JALは収益性確保、ANAは事業規模と利益の成長

JALのV字再建以来利益水準で水をあけられていたANAが、2017年度は四半期時点で逆転しており、年度見通し予想では依然JALが若干上回るものの、利益額でほぼ拮抗という状態となった。また現時点(2月2日)での時価総額も、ANA1.53兆円、JAL1.46兆円と拮抗を続けている。

  • 事業規模ではANAがJALを上回り(売上高で1.4倍)、営業利益率ではJALが優位(ANA8.3%、JAL12.1%(いずれも2017年度末両社予想)

    事業規模ではANAがJALを上回り(売上高で1.4倍)、営業利益率ではJALが優位(ANA8.3%、JAL12.1%(いずれも2017年度末両社予想)

では、両社の収益性の違いはどのように見るべきだろうか。これまで言われているような、「事業規模ではANAがJALを上回り(売上高で1.4倍)、営業利益率ではJALが優位(ANA8.3%、JAL12.1%)」(いずれも年度末両社予想)という基本線は変わらない。しかし、2016年度はJALが給与水準の改善で人件費が伸びたり、破綻時に債権放棄された機体が新しい機材に入れ替わることで機材費が増えたりして、減益になったことで徐々に収益性の差は埋まってきている。

JAL中期計画に、「費用増を克服して増収増益に転じる」と記載されるなど、収益性確保へのJALの決意には並々ならぬものがあり、「事業規模と利益の成長」に目標を置くANAとテイストの違いが明らかに見られる。

第3四半期時点でのいくつかの営業指標を比較して見ると、座席利用率では両社とも国内線で0.5~1%、国際線で3%強2016年度より改善して高水準を維持し、JALが国内・国際ともANAを3.5~4.5%前後上回っている。運航便において旅客数に連動する費用がほとんどない(販売手数料や機内サービス費くらいしかない)ので、損益分岐点(BEP)を上回るレベルでの利用率アップは旅客収入がほぼ利益の増加になるため、JALの収益性優位はこの利用率の差によってもたらされていると言える。

旅客単価や旅客キロあたり運賃単価を比べると……

また、収入をもう一面で構成するのは旅客単価であるが、旅客ひとり当たりの単価はANAが国内・国際とも上回っている。旅客キロあたり単価で見ると、国内線でJAL(20.3円/km)がANA(17.3円)を大きく上回っているが、これはひとり当たり運航距離で、JALが750kmに対してANAが900kmと、運賃単価が高くなる傾向の短距離路線の比率が高い(JAS時代の名残り)JALが高くなっている。これらを勘案すると、イールドの面で収益性を左右するような有意な差は両社間にはないものと言える。

旅客キロあたり運賃単価は両社とも国際で微減する一方、国内線では7%程度も上がっており、座席供給量をコントロールしつつ運賃レベルをじわじわ上げることに成功している成果が見てとれる。ただし、旅客の立場からすると「大手の運賃は高い」ままの状態が続くことになり、利用者の幸せとは裏腹なものになってしまってはいるのだが。

  • 両社ともに、旅客キロあたり運賃単価は国際線で微減だが、国内線では7%増となっている

    両社ともに、旅客キロあたり運賃単価は国際線で微減だが、国内線では7%増となっている

では、ボリューム面と収益面の両面から見た、今後の伸びしろはどうだろうか。航空事業以外は全て、収支トントンという乱暴な前提を置いて両社のBEPを試算して見ると、ANAが60.4%、JALが62.3%となり、ややANAに分があるようだ。なおこれは、費用の内際明細がないため、国内・国際を無理やり合算した平均利用率を出し、1%あたりの旅客収入を算出、次にこれが何%下落すると利益がゼロになるかを計算し、現在の利用率から引いたものをBEPとしている。

もし、航空旅客事業以外での赤字が大きい場合、BEP利用率は低い方に改善し、逆に黒字であれば本業の収益性は悪い方に動く。これらを前提として見た場合、もし本稿の分析に齟齬がなければ、今後のJALの経営指標として「BEPを改善する」という視点からの施策も有効なものと思われる。

今回の分析の数字の正確さについては、四半期途中経過でもあることに加え、2017年度から連結化したピーチの利益をはじめ、貨物事業など関連事業の採算がどう反映されるべきかなど経営指標の判断における不確定要素が残るため、現時点ではこのような見方もできるという問題指摘にとどめたい。年度決算等をよく分析した上で、両社の現在の企業体質や成長戦略の推移を見極めていくことが重要だと思われる。

筆者プロフィール: 武藤康史

航空ビジネスアドバイザー。大手エアラインから独立してスターフライヤーを創業。30年以上に航空会社経験をもとに、業界の異端児とも呼ばれる独自の経営感覚で国内外のアビエーション関係のビジネス創造を手がける。「航空業界をより経営目線で知り、理解してもらう」ことを目指し、航空ビジネスのコメンテーターとしても活躍している。スターフライヤー創業時のはなしは「航空会社のつくりかた」を参照。