セレッソ大阪のエースストライカー、杉本健勇(24)が一世一代の華やかなスポットライトを浴びた。埼玉スタジアムで4日に行われた、川崎フロンターレとのYBCルヴァンカップ決勝で開始47秒に電光石火の先制弾をゲット。愛してやまないセレッソに悲願の初タイトルをもたらし、決勝戦のMVPも獲得した日本代表FWは、人目をはばかることなく男泣きした。甘いマスクの下に脈打つ、熱き浪花節の原点を追った。【前編】

杉本健勇

開始47秒で決めた電光石火の先制ゴール

埼玉スタジアムのピッチに突っ伏したまま、しばらく動くことができなかった。とめどもなく涙があふれてくる。セレッソ大阪のエースストライカー、杉本健勇は男泣きしていた。

「いろいろなものが込みあげてきたので……」

前売り段階でチケットが完売した、4日のYBCルヴァンカップ決勝。ともに悲願の初タイトル獲得をかけた川崎フロンターレとの大一番は開始わずか47秒で、杉本の咆哮とともに大きく動いた。

DF丸橋祐介のスローインを、キャプテンのFW柿谷曜一朗が頭で後ろに流す。まだ試合に入り切れていなかったのか。フロンターレのDFエドゥアルドが、ワンバウンドしたボールを空振りする。

「ボールを回されても焦れずに我慢して、絶対に失点せえへんかったら絶対にオレらにチャンスが来るから、それをモノにしようとみんなで話していた。まさかあそこでミスをするとは考えていなかったけど、オレは『来た!』と思って、とにかくミートを意識して思い切り打ちました」

ボール回しに長けたフロンターレには、リーグ戦で1‐5の惨敗を喫していた。先に失点すれば、攻勢に出るセレッソの背後を突かれてさらに失点する。悪夢の再現を防ぐためにも、先制点が必要だった。

そして、図らずも千載一遇のチャンスが訪れる。目の前にこぼれたボールに決して慌てることなく、相手キーパーの体制を見極めながら、自身から見て右隅のコースを狙って杉本が右足を振り抜いた。

「今年のアイツは、シュートを打てば入るというのがあるから。頼もしいですよね」

柿谷が目を細めれば、過去に“5度”の準優勝に泣いてきたセレッソのレジェンドで、今シーズンからフロント入りしている元日本代表FWの森島寛晃氏も思わず言葉を弾ませた。

「あの1点がチームに大きな力を与えましたよね。勝負強い健勇が、一段と大きく見えました」

仲間たちに捧げた勝利と悲願の初タイトル

電光石火の先制ゴールに勇気づけられたのか。どんなにボールを支配されても、最後の肝心な場面でセレッソの選手たちは体を張り続けた。半ば開き直ったかのように守っては、カウンターに徹した。

迎えた後半のアディショナルタイム。狙い通りのカウンターから、MFソウザが追加点をもぎ取る。数分後に鳴り響いた、初戴冠を告げる主審のホイッスルの直後に冒頭で記した光景が生まれた。

柿谷にねぎらわれてまた泣き、決勝戦のMVPを獲得した表彰台のスピーチでもちょっぴり涙ぐんだ。187センチ、79キロの大型ストライカーはなぜ涙腺を決壊させてしまったのか。理由は2つある。

まずはチームメイトたちへの感謝の思いが、杉本の脳裏を何度も駆け巡っていた。グループリーグから13試合を戦ってきた今シーズンのルヴァンカップで、杉本は決勝の1試合にしか出場していない。

「ましてやベンチにも、一度も入っていなかったので。負けたらルヴァンカップで戦い、この舞台まで連れてきてくれたメンバーにどんな顔をすればいいのか、顔を見せられへんという不安があった」

今シーズンから指揮を執るクラブOBの尹晶煥(ユン・ジョンファン)監督は、過密スケジュールを考慮したうえで、リーグ戦では出場機会のない選手たちを中心にすえてルヴァンカップを戦ってきた。

そして、迎えた決勝では熟慮した末に方針を転換。現状におけるベストメンバーで、セレッソの歴史を変えるための一戦に臨んだ。準決勝までを戦ったチームメイトも、笑顔で杉本たちに夢を託した。

「だからこそしっかりと責任を果たして、頑張らなあかんという思いがあったので」

勝利した瞬間に、重い十字架から解き放たれた。ベンチやスタンドで声をからしていた仲間たちが、狂喜乱舞する姿も想像できた。安ど感と甘いマスクの内側に流れる熱き浪花節が、杉本を男泣きさせた。