NHK連続テレビ小説『べっぴんさん』のクランクアップで流した涙。君ちゃんを演じた女優・土村芳(26)は、以前のインタビューで当時をこのように振り返っていた。

「何とも言い表せないです。達成感と寂しさ、いろいろな感情が……。本当にいろいろなものがミックスされた何かが、フワッと込み上げてきたんです」(2017年4月27日掲載より)

女優の土村芳 撮影:島本絵梨佳

北九州発地域ドラマ『GO!GO!フィルムタウン』(NHK BSプレミアム 10月18日22:00~)。フィルム・コミッションで働く若手職員・北村節子は「自分に向いてない」と悩みながら、1つの大仕事を成し遂げて目に涙を浮かべた。

節子を演じた土村の姿から、先の言葉がよみがえる。「向いてなくても好き」という情熱の火は、節子にも灯されていた。

――前回お会いしたのが約半年前。今回で3度目の取材となります。北九州が舞台となるドラマでしたが、こんなにステキな場所がたくさんあるとは知りませんでした。

ありがとうございます。初めての北九州でした。工業地帯のイメージでしたが、すごく都会的で。1つの街の中にいろいろな景色があって、そういう世界観を楽しめる場所だと感じました。

――フィルムコミッションで働く女性の役。演じてみて、その仕事の印象は? 普段から接する機会も度々あったと思います。

私たちが演じる場所や空間をコーディネートしてくださっているので、これまでの撮影中には詳しく知る機会がありませんでした。今回、役を通してお仕事を体験させていただいたのですが、実際にフィルムコミッションの方々は(北九州の)エキストラの方を総動員してくださったり、頼りになるというか、すごくカッコいい。みなさんを誘導しながら、現場からちょっと離れたところでも何かあった時のためにたくさんの方々がスタンバイしていて。大人数で演出がなかなか行き届かない時にはちゃんと伝えてくださったり、盛り上げてもくださいます。「そこまで?」と驚くぐらい、いろいろな面でサポートしてくださいました。

フィルム・コミッションで働く若手職員・北村節子

――北九州のエキストラを1,000人集めるシーンはとても感動します。自分の仕事もそうですが、いろいろな方々がいてこそ成立していると実感したシーンでした。

そういう部分も作品を通して伝わるといいなと思います。北九州フィルム・コミッションのテーマは「絶対にNOと言わない」。すべての要望を実現させることって、ただ「自分の仕事」としてこなしているだけだと仕事としてしんどくてしょうがないと思うんです。だからこそ、北九州の地域貢献や映画への情熱を持っていないとできない仕事だと感じます。

――指示されての「やらされ仕事」だと当然長続きしないわけですね。

人と人を繋いでいく立場でもあると思うので。毎日違うエキストラの方々が参加してくださっていて、ベテランの方もいらっしゃれば、初めての方もいらっしゃいます。みなさん、そこで自分たちのコミュニティを作って交流されていたりしていて、地元の方の協力を得たり、そういう信頼関係も大事なお仕事で人と人のつながりを楽しんでいる印象でした。

――節子はフィルム・コミッションの仕事をはじめて3年目。「自分に向いてないんじゃないか」という悩みを抱えていますが、こういう立ち止まる瞬間は誰もが通る道だと思います。以前、演じる機会から遠ざかった時期があったとおっしゃっていましたが、節子と同じようなことを考えましたか?

自分の仕事に向いてないんじゃないか……今でもたまにふっと出てきたりするんですけど、その頃と今が違うのは「向いている」「向いていない」が自分にとってあまり関係なくなってきたというか、「向いてなくても好きでやっている」に行き着いたというか。

――とても大きな変化ですね。節子は数々の苦労や成功体験を経て、仕事の魅力に気づいていきます。土村さんが「この仕事をやってよかった」と思うのはどのような時ですか?

いろいろなものに出会えるのはすごくありがたいことの1つだと思います。場所であったり、人であったり全部。私はあまり行動的ではないので、北九州もこのお仕事がなかったら行く機会もなかったでしょうし、そうやって知らないことをたくさん知ったり、学んだり、習得したりすることができるお仕事です。自分の中身を豊かにしていただいていると思います。

――光石研さんが演じた、節子の上司役。いろいろな言葉を投げかけて部下の成長を促していきますが、そのような経験は?

たくさんあるんですが……東京でお仕事をはじめたころ、京都の大学(京都造形芸術大学の映画学科俳優コース)の先生方からは「腐るなよ」とずっと言われました。在学中は直接言っていただいて、上京してからは東京で卒業生が集まる時にも。しばらくはうまくいかないというのも見通されていたからこそ、かけていただいた言葉だと思いっています。

――困難を乗り越える上で、とても大切な言葉ですね。以前のインタビューで、朝ドラのクランクアップで流した涙には達成感や寂しさなど、いろいろな感情が交ざっていたとおっしゃっていましたね。今回のドラマでもクランクアップで涙を流すシーンがありますが、そのことを思い出す名シーンでした。

ありがとうございます。言われてみると近い感情だったかもしれません。監督からはそういう指示もなくて、自然に出てきた涙です。流しちゃいけないと思っていたのでこらえて、それでも込み上げてしまいました。自分と役が混ざっていたかもしれません。

エキストラのみなさんに「お疲れ様でした!」と言うことは決まっていたんですが、それに対するエキストラの方々の反応は自由演技。そこからリアルに聞こえて来る労いの言葉は節ちゃんとしても、自分としても本当にうれしくて。北九州の人々の温かさやエネルギーをすごく感じた瞬間でした。

■プロフィール
土村芳(つちむら・かほ)
1990年12月11日生まれ。岩手県出身。B型。身長160センチ。子ども劇団に所属後、高校在学時に新体操でインターハイに出場。京都造形芸術大学の映画学科俳優コースに進学し、数々の舞台作品や自主制作映画に出演した。2013年3月に大学を卒業後、ヒラタオフィスに所属。これまで、『カミハテ商店』(12)、『弥勒』(13)、『劇場霊』(15)、『何者』(16)などの映画、『フラガールと犬のチョコ』(テレビ東京系・12年)、『ワカコ酒』(BSジャパン・15年)、『コウノドリ』(TBS系・15年)、『べっぴんさん』(NHK・16~17年)、読売テレビ・日本テレビ系ドラマ『恋がヘタでも生きてます』(17年)などのドラマに出演。