米ドル円はどこへ向かうのか

2018年に入って米ドルがほぼ全面安の展開だ。対円でも、17日に一時、昨年9月以来となる110円ちょうど近辺まで下落した。

米ドル安の材料となったのは、ECB(欧州中央銀行)がQE(量的緩和)縮小・停止に向けて動き始めるとの観測(=ユーロ高要因)、日銀が国債購入量の段階的な停止、いわゆるテーパリングを始めるとの思惑(=円高要因)、中国が外貨準備による米国債投資を見直すとの報道(=米ドル安要因)などだ。いずれも、外国から米国への資金フローに影響を与える外国サイドの材料だ。

一方、米国サイドに取り立てて米ドル安材料があったわけではない。むしろ、米景気は堅調だ。消費者信頼感や企業の景況感は高水準を維持。アトランタ連銀の短期予測モデルによれば、昨年10-12月期の実質GDP成長率は3期連続での年率3%超が見込まれている。

また、市場では、FRBが今年3月と6月に利上げするとの見方が有力であり、年内にさらに1回の利上げが視野に入っている。NYダウは高値を更新し、年初からすでに1000ドル以上上昇している(17日時点)。

とりわけ、米ドル円については、昨年の重要な変動要因だった日米金利差や株価との相関が低下している。過去1年間の米ドル円と日米長期金利(=10年物国債利回り)差の相関係数(※)は0.70と、相関関係が失われたわけではない(週次データ、以下同じ)。

それでも、昨年3-10月に同相関係数は0.90を上回っていた。過去3か月だけをみれば、両者の相関係数は-0.44と、逆相関だった。つまり、長期金利差(米>日)が拡大すると米ドル安円高、縮小すると米ドル高円安になる関係がみられた。

(※) 相関係数は-1から1の間の値をとり、-1は完全な逆相関、1は完全な正の相関、0は相関が全くないことを意味する。

さらに、市場の金融政策予想を強く反映する2年物国債利回りの日米差と米ドル円の相関係数をみると、過去3か月では-0.78だった。これはFRBの利上げ観測が高まるなかで、米ドル円が下落してきたことを意味している。

同様に、過去1年間の米ドル円とNYダウの相関係数は0.13だった。昨年3-8月に同相関係数は0.60を上回っていたので、大きく低下した格好だ。そして、過去3か月の両者の相関係数は-0.39と、やはり逆相関だった。

さて、以上のように米ドル円が米国のファンダメンタルズ(景気や金融政策など)をあまり反映しない状況は一時的だと判断している。6か月や1年といった中期的なタイムスパンで考えれば、再び米国のファンダメンタルズが重要な相場材料になるだろう。

ただ、しばらくは米国以外の相場材料にも一層の注意を払う必要があるかもしれない。冒頭の材料で言えば、中国当局は米国債投資見直しの報道を否定した。中国が外貨準備の分散を進めるなかで、非米ドル資産を徐々に増やすのは当然の流れだろう。しかし、資金を短期間に大きく動かして市場を動揺させるのは本意ではあるまい。

そして、目先的には、日本やユーロ圏の金融政策が重要になりそうだ。23日には日銀の金融政策決定会合の結果が判明する。長短金利の誘導目標に変更がなく、また最近の国債購入額の減少は金融緩和の縮小やその準備を意味しないと明確にされれば、円高の動きは一服するかもしれない。逆に、可能性は低そうだが、黒田総裁の会見などで将来的な金融緩和の縮小や利上げがわずかでも示唆されれば、市場は円高で反応しそうだ。

25日のECB理事会の結果には一層の注意が必要だ。さすがにQE終了の期日が明示されることはないだろうが、「規模や期間を拡大する可能性がある」とするガイドラインは修正されそうだ。少なくとも「規模や期間の拡大」という金融緩和強化の方向だけでなく、「規模や期間の縮小」といった金融緩和縮小の方向にも言及するのではないか。そうであれば、足元で堅調なユーロは一段と上昇(裏側の米ドルは下落)することになりそうだ。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフエコノミスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。