TSUTAYAとカルチュア・エンタテインメントが、プロ・アマ問わず映像クリエイターと作品企画を発掘するプログラム「TSUTAYA CREATORS' PROGRAM」。受賞者には5千万円~の総製作費が用意され、4回目を迎える今年も4月5日から募集がスタートした。4月26日には応募者向けの説明会が開催される。

ウエダアツシ

ウエダアツシ氏

このタイミングに合わせ、昨年の受賞者4名にインタビューを実施。2人目は、『リュウグウノツカイ』(14)で長編映画デビューを飾り、その後は山本舞香の初主演作『桜ノ雨』(16)、小芝風花主演の『天使のいる図書館』(17)などを撮ってきたウエダアツシ氏だ。

ウエダ氏が準グランプリを受賞した『モータープール(仮)』は、横浜に住む小学2年生の新太郎が祖母のいる大阪でひと夏を過ごす物語。祖母が管理する「モータープール(月極駐車場)」で様々な人々と出会う中、両親が離婚することを知る。

脚本を仕上げたのは、締め切り2日前。「夏休みの宿題のように泣きそうになりながら」と吐露するウエダ氏は、どこか誇らしげだ。

最後の最後で見えてくる"夏休みの宿題"

――昨年末に小芝風花さんを取材したんですが、ウエダさんの受賞をとても喜んでましたよ(映画『天使のいる図書館』で小芝を主演に起用)。

一応、報告はしました(笑)、大阪(小芝の出身地)で映画を撮ることになったよって。今のところの脚本には小芝さんぐらいの年齢の役がないのですが、彼女はとても優秀な役者さんなので、また何かの機会にご一緒したいと思っています。

――準グランプリ受賞、おめでとうございます。周囲の反応はいかがですか?

業界内の方はご存知の方も多いので「おめでとう」と言ってくださるんですが、実際のところ、映画作りとしてはスタート地点というか、まだ何も始まってない段階なので、実感としてはそんなに(笑)。でも監督業はとても不安定な仕事なので、「いずれやる仕事」が1つ決まっているというのは、精神的な安定にはなっています(笑)。

――なるほど(笑)。二次審査の課題である脚本は締め切りの2日前に書かれたんですよね?

そうです、本当にダメ人間なんですよ(笑)。そもそも応募のきっかけも、第1回TCPで準グランプリ(『ルームロンダリング』)を受賞した梅本(竜矢)が大学時代からの映画仲間なんですが、彼から「オリジナルを映画化できるこんな夢のようなコンテストがあるのに、なぜ出さない!?」とケツを叩かれたからで(笑)。脚本の締め切りが9月頭だったと思うんですけど、他の仕事もあったせいで書けないというか……書かないというか(笑)。結局は、8月末に2日間徹夜して必死に。小学生の夏休みの宿題を8月31日にやるように、泣きそうになりながら書きました(笑)。

――頭の片隅には、「取り掛からないと……」という思いも。

もちろんそういう思いはあるんですけどね。でも夏休みの宿題ってなぜかギリギリにならないとやらないじゃないですか。たまたま今回は小学生の夏休みの物語だったので、そういうニガい過去を思い出しながら書けたのが良かったのかな……と前向きに捉えています(笑)。

――いつも締め切りギリギリタイプですか? その気持ち、すごく分かります(笑)。

毎回そうですね脚本でも編集でも前もって作業してたとしても、結局最後の最後で見えてくるものもあるので、いつもだいたいギリギリに……。

  • ウエダアツシ

――でもこうして受賞されました。

本当にね。書いてみるもんですねぇ(笑)。あの、ギリギリとは言え、もちろん努力はしたつもりですよ、そこは誤解のないように(笑)。

『探偵!ナイトスクープ』構成作家が協力

――作品の題材になった「モータープール」。小さい頃に見ていた看板が発想のポイントになったそうですね。

子どもの頃から、身近に「モータープール」がある環境で育ちました。先ほど話にも出た小芝さんとご一緒した『天使のいる図書館』の舞台が奈良で、撮影中に久しぶりに看板を見かけて懐かしくなったんです。そういえば東京で見ないなぁ……と。「モータープール」は東京の人は知らない言葉で、関西人にとっては当たり前の言葉。これをタイトルにすると面白いのかなと思って。タイトルが象徴するような、東京と大阪の文化の違いを映画の中で伝えられたらいいなと。

――最終審査でのプレゼン映像は、『月曜から夜ふかし』のような個性的な人が登場する街ロケでした。大阪の方々があそこまで温かいとは、正直驚きました。

もちろん小さい頃は新世界で昼間っからお酒を飲んでるおじさんたちは、近寄りがたくて怖かったんですけど(笑)、大人になってから話しかけてみるとすごく気さくな方ばかりで。テレビにもよく取り上げられますし、もはやみんなロケ慣れもしていますから(笑)。

――取材を断った人がゼロだったんですよね?

そうですそうです。あの5分の映像にはなかなか東京では出会えない見た目もお話も個性的な人がたくさん出てきましたが、実際ロケは2時間半ぐらいしかかかってないんですよ(笑)。『探偵!ナイトスクープ』の構成作家をしている 大学時代の同級生が1人いて、彼に連絡をしてロケを手伝ってもらいましたが、想像していた以上に今でも新世界は個性的な人で溢れていましたし、やっぱり大阪は人と人との距離が近いなぁと改めて思いました。

――大阪の魅力以外に伝えたいことはありますか?

大阪のことを知らない少年が大阪に来てなじめない中、触れ合いを通じて徐々に印象が変わりはじめる、というようなストーリーを思い描いていますので、「少年の成長」が物語のベースになってくると思います。

――役者さんが重要になりますね。

なんとなくのイメージキャストを考えながら本づくりはしていたんですけど、まだどのくらいの規模でやる映画なのかも分からないので(笑)。関西人キャストはたくさん出てもらいたいですし、一番重要なのは主人公となる8歳の少年。オーディションも含めてたくさんの子どもたちに会えればと思っています。

映画の入り口は音楽

ウエダアツシ

――受賞された皆さんにお聞きしているのですが、仕事上で最も影響を受けた映画はありますか?

ハリウッド映画も好きだし、昔の邦画も好きなんですけど……今回の企画で影響を受けた作品を挙げるなら、侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督の『冬冬の夏休み』(84)です。都会の子が田舎のおじいちゃんの家に遊びに行く話で、僕は毎年夏になると観たくなる映画なんです。国も文化も違う台湾の「少年の夏休み」なんですけど、ものすごく自分の少年時代を思い出させてくれます。そんなにロケーションとしてはきれいでもない川で泳いでいるシーンがあるんですが、「でもまぁ、実際こんなもんだよなぁ」って思えるんです。めちゃくちゃキレイな川で泳ぐ少年時代なんて、なかなか過ごせないじゃないですか? そういう等身大の経験を映画にしてみたいなと思って、今回「モータープール」企画しました。

思春期のモヤモヤとか衝動とかを描いた映画も好きです、『台風クラブ』(85)など。 相米慎二監督の作品はどれも好きですね。あと、学生時代はパンク映画が好きでした。石井聰互(岳龍)監督、塚本晋也監督、山本政志監督の映画ばっかり観て、真似事みたいな自主映画を作っていました(笑)。もともと音楽が好きで、自分の好きなバンドのメンバーが出演していたり、曲が使われている映画が、僕にとっての映画の入り口でした。今はいろんな映画が好きですし、自分自身も多ジャンルに挑戦したいと思ってます、すでに今まで撮ってきた映画もバラバラですが(笑)。

■プロフィール
ウエダアツシ
1977年生まれ。奈良県出身。2014年、『リュウグウノツカイ』でゆうばり国際ファンタスティック映画祭2014オフシアター・コンペティション部門「北海道知事賞」を受賞し、劇場映画デビュー。その後、山本舞香主演『桜ノ雨』(16)、小芝風花主演『天使のいる図書館』(17)、片山萌美主演『TANIZAKI TRIBUTE 富美子の足』(18)でメガホンを取った。