3月17日より、Suicaのオートチャージサービスが拡大された。これまでは入場の時だけだったが、今では駅を出る時にも自動改札機にタッチすれば、オートチャージが可能になった。JR東日本がこうした新しいサービスを付け加えたのは、乗客の利便性を考えたのはもちろんだが、もうひとつ理由がある。それは、2017年にスタートしたJR東日本グループ共通ポイント「JREポイント」を一体化した収益拡大だ。

  • 駅から出る時もオートチャージ、という新サービスは利用者メリットだけじゃない狙いがある

    駅から出る時もオートチャージ、という新サービスは利用者メリットだけじゃない狙いがある

18年目のSuicaが行き着いた新オートチャージ

まず、Suicaの現状を見てみよう。2001年にJR東日本が発行を始めてから17年になるが、切符を購入する必要がないことや自動改札機にタッチするだけでわずか0.2秒で入場できる手軽さが受けて、発行枚数は一貫して右肩上がりで増えている(2018年1月の発行枚数6,630万枚)。

Suicaは非接触ICを使った電子マネーで、電車の乗車はもちろん街のコンビニやドラッグストアなどで買い物もできる。しかし、プリペイド方式のため、あらかじめお金を入れておかないと使えない。運悪く残高が足りなかった場合には駅の自動改札機にタッチしても扉が開かず入場することができない。

こうした時に役立つのがオートチャージ機能だ。オートチャージとは電子マネーの残高が一定額を下回った場合に、決済時等に自動的に金融機関の口座からチャージ(入金)を行う仕組みのことである。

Suicaの場合は、オートチャージ設定金額と入金額をあらかじめ1,000円単位で決めることができる。筆者の場合は3,000円を下回った場合に5,000円を入金すると言うルールにしている。この結果、朝夕ラッシュアワーの新宿駅で改札の前で立ち往生することがなくなったので、大いに助かっている。

ただ今のところ、JR東日本とPASMOの利用できる私鉄圏内で、オートチャージ機能が利用できるのはJR東日本の子会社ビューカードのビューマークのついたカードだけというのが残念なところ。ビックカメラスイカカードやJALカードスイカなど、数は限られる。その代わり、いずれのクレジットカードも紐付けておけば、チャージの度に3倍のポイントがたまるのでこれはお得だ(他の利用は0.5%のところが1.5%になる)。

そして、3月17日からの新オートチャージサービス機能である。ただし条件があり、出場時に運賃を精算した後の入金(チャージ)残額が、オートチャージの設定金額を下回る場合、1回のみオートチャージされる。オートチャージしても入金(ジャージ)残額が精算額に満たない場合は、オートチャージされない。また、定期券区間を経由して、定期券区間外の駅間を利用した場合は、出場時にオートチャージされない。

全てのポイントがJREポイントに集中

確かに、例えばオートチャージができないままコンビニなどで使おうとし、残金が足りなかったという経験がある人もいるだろう。その意味でも、駅を出る時もオートチャージできるようになるのは、乗客にとって便利な新サービスと言えるだろう。ただ、注目したいのは冒頭で触れたJREポイントについてである。

現在JR東日本は、アトレ、シャポーなど、バラバラだった駅ナカの駅ビルのポイントサービスを統合して「JREポイント」とした。さらに2017年12月には「Suicaポイント」が正式に加わり、2018年6月には「ビューサンクスポイント」も加わって、JREポイントがその威容を現すことになっている。

こうなると、利用者の意識は確かに変わるだろう。JR東日本の全ポイントサービスがJREポイントに統合されたならば、首都圏各地にあるアトレ、シャポー、グランディアなどエキナカのショッピングセンターでの買い物分もポイントで合算できるし、街中でのSuicaの利用やビューカードで貯まるポイントも合算できるため意識して買い物すると、かなり大きな額のポイントを毎月獲得できるようになる。

  • 毎日の通勤・通学も買い物のポイントも、「JREポイント」として貯めて使えるようになった

    毎日の通勤・通学も買い物のポイントも、「JREポイント」として貯めて使えるようになった

一方で、エキナカでの利用が増えると、買い物に使うSuicaの利用も増えるから、結果的に残高も少なくなる。そうなると、自動改札機を出ようとしても残高不足で扉が開かないケースも増えるだろう。そうした不便をなくすために、自動改札機を出る際にもオートチャージができるようにしたのである。

上限5万円のnanacoやWAONと戦うために

その背景には、さらにプリペイド方式電子マネーの過当競争が隠れている。SuicaはもちろんPASMO、nanaco、WAON、Edyも、誕生当初は限度額が最大2万円であった。今もSuicaとPASMOは2万円であるが、nanaco、WAON、Edyはみな、5万円に上がっている。

特にnanacoとWAONは、ここ5年ほどでスーパーから百貨店にまで業態を広げているため、2万円では少なすぎるという声に応えて、早々に5万円にまで引き上げた経緯がある。コンビニなら2万円でも十分だろうが、百貨店となると5万円ぐらいないと買い物ができないという判断である。

実際、現在電子マネーの中で最も利用件数が多いのはnanacoと言われる。一方で、利用金額が最も多いのがWAONと言われている。これは、nanacoがセブンイレブンを中心として展開しているのに対して、WAONはイオンモールで単価の高い買い物が増えているから、利用件数は少なくても金額が大きくなるというのである。

  • プリペイド方式電子マネーで見てみると、nanaco、WAON、Edyはみな、上限5万円という設定になっている

    プリペイド方式電子マネーで見てみると、nanaco、WAON、Edyはみな、上限5万円という設定になっている

こうした動きを見てJR東日本も、Suicaで電車に乗ってもらい、エキナカでコーヒーやパン、新聞を買ってもらい、さらに駅ビルで洋服やアクセサリーを買うなど、全てを駅関連で消費してもらおうという戦略であり、その中心にJREポイントが座るという絵柄を描いている。そうした買い物の利便性を促進し高めるにも、エキナカから街中へと出る時にお金が足りなくならないよう、退場時のオートチャージを付け加えたということであろう。

電子マネーはかつては小額決済のツールであったが、電子マネーが広く普及したことと、人々のリテラシーが上がってきたこともあって、今やクレジットカードに代わるキャッシュレス時代の主役になろうとしている。今回のオートチャージサービスの拡大の動きも、そうした流れの一環と見るのが正解だろう。

※写真はイメージで本文とは関係ありません

筆者プロフィール: 岩田昭男

消費生活ジャーナリスト。クレジットカード、電子マネー、ポイントなど暮らしに密着した金瘡サービスを得意とする。『Suica一人勝ちの秘密』(中経出版)、『Sicaが世界を制覇する』(朝日文庫)など、Suicaの進化はライフワーク。