを出すと「不渡り処分」を受け、全ての金融機関に通知されてしまいます。また、半年間に2度目の不渡りを出すと銀行取引が停止されます。そうなると、事実上の倒産です。

「手形払い」にするということは、一つ間違えると社会的信用を失い、倒産を招く危険性があるということを忘れてはいけません。

■手形を受け取ったら

受取った手形を金融機関に呈示すると、手形の支払期日までに口座に入金されます。よく「○カ月手形」などと言いますが、手形が振出された日から支払期日までの日数を「手形サイト」と言います。「振込払い」で支払ってもらった場合には、入金日に現金化されるわけですが、例えば「20日締め翌月末90日手形払い」の場合、手形が振り出されるのが翌月末、そこから現金化されるまでに90日を要します。現金化されるまでに5カ月かかるということですね。ただし、手形に裏書して譲渡することで支払いに利用すること(裏書譲渡)ができたり、支払期日前に銀行で現金に変えることも可能です。その場合、支払期日までの金利分が割り引かれますので、覚えておくと良いでしょう。


今回は、「振込払い」と「手形払い」についてご紹介しました。それぞれのメリット・デメリットを十分理解し、自社の資金状況に適した決済手段を選択するようにしましょう。