これから18年春にかけて、欧州の政治情勢に改めて注目したい。反EU・反グローバリズムのうねりは、今年4月のフランス大統領選挙で国民戦線(FN)党首ルペン候補が敗北したことでいったん下火になっていたが、再び勢いを増す可能性もある。以下に現状と注目点を概観しておこう。

  • 2018年欧州の政治情勢に改めて注目!!

ブレグジット交渉の行方

まずは、英国のEUからの離脱(ブレグジット)に関する交渉の行方が注目される。両者の間では、英国の負担金や、在英のEU市民と在EUの英市民の権利保障、アイルランド共和国と北アイルランド(英国の一部)の国境問題など、離脱時の条件に関する交渉が延々と続けられていた。

ようやく交渉に「十分な進展」があったと判断され、12月15日のEUサミットで、移行期間の激変緩和措置や離脱後の通商協定などを交渉する「次のステップ」に進むことが承認された。もっとも離脱条件に関しても最終合意に達したわけではなく、今後、両者の解釈に齟齬が生じる事態もありえそうだ。

また、離脱後の英国とEUの関係については、英国側にもコンセンサスはないようだ。英国のメイ首相は、通商や移民などに関して英国の主権を取り戻す代わりに、単一市場や関税同盟などのメリットを放棄する、いわゆる「ハード・ブレグジット」を志向している。一方で、メイ政権内や議員の間には、EUとの緊密な関係を維持する「ソフト・ブレグジット」を求める声もある。

今月、メイ政権が提出したEU離脱法案に対して、最終合意の議会採決を保証する修正案が議会で可決されたため、事態は一段とややこしくなった。英政府とEUが合意しても、英議会が土壇場でそれをひっくり返すことが可能になったからだ。

英国がEUを離脱するのは、メイ首相が宣言してから2年後の19年3月29日だ。EU全加盟国が承認すれば延長もありうるが、英国がEUとの最終合意に達さないままで離脱する、いわゆる「クリフエッジ」の可能性もなしとしない。

ドイツの連立政権交渉は越年

ブレグジットのEU側の主役はドイツだ。そのドイツでメルケル政権が不安定となっている。今年9月の総選挙で、メルケル首相のCDU/CSU(キリスト教民主・社会同盟)は第1党となったものの、議席を大幅に減らした。選挙前に「大連立」を組んでいたSPD(社会民主党)が下野する意向を表明したため、メルケル首相は右派のFDP(自由民主党)と左派の緑の党との3党連立を目指した。しかし、それぞれの政策の溝は大きく、各党のイメージカラーを国旗に模した「ジャマイカ連立」への工作は失敗に終わった。

メルケル政権は再び社会党との「大連立」を目指しているが、年明け後に本格化する連立交渉が実を結ぶかどうかは不透明だ。交渉が上手く行かずに再選挙となれば、政局不安が増す可能性もある。

問題は、「大連立」が成立すると、極右のAfD(ドイツのための選択肢)が野党第1党に躍り出ることだ。それを阻止することが、SPDが下野する意向を固めた理由の一つだったが、事態は変わりつつある。AfDが野党第1党になれば、その反EU・反グローバリズムの主張に一般市民が触れる機会が増えるかもしれない。

イタリア総選挙では「五つ星運動」が台風の目に

そして、イタリア。18年3月4日に総選挙が実施される見通しと報道されている。最近の世論調査では、ポピュリスト政党の「五つ星運動」が、連立与党の中心である民主党を政党支持率でわずかながら上回って常に1位になっている。

第1党に議席が多く割り当てられる選挙制度が改正されたため、「五つ星運動」がさらに支持を伸ばしたとしても単独で過半数を獲得する、つまり政権を担うことはなさそうだ。中道右派ないし中道左派が連立政権を樹立する見込みだが、「五つ星運動」が最大野党となる可能性はある。

今年9月に「五つ星運動」の党首に指名されたディ・マイオ氏は、イタリアのユーロ圏からの離脱を主張している。どうやら総選挙では「五つ星運動」が台風の目になりそうだ。

スペインやアイルランドも

本稿が掲載される時点では、スペインのカタルーニャ州議会選挙の結果は出ているだろう。ただ、独立派か残留派のどちらが勝利しても、混沌とした政治情勢は続きそうだ。あくまでスペインの一地方選挙に過ぎないが、同じスペインのバスク地方や英国のスコットランドなどの独立機運を刺激するかもしれない。

アイルランドでは18年の半ばごろに解散総選挙の可能性があるようだ。そして、その結果が、英国とEUとの離脱交渉に影響するかもしれない。アイルランドと北アイルランド(英国の一部)の国境問題が完全決着していないからだ。

欧州通貨にも影響は及ぶか

今年に入ってこれまでのところ、主要通貨の中でユーロがとりわけ高いパフォーマンスをみせている。英ポンドも比較的好調だ。両通貨とも、昨年までの下落基調の裏返しとの見方もできるが、政治の混迷は少なくともこれまでは「売り材料」になっていない。来年の政治情勢がどう展開し、それに対して金融市場がどう反応するのか。大いに注目されるところだ。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフエコノミスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。