ひんやりするっとしたのど越しの水ようかんは、夏にぴったりな涼菓子ではあるものの、福井県では水ようかんは冬の風物詩だ。「おこたとミカンと水ようかん」は、福井県では慣れ親しんだ光景なんだとか。時が流れてもなお、脈々と受け継がれる福井県人たちの「水ようかんDNA」の秘密を、フードプロデューサーの佐々木京美さんにうかがった。

  • 福井県の冬は水ようかんで始まる。いざ、食べ比べ!

    福井県の冬は水ようかんで始まる。いざ、食べ比べ!

水ようかんの定位置は縁側だった!?

なぜ福井県で水ようかんが愛されるようになったのか。その始まりは諸説あるようだが、あんが高級品だった時代において、水を入れてあんを薄めて作る水ようかんは、庶民にとっても手が届きやすい菓子として愛されたのではないかと考えられている。

ではなぜ冬かと言うと、そこには福井県の気候が関係しているんだとか。糖度の低い水ようかんは保存が利かず、常温や夏場の気候ではすぐに腐ってしまう。それゆえに、冷蔵庫がない時代において、水ようかんを夏に食べるのは不可能だった。

一方、福井県の冬は室内が氷点下になることがほとんどなく、また、日照時間が短いという特徴があるため、廊下や縁側が冷蔵庫の代わりとなっていた。縁側に水ようかんが置かれているというのは、昔の福井県ではよくある風景だったそうだ。

  • フードプロデューサーの佐々木京美さん。「冬はおこたで水ようかん」と書かれたオリジナルのエプロンで福井県の食文化を紹介

    フードプロデューサーの佐々木京美さん。「冬はおこたで水ようかん」と書かれたオリジナルのエプロンで福井県の食文化を紹介

昭和30年代、佐々木さんを含めた福井県の人々の記憶の中では、水ようかんは家庭でお母さんが作るおやつだったという。その当時、水ようかんはアルミの弁当箱やバットに流し入れて作られていた。材料は「粉末あん」「寒天」「砂糖」と、全て乾物で作れたことも広く家庭に普及する一因だったのだろう。

家庭の味がお店の味へ

しかし、シンプルゆえに上手に作るのは難しく、ちょっとした温度の違いであんと寒天が2層に分かれてしまう。家庭で一から作る水ようかんが、上手に作れる地元のお店から買う水ようかんへシフトしていくのも自然な流れだろう。こうして、福井県内には水ようかんを販売するたくさんのお店が誕生することとなった。

そのお店も、八百屋や餅屋、駄菓子屋、饅頭屋、卸の菓子屋など多種多様。各家庭にひいきのお店ができ、子どもたちは親が買ってくる水ようかんを自分の水ようかんと認識するようになる。それゆえに、現在では饅頭屋から洋菓子店に業態転換したお店でも、冬だけ水ようかんを展開しているところもあるようだ。

  • 多種多様な水ようかん。デザインもカラフルで味わいがある

    多種多様な水ようかん。デザインもカラフルで味わいがある

お店によって、あんの素材となる小豆が異なっているほか、砂糖も上白糖やグラニュー糖、ザラメ、黒糖と違うため、水ようかんの味わいや色、風味、厚さもお店によって異なる。そのため、自分が慣れ親しんだ水ようかんの味わいを「えがわDNA」「あまとやDNA」等という「水ようかんDNA」として、誰もが持ち合わせるようになるそうだ。

食べ比べしがいがあるこのバリエーション

水ようかんが食べられるのは毎年11~3月頃。最大手の水ようかん専門店「えがわ」が広告を出し始めると、「今年も水ようかんの季節が巡ってきた!」と人々が認識し、他のお店も水ようかんを始めるという。

終わりは3月頃と言いつつも、明確な区切りがあるわけではないようで、段々暖かくなると「そろそろシーズンオフかな」と自然に感じるそうだ。そんなところにも、その土地に根付いた食文化であることがよく伝わってくる。

  • 水ようかんの側には、大豆が入った「豆入り番茶」を

    水ようかんの側には、大豆が入った「豆入り番茶」を

ちなみに、お店では当初、地域の職人が作る漆塗りの饅頭箱に流し込んで水ようかんを作っていた。切れ目が入った一枚流しの水ようかんを付属されたヘラですくい、家族みんなでいただく、水ようかんは家族のコミュニケーションの立役者でもあったようだ。時代は変わり、容器は漆器塗りから紙へ、そして今日では、お土産にも便利な真空容器のものまで販売されている。

  • 容器は漆器塗りから紙へと変わっていった

    容器は漆器塗りから紙へと変わっていった

これだけ種類があるのではあれば、やはり食べ比べをしてみたいところ。水ようかんはエリアでも異なる。例えば、大野市のお店では黒糖の味わいがしっかりしている傾向があり、京都に近い小浜市のお店ではあんの風味が強くねっとり感がある。

  • ヘラですくえばこのしなり具合。柔らかさは容易に想像できるだろう

    ヘラですくえばこのしなり具合。柔らかさは容易に想像できるだろう

実際に並べてみると色や縦・横の厚みが違っており、食べてみるとさらにその違いが分かる。ヘラで持ち上げた時の、あの「早く食べないと切れてしまいますよ」と言わんばかりのしなり具合ももちろん、お店によって異なる。ちなみに、水ようかんの上に被されているフィルムも、水ようかんに付属されているヘラも、お店によって異なる。食べ比べの後は、ぜひコレクションに。

  • 色はあんの種類や黒糖の配合によって変わってくる

    色はあんの種類や黒糖の配合によって変わってくる

  • 縦・横の厚みもそれぞれ。一番太いのは「美濃喜」だ

    縦・横の厚みもそれぞれ。一番太いのは「美濃喜」だ

  • 透明なフィルムもなんだか懐かしいデザイン

    透明なフィルムもなんだか懐かしいデザイン

  • ヘラの素材や形状もお店によってそれぞれ

    ヘラの素材や形状もお店によってそれぞれ

実のところ、福井県民は自分の「水ようかんDNA」があるため、食べ比べをすることはあまりないという。だが、2017年12月に「おこたとミカンと水ようかん」を再現すべく、福井駅前に大量のこたつを並べ、ミカンの詰め放題と水ようかんの食べ比べができるイベント実施した際、老若男女問わず大盛況だったという。

今も水ようかんシーズンの真っただ中。アンテナショップ「ふくい南青山291」(東京都港区南青山)でも、水ようかんはしっかりとその存在感を示している。水ようかんの賞味期限は、冷蔵庫に入れて7日程度なので、今日では福井県を代表する土産品としても愛されている。水ようかんと過ごせば、この冬は水ようかん同様、滑らかで甘い冬になるかも!?

  • 「ふくい南青山291」(東京都港区南青山)へは東京メトロ千代田線/銀座線/半蔵門線「表参道駅」B3出口から徒歩5分

    「ふくい南青山291」(東京都港区南青山)へは東京メトロ千代田線/銀座線/半蔵門線「表参道駅」B3出口から徒歩5分

  • 水ようかんは試食が用意されていることもあるので、食べ比べてみてから選んでみるのもいいだろう

    水ようかんは試食が用意されていることもあるので、食べ比べてみてから選んでみるのもいいだろう