原因不明の吐き気や嘔吐の原因はストレスにあるかもしれない

原因不明の吐き気や嘔吐の原因はストレスにあるかもしれない

特に暴飲暴食をしたわけではなく、ノロウイルスなどのウイルスに感染したわけでもないのに、頻回に嘔吐をしたり吐き気をもよおしたりする――。「いつ」「どこで」吐き気に襲われるのかわからなければ、外出をするのが怖くなり、 QOLに多大な影響が及ぶのは必至だ。

そんなとき、もしも身体面での原因が思い浮かばなければ、実は精神面に何らかの「トラブル」が起きているかもしれない。具体的には、ストレスが原因となって嘔吐を引き起こしている可能性があるのだ。今回は「ストレスと吐き気」の関係性について、精神保健指定医の髙木希奈医師に話をうかがった。

身体表現性障害とは

「ストレス社会」などと揶揄される現代において、毎日をストレスなく過ごすことはまず不可能だ。小さいものならば「家族」、大きなものならば「会社」といったように、私たちは何らかのコミュニティに属しているのが普通だ。他者とのかかわりが出てくれば当然、そこにストレスが生まれる。仕事のノルマや社内の人間関係、そして家族関係など、ストレッサーはそこかしこに存在する。

そのように積もっていったストレスは私たちにさまざまな悪影響を及ぼし、その一つに「嘔吐・吐き気」がある。

「ストレスで嘔吐をすることはあります。精神疾患にあてはめて考えてみると、『身体表現性障害』がこの現象に該当すると思います。摂食障害やパニック障害、さらにはうつ病など他の精神疾患でも、ストレス性の嘔吐がみられることがあります。嘔吐の頻度は個人によって違いますので、多い人もいれば少ない人もいます。程度もその人によりけりで、実際に飲食したものを嘔吐したりしなかったり、吐き気だけの場合もあります」

身体表現性障害という言葉は、あまり聞き慣れない人もいるのではないだろうか。身体表現性障害とは「身体的な疾患や異常がないのにも関わらず、さまざまな身体症状が持続する病気」の総称だ。身体表現性障害になると、吐き気や嘔吐だけではなく頭痛、体の痛み、腹痛、皮膚掻痒感、動悸、呼吸困難、めまい、耳閉塞感などの多岐にわたる症状を繰り返し訴えるようになる。

それらの症状を主訴として内科や外科、整形外科、婦人科などのさまざまな身体科を受診して検査をするが、身体的にはどこも異常が発見されず、医師から「問題ない」と言われても信用できず、ドクターショッピングを繰り返す――。その結果、患者が精神科に受診するまでに数年間を要すると言われている。それまでに数多くの医療機関を受診し、精査や治療を受けているが、ほとんど改善せず、最終的に精神科を受診するケースがほとんどであるという。

身体表現性障害になりやすい人の特徴

そんな身体表現性障害は「男性よりも圧倒的に女性の患者さんが多いですね。幅広い年代にみられますが、発症は成人早期(20代など)の比較的若い年代で発症される方が多いです」と髙木医師は話す。具体的になりやすい人の特徴は以下の通りだ。


「自信がない」

「否定的・被害的に物事をとらえやすい」

「過度に自己にとらわれる」

「身体感覚が鋭敏(身体的不快感に対する閾値と耐性が低い)」

「家事をしなくても大丈夫」「仕事に行かなくてもよい」など、病気になることで得られるメリット(疾病利得と言います)があるため、無意識に病気や症状を生み出してしまう点も、身体表現性障害の問題として考えられているという。

身体表現性障害の治療には長い時間が必要

身体表現性障害を長期間患うと、仕事ができなくなったり、友人や家族関係が不良になったりする。多数の医療機関の受診と頻繁な薬物治療の結果、薬物(鎮痛薬など)の乱用と依存が生じるケースも少なくないと髙木医師は指摘する。そして、厄介なことにその治療法は現時点では確立されていない。

「身体表現性障害そのものに対する治療薬はありません。基本的には精神療法や環境調整がメインとなり、必要があれば抗うつ薬や気分安定薬、抗不安薬などを少量ずつ使用します。治療に際し、患者さんはこのような心理的要因について話し合ったり、精神療法への受け入れを拒否したり、抵抗したりする場合もあります」

この難解な障害は、治療を開始したからといってすぐに改善するわけではない。疾患や症状の発現要因を見極め、その原因に対する環境を調整したり、ストレス対処法を身につけたりするなど、時間をかけてゆっくりじっくり治療を行っていくことになるという。

原因究明のための精神科受診を

継続的にストレスがかかりやすい場所といえば、学生ならば学校、社会人ならば会社が該当しやすいだろう。

政府が2016年に公表した「平成28年版過労死等防止対策白書」によると、「正社員(フルタイム)の月間の時間外労働時間が80時間を超えている」と回答した企業は2割以上もあった。月間80時間の時間外労働は「過労死ライン」とも評され、健康被害を招くリスクをはらむ。長時間の残業は、肉体的にも精神的にもかなりの負荷を強いることになり、それだけストレスが増えていくのは明白だ。

そして、たまったストレスが身体表現性障害という形で嘔吐や頭痛、腹痛といった症状を引き起こすことになる。髙木医師も話していたように、身体表現性障害の患者は内科や外科などのさまざまな科を"放浪"するケースも少なくない。原因が思い当たらない吐き気や嘔吐に悩まされたとき、「精神科を受診する」という選択肢もあることを覚えておいてほしい。

※写真と本文は関係ありません

取材協力: 髙木希奈(タカギ・キナ)

精神保健指定医、日本精神神経学会認定専門医、日本精神神経学会認定指導医、日本医師会認定産業医。長野県出身。聖マリアンナ医科大学卒業。現在は、精神科単科の病院で精神科救急を中心に急性期治療にあたっている。また、産業医として企業にも勤務している。著書に『あなたの周りの身近な狂気』(セブン&アイ出版)、『間取りの恋愛心理学』(三五館)、『精神科女医が本気で考えた 心と体を満足させるセックス』(徳間書店)、電子書籍『女医が教える飽きないエッチ』(App Store、Kindle)など。趣味は、海外旅行とスキューバダイビング。オフィシャルブログはこちら。